僕たちも別人のようです。
とことん非常識な話なのに、文句も言わずに僕の話を信じてくれたコニー。
「お前本当に何も考えずに俺のとこ来たんだな。まずクリシュナン嬢はどうしたいんです?」
苦笑しながらもエステルに話を振って、これからどうしたいのか訊きだしてくれている。
うん、やっぱり頼りになるよね。
「とにかくわたくしは誰かが破滅する道だけは避けたいのです。それから、ゲーム内で『悪役』を断罪していた時の様子を思い出すと殿下や側近の方々ともあまり関わりたくないというか……」
「うわ、ゲーム内の僕らってやっぱり酷い事してたんだ? えっと……どんな感じだったか訊いてもいい?」
怖いもの見たさで訊いてみることにする。
「その……あくまで『ゲーム』の中の話なので怒らないで下さいね? 多分現実の皆さんとは違うと言うか、少なくとも今お話しした感じだとスキエンティア侯爵令息もポテスタース卿もだいぶ印象が違ってもはや顔が似ているだけの別人ですし」
「そこまで違うと言われると逆に興味が出るな。私も伺いたいです」
「……本当に、あくまで架空のお話のことなので怒らないでくださいね? スキエンティア侯爵令息はたいてい無表情というか、仏頂面で皆さんの後ろに無言で立ってました。ご自身で積極的に何かなさるというよりは皆さんと足並みをそろえているだけという印象ですね。ポテスタース卿は、『悪役』を取り押さえている事がほとんどでしたね。殿下の命令に忠実な感じでした」
「ああ、それは間違いなく別人だ。こいつは殿下の言葉でも納得しないとまず従わないし」
「そりゃそうだよ。お仕事だから学内の護衛はするけど、殿下には僕に対する指揮命令権はないもの。だいたいコニーだって殿下に突っ込んでばかりだよね?」
「当然だろう。主君としてふさわしくない言動は問題になる前に諫言するのも側近のつとめだろう。卒業までに自分の考えで行動してもあまり問題を起こさなくなるようしっかり糺してほしいと王弟殿下からも申し付かっているんだ」
「うふふ。やっぱり全然違いますね」
エステルが恐る恐る言う「ゲーム内の僕たち」があまりに現実からかけ離れているので、思わず二人で口々に突っ込んでしまった。
それがおかしかったのか楽しそうに笑うエステル。ずっと硬かった表情がふっと柔らかくなったので訊いてみてかえって良かったと思う。
「もしかすると殿下たちもゲームとはかなり違うのかもしれませんが、万が一を考えると怖くて。できれば元の世界に戻りたいのですが、どうしても無理ならこの世界で穏便に細々と生活できるように手に職つけたいです」
「うん、やっぱり『前回』のヒロインとは大違いだね。前回は『あたしがこの世界のヒロイン、この世界はあたしが幸せになるためにある』って平気で言っちゃう子だったから」
間違ってもこんなに地に足の着いたことは言わなかっただろう。
「うわ、痛々しい人だったんですね。わたくしはとにかく略奪とか処刑とか絶対イヤなので。婚約者のいらっしゃる方とは誤解を招くような事は避けたいです。あと可愛い女の子と仲良くなりたいです。特に悪役令嬢のアハシュロス様とか間近で愛でたい」
……後半、変な言葉が聞こえた気がするが、おおむね常識的な希望だと思う。
うん、同性の友達が欲しいのは僕たちの年頃なら当たり前だし、そもそも同世代で信頼できる人脈を作るのもこの学校に通う目的の一つだし。
「とりあえず、その女神とやらが一体なんなのか、どうして別の世界の人間がこの世界にいるのか調べてみない事にはどうにもならないだろうな」
「じゃ、やっぱりパラクセノス先生に相談してみる? 前回は先生を通して魔術師団長にお世話になったんだ」
「それが良かろう」
結局、みんなでパラクセノス先生のところに行って相談することにした。
そういえばまだ『前回』のことをちゃんと説明してなかった事に気付いたけど、それも先生のところで話せばいいか。
コニーが力を貸してくれることになってすっかり気が楽になった僕は能天気にそう考えていた。
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