ピンク頭と承認欲求

「お兄さんどうしたの?何か探し物?それとも……」


 いぶかしげに声をかけてきた店員さん。

 ファンシーなお店に似つかわしくないむさい男子が紛れ込んでいたので、不審者だと思われているのかもしれない。

 ここは学園の制服姿のままである事を利用しよう。


「うん、もうすぐ卒業だからちょっと同級生の気になる子に何か贈りたくって。この店、彼女がお気に入りだって前に言ってたから来てみたんだけど、やっぱ野郎一人だと気後れしちゃうね」


 そう返して、頭をかきながらいかにも闊達そうにニカっと笑ってみせる。

 騎士団には平民出身者も多いので、僕の口調は貴族子弟にしてはかなり砕けた方だ。わざわざ言わなければ平民の特待生にも見えるだろう。

 学園に通う平民にとって、同級生の少女たちと交流が持てるのは卒業までの短い期間だ。もう二度と会えなくなる前に記念の品を贈りたいと思っても不自然ではない。


「すごくお洒落で流行りものとか好きな子なんだ。モテるから他の連中もプレゼントしてるだろうし、ちょっと差がつくようなお勧めのものない?

 ……って言っても、学生だからあまり予算は出せないんだけどさ」


「それじゃこれなんかどうかしら?お値段も手ごろだし、キラキラしててかわいいでしょ」


 納得してくれたらしく、笑顔になった店員さんが選んだのは細かく砕いた宝石を練りこんだ赤い軸に金の象嵌を施し、要所要所に小さなピンク色の宝石をあしらった万年筆。

 たしかにキラキラしてて派手好きのエステルが好きそうな品物だ。そのままでは売り物にならない屑石や宝石を研磨した時に出た粉を有効利用しているので、派手な見た目の割には御値段は手ごろなのもありがたい。


「うん、いいね。キラキラしてすごくゴージャス。それじゃ一つもらおうかな?あ、それとこっちもお願い」


 ガラス細工の文鎮を見つけて、そちらも注文する。

 派手な装飾はないが、全体に小花をあしらった繊細な彫刻がなされていて、光を複雑に反射して上品な輝きを放っている。


「ラッピングは一緒でいいのかしら?」


「別々にお願いできる?文鎮の方はお世話になった親戚にあげるから」


「ふーん。それじゃ別々にしとくわね。こっちのピンクの包装紙が万年筆で、白い方は文鎮よ」


「ありがとう。これお代ね」


 ちょうど会計を済ませて包んでもらったものを受け取ったところで、後ろから聞き慣れた声がした。


「あっれ~、ヴィゴーレどうしたの?こんなところで」


 振り返ると、ふわふわピンクのツインテールにハニーブラウンの大きな瞳。

 さっき店の奥に消えたはずのエステルが、店に入る前には持っていなかった大きな紙袋を胸にしっかり抱きかかえて立っていた。ついさっきまで確かに店内にはいなかったのに、どこから現れたんだ?そしてどこで何を買ったんだ?

 慌てて鞄に包みをしまいこみながら振り返る。


「えっと……ちょ、ちょっと探し物。エステルも来てたの?店内にいたの全然気づかなかったよ」


 こうしておけば内緒のはずの贈り物を買っているところを見られて慌てているように見えるだろう。

 鞄にしまいこんだピンクの包装紙が少しだけはみ出しているのは僕のしまい方が下手なせいではない……たぶん。


「あ、それってもしかして?」


 ぎらり。嬉しそうに目を光らせるエステル。

 「もちろんそれあたしへのプレゼントだよね?違ってたら絶対に許さない」という心の声が聞こえてきそうな眼光に現役騎士である僕のハートが震えあがる。

 おかしいな、エステルって健気で可憐で庇護欲をそそるキャラじゃなかったっけ?頭の上の猫がどっか行っちゃってますよ~


「見つかっちゃったんだ。その……明日いっしょに出かけるから。ね?」


 もはやうわべすら取り繕えておらず、ギラギラした欲がむき出しになっているエステルに内心でドン引きしながら、困り顔でピンクの包みを取り出してみせる。きっと、物が欲しいというよりは、自分が折に触れて物を贈られる存在であることを確認することで、自分が価値ある存在だと自他ともににアピールしたいんだろうな。

 ……それだけ自分自身の中身がないって事なんだけど、それを理解できるようであればこんな状態にはなってないだろう。そう思うとなんだか惨めで憐れな存在に見えてくる。

 僕は幼いうちから自分の能力を磨くために修行に励んできたので、自分を磨くことなく上辺だけ他人からの評価を得てチヤホヤされたがる人はどちらかと言えば苦手である。

 そう考えると彼女と僕の相性は最悪だと思うのに、なぜあんなに好ましく思っていたんだろう?なんだかとても不自然に思うのだけど、やはり毒物が関係しているのだろうか?


「あたしのためにプレゼント選びに来てくれたのねっ!?やっぱりヴィゴーレやさしいっ!!大好きっ!!」


 お定まりのパターンで飛びついてくる。うん、こうすりゃ僕が喜ぶとたかをくくってるのは知ってるよ。

 一瞬生温かいまなざしになりかけながら、嫌そうな態度が表に出ないように受け止める。ああもう、こういう過剰なスキンシップは生理的に受け付けないんだけどなぁ……

 どうしてつい最近まで平気だったんだろう?


 ついでに放り出されそうになった大きな紙袋もキャッチ。とりあえず、店内にいる事については怪しまれてないみたいだからそれで良しとしよう。

 ついでにこの紙袋の中身についてもかまをかけてみるか。

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