ピンク頭の彼女の言うことには、この世は乙女ゲームの中らしい。

 何かに異様に怯え、人と関わる事を避けるエステル。


 理由を尋ねても、ヒステリックに「信じる訳がない」と否定するので、ダメ元で「ゲームとか転生者のこと?」と訊いてみると急に脱力してこくこく頷いてきた。

 どうやら正解だったらしい。


「えっと……ポテスタース卿は何をどこまでご存じなんですか?」


「う~ん。実はこの世界がゲームだとか、自分は転生者だって言う人に振り回された事があるだけで、よくわかってるわけじゃないんだ」


「 ポテスタース卿は転生者ではないのですか?」


「違うよ。ただ単に巻き込まれただけ。ただ、なんかキラキラした女神の気まぐれのせいだって事は知ってる」


「キラキラした女神!? それって何か虹みたいな色のすごくかわいい女の子ですよね?」


「君も会ったんだね。自分がこの世界を作ったと主張している、派手でキラキラしててちょっと子供っぽい女の子」


 やはり、あの性悪女神の関係者だったらしい。


「はい、こんな事を言ったら頭がおかしいって思われるかもしれませんが、私は別の世界の住人だったんです。それがあの女神って名乗る人? のせいで、私の住んでた世界のゲームによく似た世界に転生させられちゃって……しかもそのゲームの主人公とされていた人物にされてしまったようなんです」


「ゲームの世界、じゃなくてゲームによく似た世界なの?」


 「前回」のエステルや女神はここを「ゲームの世界」と言ってた気がするけど、この人は違う認識なんだね。

 些細な差かもしれないけれども、なんだかとても大事な気がする。


「あの女神はゲームのことを自分の世界と言ってましたが……人間が生きて生活している以上、単なる電子データのゲームと同じものになる訳はないんです」


「電子データ? ごめん、そのゲームって何なのかがよくわからないんだけど」


「わかりにくくてすみません。私のいた世界はここと違って魔法がないかわりに科学技術が進んでいて、身分制度もあまりない社会だったんです。そこでは電気を利用した機械が普及していました」


「電気というと、雷とか、静電気とか? そう言えば、ちょっと前に脳や神経からの情報が微弱な電気によって筋肉に伝わるって論文が出てすごく話題になってたね。今世界中の学者が実証しようと躍起になってる」


「そう、その電気です。その電気のエネルギーを使った機械が沢山あって、生身の人間ではしにくいような事や、したくない事をさせていたんです。その中に、電気で記録した情報を処理することで人間が一人でチェスのようにゲームを楽しめる機械がありまして」


「なるほどね。魔力の代わりに電気をエネルギーとして利用していたんだね。それで機械が魔力を使って」


「その通りです。私が遊んでいたゲームも電気情報を処理して様々な結果を導き出すことのできる仕組みを使って作られていたんです。その中でも架空の歴史や戦争などを疑似体験できるシミュレーションゲームが好きで、仕事の合間によく遊んでいました」


「ふ~ん。チェスの譜を一人で追いながらいろいろな打ち方をシミュレートするような遊びかな?」


「おおむねそのような感じです。少し話が逸れましたが、こちらの世界ではすべてのものが連動した計算の上で自動的に動いてるわけじゃなくて、一人ひとりそれぞれが自分の意志で自分の人生を生きているはずですよね。だからここがゲームの中の世界だなんてあり得ない」


「なるほど。一理あるね」


 生きた人間の生活している世界は、世界がゲームを内包することはあってもゲームが世界を内包することはあり得ない。彼女が言いたいのはそんなところだろうか。


「だから、あの女神と名乗ってる女の子は現実のこの世界に似たゲームを作っただけじゃないかと思うのです。目的はわかりませんが」


 絶対にろくでもない理由だろう、と小さな声で呟く今のエステル。

 奇遇だね。僕も全くの同感だよ。


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