わかりやすく絡まれました。
三人で食堂に向かって学食の注文の仕方などを説明していると、突然エステルが後ろから誰かにぶつかられて、持っていたトレイを取り落とした。
「あらごめんなさい。なんだか賤民の臭いがひどくってめまいがしてしまって。まさかこの伝統ある学園に賤しい平民が大きな顔をしてうろつくとは思いもよらず、失礼いたしましたわ」
嘲りと侮蔑の笑みを張り付けたご令嬢が高飛車な態度で一息にまくしたてた。
おやおや、こりゃまたわかりやすい。とても高貴なご令嬢とは思えぬ立ち居振る舞いだが。
ふと傍らを見やると、真っ青な顔で俯くエステルと、そんな彼女を見て怒りでぷるぷる震えるピオーネ嬢。
榛色の瞳がギラギラと光っていて、今にも爆発しそうだ。
「いえいえ、こちらこそ失礼しました。まさかこの学園に貴族籍のあるご令嬢を賤民呼ばわりして故意にぶつかるほどうかつで粗暴な方がいらっしゃるとは思わず、全くの無防備でした。今後は気を付けるようにします」
頭に血を登らせた彼女が何か言い出して大ごとにならないうちに、笑顔で軽く流してしまった。
もちろん後片付けをその場の職員にお願いして、こっそりチップを渡すことも忘れない。
言い返されたご令嬢が真っ赤になって口ごもっている間にさっさとその場を立ち去ることにした。
「定食落としちゃったね。新しいのを取ってくるから二人は座って待っていて?」
先に二人に席を取っておいてもらって落とした定食の代わりを持っていくと、もう打ち解けた様子で話をしていたので少しほっとした。
どうも「今回」のエステルは「前回」とあまりに様子が違うので、どう接したものか悩んでしまう。
そもそもなぜ時間が巻き戻ったのかもわからないし、なぜ僕に記憶があるのかもわからない。
うまく機会をみつけて他の人にも記憶があるのか、僕自身は人間に戻っているのか人外のままなのか、何とかして確認してみたいものだが、どうしたものだろう。
「冷めないうちに食べよう。ここの食堂、メニューは少ないけど安いし美味しいからありがたいよね」
声をかけて三人で食べ始める。
「今回」のエステルはテーブルマナーも完璧とは言えないまでもそれなりに綺麗に食べるので、やはり別人なのだと実感した。
「前回」のエステルは良くも悪くも天真爛漫で、誰に対してもあけっぴろげで明るく振舞っていた。その代わりマナーなんて全く気にしていなくて、食べる時もがつがつと好きなものだけを食い散らかしていたので、一緒に食事をしていると正直あまり良い気分がしない時もあったのだ。
「今回」のエステルはとても警戒心が強く、誰に対しても一線を引いているというか、怯えているように見える。その分、マナーについては完璧ではないものの、「礼儀正しく振舞いたい」「周囲の人を嫌な気分にさせたくない」という気持ちが態度に滲み出ているので、一緒にいて不快になることはあまりない。
以前のエステルよりははるかに好感が持てる立ち居振る舞いではあるが、ここまで別人のように変わってしまったのはなぜだろう?
そして彼女は一体何を何ゆえにここまで恐れているのだろうか?
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