ピンク頭と聞き込み調査
午後の授業は何事もなく終わった。
「それじゃ、記録球の確認はお願いするね。僕はすぐに連隊本部に戻ってそのまま聞き込みに出るから」
授業が終わるとすぐ、後の事はコニーにお願いして連隊本部に帰投した。取るものもとりあえず通常の勤務服に着替えると、小隊事務所に顔を出してエサドと合流する。
「今戻ったよ。先方のご都合はどうだって?」
「四時半から時間を取って下さるそうだ。昨日の作業員の方もお一人同行してくださる」
昨日の作業員さんたちは捜査にとても協力的なようだ。
後ろ暗いところがあるなら忙しい合間をぬってわざわざ同行してくれることはないだろうし、巻き込まれただけなのかもしれないな。
もちろん、協力すると見せかけて捜査の邪魔をする可能性もあるから予断は禁物なんだけど。
約束の時間まで少しだけ時間があったので、昨日あった出来事を簡単に書き出してみる。もしかするとまた記憶が曖昧になったり、認識に違いが出てしまうかもしれない。
こまめに書き残しておけば、記憶のすり替えなどがあっても早めに気付けるはずだ。
「作業員の方がいらっしゃったから出かけるか」
集中していたらいつの間にかそんな時間になっていたらしい。すぐに書き物を片付けると同行していただく作業員のサバンさん、エサドと一緒に出発した。
今日お話を伺うオタネス商会は、筆頭公爵家であるアハシュロス公爵家の御用達だけあって貴族街と商業街のちょうど境目付近にある。
十分ほどの距離を一緒に歩きながら、三人でちょっとした世間話に興じる。
そのついでにオタネス商会との今までの付き合いがどのようなものかうかがいながら、今回の依頼について何か違和感を覚えなかったかそれとなく聞き出した。
「いつも商会から使いに来る子だったからそん時は不思議に思わなかったんだよな。でも、後から考えるといつもちゃんと書面で依頼内容を持ってくるのに今回だけ口頭だったって思って」
首を捻りながら言うサバンさんは昨日の作業員たちのリーダー的な存在らしい。
「何でかな?目の前にいる時は全然変だと思わなかったんだ。後から訊かれるとちょっとあり得ないって思うのに」
「オタネス商会ではいつも必ず依頼を書面にしているんですか?」
「ああ、他はなぁなぁなところも多いんだが、あそこはしっかりしてるから。おかげで代金を値切ったり踏み倒されることもないから安心して仕事を請けられる。
まぁ、代わりにふっかけることもできねぇけどな」
なるほど、日ごろはきちんと契約関係を書面で明らかにしている商会なのに、それがなかったんだ。
かなりおかしいと思って不思議はないはずなのに、使いの子がいる時だけ違和感を覚えなかったということは認識阻害でもかけられていたのかも。
もしかすると使いに来たのも本当はその子ではないかもしれないな。
オタネス商会につくと、番頭さんが対応して下さった。
「ご多忙のところをすみません。ご協力ありがとうございます」
きちんとお礼申し上げると四十くらいの番頭さんはニコニコと「気にしないで」と言ってくれた。
やはりゆうべ荷運びを依頼した記録はないらしい。それどころか荷を下ろした船はオタネス商会とは取引がないものだったらしい。
依頼をしたと言う使用人は、今日は朝から他に出ているので戻ってくるまで少しかかるようだ。
もちろん、一方の言い分だけを信じる訳にもいかないのだけれども、書面の欠如などいつもの取引と大幅に違う点が目立つうえに、この件に精神操作魔法を使うものが関わっているのがわかっているため、オタネス商会からの正式な依頼だと考える方が無理がある気がする。
「サバンさんの運送業者とはお付き合いが長いのですか?」
「そうですね。いつも船からの荷下ろしもお願いしていますし、荷の扱いも丁寧ですから。何か急な取引ができたらサバンさんにお願いする事が多いでしょうね」
なるほど。そういえば作業員の三人はみんな昨日も木箱を丁寧に扱っていた。そういった信用のある業者だからこそ長い付き合いができるのだろう。
昨日、今日とサボンさんと接していた時の印象とも合致するし、やっぱり巻き込まれただけのような気がするな。
さて、オタネス商会の方は……番頭さんは実直そうだし、仕事の管理もきちんとしていそうだけど、それだけにやり手の商人という印象。
たしかに真面目な働き者なんだろうけど、他人に本心をうかがわせないようなところがあるから、無条件に信頼してしまうには申し訳ないけどためらいがある。
もう少しよく調べてから判断することにしよう。
「ただいま戻りました」
そうこうするうちに例の使用人が戻って来たらしい。
さっそくお話をうかがうことにしよう。
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