相談してみました(新ヒロイン視点)
「何をそんなに怯えているの? 『ゲーム』とか『転生者』に関すること?」
ポテスタース卿に尋ねられ、素直に相談することにした。
どう考えても私が巻き込まれているこの事態は私一人で何とかできるようには思えない。
それならば力を貸してくれそうな人のことは素直に頼った方が良さそうだ。
うまく伝わるかはわからないが、とにかくおかしな女神と名乗るモノにここに連れてこられたこと、ここが自分が遊んだことのあるゲームに似ている世界だということを精一杯伝えようとする。
意外な事にポテスタース卿はすんなり信じてくれた。
てっきり彼も転生者か何かだと思いきや、以前「エステル・クリシュナン」を名乗る自称ヒロインにさんざんな目に遭わされたことがあるらしい。
しかも万事解決した後に時間が巻き戻って今朝になっていたのだとか。
彼が「信用できそうな人に相談しよう」というので素直についていくことにした。
連れていかれたのは生徒会室。
現れた青髪の少年にポテスタース卿が「話がある」と切り出すと、控室に通された。あんな話をいったいどうやって説明するつもりかと思ったら、呪文一発で済ませてしまった。
何でも高度な情報伝達呪文で、対象者と表層意識のごく一部を共有することによって、思い浮かべた情報をそのまま相手の脳に送り込むのだとか。
ゲーム内では単純な力押しが多くてそんな呪文を駆使するような描写はなく、かなり意外だった。
目の前にいる少年はおそらくゲーム内で寡黙なインテリキャラとして描かれていたコノシェンツァ・スキエンティア侯爵令息だろう。
全体的にクールな雰囲気だが、目尻が下がり気味な瞳は意外に優しげで、ゲーム画面とは微妙に印象が違う。
ふわふわした癖のある青藍色の髪のつむじ付近だけなぜか一房ひょこん、と立ち上がっているのが気になった。あれが伝説のアホ毛だろうか?
クールなインテリキャラにアホ毛というのもなかなかに珍しい気がするが。
にこにこと無邪気に「力を貸して」と言っているポテスタース卿と対照的に、こめかみを押さえて苛立った様子だ。
「......それで、こんな荒唐無稽な話を私が信じるとでも......?」
「うん。コニーは理不尽なことが大嫌いだし、本当に困ってる人がいたら何だかんだ言って放っとかないでしょ?」
二人の温度差がすごい。
ポテスタース卿は時間が巻き戻ったと言っていたから、この後一緒に過ごした時の違いが物事への認識の違いに繋がっているのだろう。
彼もそこに気付いたのか、不安そうに「無理かな?」とスキエンティア様の顔を上目遣いで覗き込んだ。
「疲れてる時にごめん。あんまり無理しないでね?」
西日がいっぱいに差し込む室内は黄金色の光に満たされて、何もかもが黄昏の中に溶けてしまいそう。
溢れる光の中でスキエンティア様を見上げる大きな瞳が微かに潤んでいる。先程までの無邪気で朗らかな笑顔と対照的な心細そうな表情に、見ているだけで何とも落ち着かない気分になってしまった。
この人、男性だよね? なんでこんなに可愛いの?
正面から見つめられたスキエンティア様はなおさら落ち着かなかったようで、表情はさほど変わらないがつむじのアホ毛が落ち着きなく揺れている。
……あのアホ毛、動くんだ。
「構わん。で、俺は何をすればいい?」
やがてスキエンティア様は深々と溜息をつきながらそうおっしゃった。
つむじのアホ毛もため息と一緒にへにゃん、と前に倒れる。どうやら根負けしたらしい。
美少年の上目遣いあざとい。私にはとても真似できそうにない……ヒロインのはずなのに。
そう言えば前世でこの二人のカップリングの薄い本があったな、なんてくだらない事を思い出しながら二人の漫才のようなやりとりをしばし眺めてしまった。
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