おねだりしてみました。

「という訳で、協力して欲しいんだ。力、貸してくれない?」


 生徒会の控え室に押し掛けた僕たちは不機嫌な顔で佇む青藍色の髪の青年に伝説の情報伝達魔法かくかくしかじかで「今回」のエステルの話を伝え、協力をお願いしてみた。


「……よくこんな話を信じる気になったな、この脳筋。というか、この呪文は何なんだ?」


「実は僕、前にも『 エステル・クリシュナン男爵令嬢』と名乗る人が魔道具や薬で殿下たち篭絡して好き勝手やるのに巻き込まれてえらい目に遭った事があってさ。コニーたちと協力して何とか解決して、しばらく平穏に日常生活送ってたのに、なんか気付いたら今朝に戻ってた」


 言いながら、今度は伝えるべき情報を変えてもう一度伝説の情報伝達魔法かくかくしかじかで「前回」の情報を共有する。

 ちなみにこの呪文はものすごく便利な反面、表層意識のごく一部を共有することで情報を共有する呪文なので、気を付けないと自分の感情や記憶なども伝わってしまう危険があって使う時には細心の注意が必要だ。

 殿下が薬漬けにされたことや黒幕がイシュチェルだったことなど、ごく一部の要点に絞って情報を渡す。


「......それで、こんな荒唐無稽な話を俺が信じるとでも?」


「うん。コニーは理不尽なことが大嫌いだし、本当に困ってる人がいたら何だかんだ言って放っとかないでしょ?」


 こめかみを押さえ、半眼になりながら絞り出すような低い声で言う親友に即答してしまってから、しまったと思う。

 入学前に初めて会った時からそれとなく力になってくれてきたコニーだけど、今の話はあまりに常識からかけ離れすぎている。

 軍隊育ちで他の世界に疎い僕は貴族の常識から外れた行動をとってしまう事があって、今までに何度もフォローしてもらってきた。今回ばかりはさすがに呆れられてしまうかもしれない。


「やっぱ無理かな......?」


 急に不安になって、僕より頭一つは長身の友の顔を下から覗き込むと、頭痛をこらえるように深々と溜息をつかれてしまった。

 西日が射し込む室内で、黄昏時の金色の光に照らされた彼はだいぶ疲れているように見える。きっと「今回」もまた生徒会の業務を丸投げされて1人で抱え込んでいるんだろう。


「疲れてる時にごめん。あんまり無理しないでね?」


「構わん。で、俺は何をすればいい?」


「信じてくれるの?」


 苦笑交じりにかけられた言葉に心底ほっとする。


「当たり前だ。お前だって俺が信じると思っていたからこそ、そんな顔してすっ飛んできたんだろう?」


 ふっと笑ってそう言ってもらった瞬間、すぅっと気が軽くなった。

 どうやら朝から訳の分からない事態に直面していて、ずっと一人で悩んでいたから知らない間にかなり気を張っていたらしい。


「ありがと! 本当に心強いよ」



「とりあえず殿下たちにはあんまり近寄らないようにするとして......後はどうしよう? あんまり考えてなかったけど、魔術も絡んでくるかも知れないからパラクセノス先生にも相談したいな」


 気が軽くなると、これから何をすれば良いか、他に誰に相談すべきか次々と浮かんでくるのだから現金なものだ。


「お前、本当に何も考えずに俺のとこ来たんだな」


 苦笑している彼には悪いけれども、最初にここに来たのはやはり間違いではなかったようだ。




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