ピンク頭と調査報告
エサドと連隊本部に戻ると、まずは小隊長に口頭で報告した。
「やはりアルティスト・アハシュロス公子にお話を伺うしかありませんね」
「問題はご協力いただけるかどうかなんですが……」
小隊長は僕たちの話を聞きながらエサドの書き留めたメモに目を通し、さらに気になる事を書き込んでいく。
「アハシュロス公子と一緒にいたと言う女性は特定できそうか?」
「難しいと思います。昨日僕もその女性とおぼしき人物と接触して、魔導師団から拝借した精神操作系魔法対策の護符を壊されたんです。
それなのに、ゆうべ報告した時はそれが思い出せなくて」
「どういう事だ?」
ちょうど良いので、意見を述べがてら僕が昨日遭遇した女性の事も報告すると、小隊長が珍しく顔色を変えて目をむいた。
それもそうだろう。魔導師団からわざわざお借りした護符が破壊されたということは、この国でも最高の対魔法技術を駆使された護符が通用しない程の強力な魔法を使われたということ。
そんな実力のある精神操作魔法の使い手が、軍にも政府にも全く把握されないまま好き勝手にこの街を
「認識阻害魔法を使われていたんだと思います。彼女の人相風体が全く思い出せません。
それに、その時は確かに『魔法を使われた』って意識していて危機感を抱いていたのに、気を抜くとその事自体を忘れてしまうんです。昨日も帰投した時には思い出せませんでした。
かといって、意識して思い出そうとするとやはり意識が曖昧になって何を思い出そうとしていたか忘れてしまうし」
「それは厄介だな……よりによって魔導師団の護符が通用せんとは」
小隊長が呻くように言う。それだけ深刻な事態なのだ。
「はい。それで壊れた護符を見て思い出した時に、パラクセノス先生に会ったらその事を思い出すように自分に術をかけておいたんです。
幸いまだ忘れていないので、今のうちにご報告しておきます」
「なるほど。このオタネス商会の使用人がアハシュロス公子の命令を無条件に聞いてしまったのもそのせいかもしれないと」
小隊長はエサドの書いた聴取メモを確認しながら僕が懸念している点を言い当てた。
「はい。少なくとも彼がその女性の人相風体を思い出せないのはそのせいだと思います。
問題はアハシュロス公子がその女性にどのように操られているかですね。
簡単な暗示くらいならば大まかな自分の行動くらいは覚えているでしょうが、深く認識阻害をかけられていると、得られる証言のうちの何割が事実なのかが定かではない」
「うむ、それは厄介だな」
最悪、意味のある証言は全く得られず、犯人に都合の良いニセ情報ばかりを並べられるかもしれない。
「いずれにせよ、聞き取りは必要だと思いますが。どの程度深く術をかけられているのか、どんな方向性の術なのか。その効果が一時的なのか長期的なのか。
公子から直接お話を伺う事である程度は見えて来るでしょう」
「この際、公子自身から意味のある証言を得るのは諦めて、公子の反応からどのような術をかけられたのかを探ると言うわけだな」
「はい。それも協力を得られなければ難しいですが」
もともとアルティストは殿下の取り巻きの中でも特に僕を嫌っている。
学園入学前に既に正騎士として叙任を受けていた僕は、彼に言わせると自分の好きな道を好きなように生きている勝手な奴に見えるらしい。
音楽家になりたいのに家に強制されて継嗣にされている我が身と引き比べてその自由気ままな身勝手さが鼻につくんだそうだ。
僕が聞き取りに行くとなれば、公爵家はともかくアルティストが意固地になって何も言わない可能性が高い。
「とにかくあたってみなければ何も始まらん。アハシュロス公爵家には俺から正式 に捜査協力をお願いしておこう。
事がここまで大きくなっていると、組織犯罪を扱う我々第二中隊よりも諜報を扱う
今日は報告書を作ったら二人ともあがっていいぞ」
小隊長はいったん上に報告してどこまでを我々
「巡回は出なくて良いんですか?」
もう上がっても良いと言われたという事は夕方の巡回は出なくて良いのだろうか?気になって訊こうと思ったら先にエサドが質問してくれた。
「お前ら夜勤明けからほとんど休みなしだろ。睡眠不足で動いて判断を誤ると思わぬ危険を招くからな。
今日は余裕があるから巡回は他に任せてきちんと休息を取るように」
どうやら夜勤明けであることを気遣って下さったらしい。
部下想いの上司のお言葉に甘えて今日はしっかり休息を取る事にしよう。
その前に昨日できなかった分の勉強もしてしまわなくっちゃ。
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