覚えているのか気になります。

「そろそろ教室に行こうか」


「……はい……」


 「前回」と「今回」のエステルの態度の違いは気になるものの、いつまでも正門で立ち話をしている訳にもいかない。彼女を教養科に送り届けることにした。


「ポテスタース卿はクラス違いますよね?わたくしは大丈夫ですから授業に戻ってください」


 教室に着いて、「今日は授業に出られないな」と内心憂鬱になりながら一緒に中に入ろうとした時。

 おずおずとした気弱な声ではあるが、作り笑顔できっぱりと言われてしまった。


 う~ん……表に出さないようにしていたつもりだけど、授業を休みたくないのが顔に出てたのかな?

 あからさまに気を遣われちゃって、僕もまだまだ未熟だな……と思いつつも、ここで押し問答をして他の生徒から注目を浴びるのも嫌だし。

 授業に出たいのも本音なのでお言葉に甘えて自分の教室に戻らせてもらった。


 授業料は自分の給料からきちんと払っているわけだし、やっぱり受けられる授業は受けておきたい。

 身についた知識と技術は裏切らない。今後のためにも得られた学びの機会は逃さないようにしたい。


 一応、昼休みには顔を出すべきだろうと教養科の教室に向かったところ、人目を避けるように教室を出るピンク髪の少女に出くわした。


「これからお昼? 食堂に案内するから一緒に食べる?」


 声をかけると困惑したような笑顔と涙目で押し黙られた。

 う~ん……ものすごく警戒されてるみたい。


 お互いに何も言えずにいるうちに、エステルの後ろから栗色の髪を二つに分けてきっちりと編み込んみ、オストマルク名物のプレッツェルみたいな形に後頭部でまとめた生真面目そうな少女が声をかけてきた。


「ポテスタース卿、婚約者でもない女生と一対一で昼食をとるなど、あらぬ誤解を招きます。いったいどうした風の吹きまわしでして?」


 エステルが困っているのを見かねたオピニオーネ・パブリカ伯爵令嬢が助け船を出してくれたのだ。

 巻き戻る前でもピオーネ嬢は親切で人が好い。彼女には「前回」の記憶があるのだろうか?


「これは失礼しました。今日は一日クリシュナン令嬢をご案内するよう、学園長より申しつかっておりまして。とは申せ、おっしゃる通り二人きりで昼食などあらぬ誤解を招いて令嬢にご迷惑をおかけするところでしたね。お声がけいただきありがとうございます。もし差し支えなければ昼食をご一緒いただけますか?」


 ほっとして彼女もいっしょに昼食に誘えば快く承諾してくれた。

 これで校長に言われた仕事もちゃんとできるし、おかしな誤解も招かないですむ。


 やはり彼女と同じクラスの女性に協力して頂けるなら心強い。

 できれば後でピオーネ嬢とお話する機会を作りたいけれども……


 その前に彼女に「前回」の記憶があるかどうか確認しておいた方が良さそうだ。

 さて、どうやって確かめたものか。


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