ピンク頭と神々の遊戯
あの虹色のナニかと死体(仮)について思い出したところで、小隊長が魔術師団長とパラクセノス先生を連れて帰ってきた。
僕は自分に理解できなかったことも含めて、できるだけ丁寧に自分の言葉で説明した。
あれはどちらも人間の力や理解を超えるナニかだ。それは
話を聞き終えた団長と先生は沈痛な表情でしばし沈黙した。
「……神魔のたぐいとはまた厄介な……」
「人間の尺度では測れんからな。動機も目的も、理解できると思わん方がよかろう」
「どういう事ですか?」
「別に悪気がある訳でもなんでもなく、ちょっとした悪戯程度のつもりでいくつもの国を巻き込んだ戦乱を起こし、世界の半分を焦土にするくらい平気でやる連中だからな。今回もただの退屈しのぎの暇潰しかもしれん」
「本当ですか……一歩間違えば死者が複数出ててもおかしくないって状況なのに」
「奴らにしたら、人が何人死のうが生きようが、たいした差はないだろうさ」
僕が思っていたよりもはるかに異質で理解しがたい連中だったようだ。
「人間どもが振り回されて右往左往する様が面白いんじゃなかろうか。近隣諸国に目立った動きもない。強いて言えば南のエルダで独立運動が活発になって来た程度だがおそらく男爵令嬢はその人外のモノどもに利用されているだけだろう」
「ある意味、危惧していたような事態でなくて良かったですが……別の意味で厄介、ということですか」
もしこれが神魔のお遊びなら、近隣諸国の工作という線は警戒しなくても良いのかもしれない。
「いや、そうでもない。五十年前のカロリング革命を知っているだろう? あれが始まったきっかけは、自分が救国の聖女だとうそぶく女が王太子を篭絡して有力貴族に理不尽な言いがかりをつけて粛清したり、少数民族を弾圧したことだった」
「そう言えば、エステルの言ってる事が妙にカロリング王国の『自称聖女』に似てるなって思ってました」
残念ながら、思っていたより事態は深刻のようだ。
「カロリング王国は結局国がまるごと滅びるだけでおさまらず、西大陸全体の政情が不安定になったからな。もう五十年も経つというのに、未だにかの国の政権も安定しないし、あちこちで小国どうしのいがみ合いが起きたり、いつの間にか大国が小国を飲みこんでいたり。かく言うこのシュチパリアもそのどさくさに紛れて独立したんだが」
「あの時も騒動の発端になった女が『自分は女神に選ばれてこの世界に転生してきたヒロインだ』と主張していたな。狂人の
「どういう事ですか?」
先生がとんでもないことを言い出した。
「つまり、その『女神』とやらが国を引っ掻き回して多くの者が破滅に向かうよう仕向けるために『ヒロイン』とやらを用意したとすれば?」
「……今回は、シュチパリアが国民丸ごと巻き込んで同じように破滅するということですか」
「これだけ火種の多い地域だ、ことは我が国一国ではおさまるまい。最悪このブルカン半島全域が戦火に飲まれるだろう」
「これはまたとんでもなく厄介な相手ですね……」
先生と魔術師団長が代わる代わるに語る恐ろしい予想に我知らず血の気が引いてくる。
「まあ、これもヴィゴーレが虹色のヤツに接触できたからわかったことなので、本当に良くやってくれたと言いたいところだが……」
「逆にわざわざ接触してきたということは、こちらが動いている事に気付かれたという事でもある。下手をするとこのまま逃げられて真相は何一つわからないまま終わり……という可能性も高い」
「そうですか……。あの虹色の奴と首つりゾンビの正体は何かわかりそうですか?」
「正直わからん。ただ、創世神イシュチェルは一般には月の女神と伝えられているが、古い神話には虹にまつわる逸話が多数残されている。彼女を祀る教会の特に古い派閥は自ら「月虹教団」と名乗っているくらいだしな。自称『ヒロイン』が自分を転生させたのは創世の女神だと主張していたそうだし、虹色の奴はイシュチェルに関係のある何かだろう」
「ゾンビの方は……古代の遺跡から三日月型の何かから垂れ下がったロープで首を吊った死体が描かれたものが出土したことがある。詳細はわからぬが、それらの絵には『月蝕の楽園』『生贄として生命と魂を捧げた者たちの安寧の地』という言葉が添えられていたらしい」
そういえば、あの虹色のナニかに魅入られかけた時、僕はすさまじい激痛の中で死を覚悟して「この生命と魂を贄として捧げるから、この虹色の輩の企みを阻止してくれ」と祈った事を思い出した。
その祈りの直後にあの首つりゾンビが現れ、虹色のナニかがそちらに気を取られて、僕は気を失ったんだ。
それを話すと魔術師団長とパラクセノス先生は沈痛な表情のまま顔を見合わせた。
「大変な役回りをさせてしまってすまない。今まで本当によくやってくれた。できるだけ早く決着をつけるから、最後までやり遂げて欲しい」
二人して僕の手を握って大真面目におっしゃるので面食らってしまった。
急に改まってどうしたというのだろう?
「当然です。ずっと当事者だったにもかかわらず、王族に致死性の毒物を投与したり、向精神性のある薬物を投与して洗脳し、権力をほしいままにしようという企みに気付けませんでした。むしろ加担してしまっていたと言っても過言ではありません。
全て決着がついたら僕自身も重い処分が下ることは覚悟の上です。騎士として全うする最後の任務として、責任を持ってやり遂げる覚悟です」
どことなく居心地の悪いものを感じながらも、僕は二人の目をしっかりと見ながら固く誓うのだった。
二人が気まずそうに眼をそらしたことに違和感を抱きながら。
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