ヒロインなあたしと新たな攻略対象者?
あたしが持つべき力を取り返しに行っただけなのに、コノシェンツァに殴られて追い出されてしまった。あたしは何も悪くないのに。
痛む頬をおさえながらアッファーリにエスコートされて生徒会準備室を後にする。
頭を打ったせいだろうか、何だかクラクラしてきた。
「痛そうだね、保健室で処置してもらう?」
「うん、連れてってくれる?」
あたしは瞳を潤ませて上目遣いでアッファーリを見つめると、エスコートしてくれていた左腕にぎゅうっとしがみついて胸を押し当てた。
「ちゃんと歩けないくらい辛いの?肩を貸そうか?」
アッファーリが見当外れの気遣いをしてきたのにうんざりする。このあたしがわざわざサービスしてやってるのに気が付かないんだろうか?
保健室につくと、養護教諭に詳しい事情をぼかして打撲の説明をして氷枕を作ってもらう。
「大丈夫かしら?吐き気やめまいはしない?」
「ちょっと頭がクラクラします。ひどいわ……ひどすぎる……」
殴られた頬は腫れてるし、どこかにぶつけたのか唇も切れてしまっている。気が付いたら今更ながらじんじんとあちこち痛んできた。
さっきは怒りに燃えるコノシェンツァの剣幕があまりにものすごく、怖くて感覚が
あまりの悔しさに涙がにじんでくる。
「下位貴族の庶子だからって、女の子の顔を殴るなんてひどいわ。コンタビリタ令息、お相手にしっかりと抗議してちょうだい」
あたしの涙を痛みか恐怖のためだと勘違いした養護教諭が憤ってくれる。
そうだ、きっちりと落とし前をつけてもらわないと。
セルセに明日言いつけてあいつらをシメてもらうのは当然だけど、最近コノシェンツァもヴィゴーレもセルセに何か言われても涼しい顔をしているからあまり効かないかも知れない。
どうすればあいつらを痛い目に遭わせてやれるだろうか。
考えを巡らせていると、保健室の扉がノックされて、学園の職員とおぼしきしょぼいおっさんが養護教諭に何かのメモを渡した。
先生はアッファーリを小声で呼ぶと、受け取ったばかりのメモを手渡す。
「エステル、ごめんね。父上から大至急帰ってくるようにって呼び出されちゃった。
帰り際に騎士科のウェルテクス・ラハムに君を送るよう頼んでおくから、先に失礼しても良いかな?」
「え、そんな……あたしを一人にするの……? アッファーリはあたしが大事じゃないのね?」
まさか先に帰ると言い出すとは思わなかった。そう言えばアルティストもついてくるとばかり思っていたのに追いかけても来ない。
せっかくあたしにアピールするチャンスなのに、二人ともどうしたというんだろう?
「ごめんね、まだ俺は半人前だから、父上には逆らえなくて……家の大事な用事だっていうことだから、急いで帰らないと。その代わり、ラハムにすぐ来てもらうから安心して。先生もいるからエステル一人きりには決してならないよ」
「そうよ、私がついているから安心して。暴力男がいても絶対に追い返してあげる」
なにか勘違いした養護教諭も同調するので、あたしはそれ以上文句を言えなくなってしまった。
何よ、十八にもなって親の言いなりってだっさ。
そんな情けない奴、こっちから願い下げだわ。
あたしが黙って毛布に潜り込むと、眠ってしまったと勘違いしたのか、アッファーリは何も言わずに出て行ってしまったようだ。
ほどなくして慌しい足音がすると、バタンと音を立てて保健室の戸が開いた。
「エステル! 怪我の様子はどうなんだ!?」
力強い低音は最近セルセに気に入られてよく護衛についてくれてる騎士科の首席、ウェルテクス・ラハムだ。
ゲームには名前どころか背景モブにすら出てこなかったが、赤みが強い金髪にがっしりした体躯のいわゆるワイルド系イケメンで、まさにあたしの好みドストライク。
ヴィゴーレが逆らうようになったタイミングでウェルテクスがあたしたちの仲間に加わったのは、もしかするとあまりにゲームのシナリオから外れてしまったから攻略対象者が変わったのかもしれない。
これも修正力ってやつだろうか?
「ウェルテクス、酷いの……っ!! ヴィゴーレが……ヴィゴーレが……」
「あの警邏の派手な奴か!?いったい何をされたんだ!?」
か細い声で訴えると、ウェルテクスは明るい空色の目をひん剥いてあたしの被害を問い質してきた。
「あたしの……あたしの大事なもの取られて……返してって言っただけなのに……」
「殴られたのか……赦せん……」
殴ったのはコノシェンツァだけど、元凶はヴィゴーレだから嘘はついてない。
もちろん殴られたことはムカつくし、きっちり落とし前つけてやるつもりだけど、まずはヴィゴーレをシメて癒しの力を取り返さなきゃ。あと魅了も。
「あたしの仇を討ってくれる? あたしを守って……もうウェルテクスしか頼れないの……」
「もちろんだとも。君さえ良ければテックスと呼んでくれないか?」
胸にすがりついて涙を流してみせれば茹でダコみたいに赤くなって復讐を誓ってくれた。チョロくて助かる。
「ありがとう、テックス。あたし嬉しい……」
これであのムカつく偽聖女も好き勝手できなくなるだろう。
何しろ頭一つ以上は体格が違うのだ。
ウェルテクスが本気を出せば、可愛いだけのヴィゴーレなんてまるで相手にならずにやっつけられるハズ。
身の程を思い知らせたところで返すものを返してもらえばいい。
ついでにあの可愛い顔がボコボコに醜く腫れ上がったところを見物してみんなで嗤ってやろう。
あたしはテックスの胸に顔を埋めたままその光景を思い描き、思わずほくそ笑むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます