やたらと元気な死体です(新ヒロイン視点)
スキエンティア様がため息混じりに協力を申し出て下さると、不安げだったポテスタース卿はぱっと目を輝かせて笑顔になった。
「ありがと! 本当に心強いよ」
ふにゃんとした笑顔のあまりの愛らしさに、今まで不安と焦りでささくれ立っていた心が瞬時に癒された気がする。
もうこの子がヒロインでいいんじゃないかな?
そして私はお役御免で元の世界に返してもらいたいところなんだけど。
スキエンティア様の目元も緩んでかすかに赤くなっているところを見ると、きっと照れておられるのだろう。
つむじのアホ毛もリズミカルにひょこひょこと揺れている。もしかしてこの人、表情筋の代わりにアホ毛が動くんじゃないかしら。
どんどんクールインテリキャラのイメージが崩れていく気がするけれども、今はそんな事を気にしている場合ではない。
結局、この三人だけでは元の世界に戻る方法も女神への対抗手段も調べようがないので、魔術に詳しいパラクセノス先生のところに行くことになった。
「いきなり大勢でどうしたんだ?」
研究室を訪れると、いかにも学究肌といった印象のパラクセノス先生は迷惑気な顔をしながらも私たちを研究室に招き入れてくれた。
「実はかなり面倒な事態が起きているようで、先生のお力を借りたいのです」
スキエンティア様が単刀直入に切り出すと、ポテスタース卿が
先生は伝えられた内容もだが、ポテスタース卿がその呪文を使ったこと自体に驚いた様子だ。
「今の内容が事実だとしたらとんでもない事態だが……それ以前にお前はその呪文をどこで覚えたんだ?」
「実は私は以前にも今と似たような経験をしているのです。『エステル・クリシュナン』という名の自称転生ヒロインが、薬物や魔道具を使ってクセルクセス殿下をはじめとする高位貴族の子息を
「ちょっと待て。そんな話全く聞いてないぞ」
「それはそうでしょう。時間が戻ってからはまだそんな事態は起きていませんから」
「時間が巻き戻った?」
「僕は一度この時間を経験しているんです。その時の彼女は転校した当初から積極的に複数の男子生徒に取り入っては親密な関係になっていました。そして親しくなったクセルクセス殿下に傷害や器物破損などの被害を訴えており、僕が命じられて捜査しているうちに薬物の使用に気づきました。その際にコノシェンツァやパラクセノス先生にご協力いただいたんです。
「にわかには信じがたいが……この呪文は魔導書に載っているようなものではない。一介の学園生が簡単に扱えるはずがないんだ。少なくとも私や私以上に魔術に造詣が深い誰かから教えを受けた事は間違いなかろう」
自分でもかなり荒唐無稽な話だと思うので、胡散臭がられるだけだと思っていたのだが、意外な事に話を聞く気にはなってもらえたらしい。
どうやら秘伝のはずの情報伝達呪文が使えた事と、お二人の日頃の行いのおかげのようだ。
「しかしだな……もしポテスタースが言うように時間が巻き戻ったのであれば、なぜその記憶が我々にはないのだろう? いやむしろ、なぜポテスタースだけ『前回』の記憶を持っているのだろう?」
「ああ、それは僕が死人だからですね」
「「「……!?」」」」
もっともな疑問を呈するパラクセノス先生に、ポテスタース卿はこともなげに特大の爆弾をかましてくれた。
死人ってどういうことだろう?
うっすらと日焼けした肌は血色も良く、唇の色も綺麗な桃色だ。適度に鍛えられた身体の動きはしなやかで、健康体にしか見えない。
「……お前、頭大丈夫か?? 私の目にはどこからどう見ても健康優良児にしか見えんが」
半眼で言うスキエンティア様に内心で激しく同意する。
「いや~、捜査の過程で黒幕を探ってたら女神を名乗る変なモノに出くわしてしまいまして。洗脳されかけたんで必死に抵抗してたら脳を焼き切られて殉職しました」
イイ笑顔であっさり言われ、どう反応したらいいのか途方に暮れる。
なるほど、あっさり信じてくれた訳だ。この人の話に比べれば、私の相談なんて実に平凡でありきたりできわめて常識的に違いない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます