ヒロインなあたしと課金ショップ
明日は脳筋ヴィゴーレとショッピングデート。
好みじゃないヤツだから一緒にいるだけでテンション上がるって訳じゃないけど、既に働いて自由になるお金があるからねだれば色々買ってもらえる。
だから明日買わせてやるものを選びに街にやってきた。
ついでにクッキーに入れる課金アイテムの「月光の蜜」も買っておこう。
ゲームの中だと攻略対象者の好感度を上げるだけのアイテムなんだけど、実際にこの世界で使ってみるとモブの反応もぐっと良くなるし、攻略対象者と一緒に使うとなんかイイ気分で盛り上がるし、もう手放せない。
最悪な事に今の好感度がいくつなのか、この世界の中だと確認できないんだけど、みんなの反応を見た感じではしっかり上がってるように思う。
いつも切らさないように手元に持っているんだけど、最近立て続けにたくさん使ったから残りが心もとない。
そろそろ卒業パーティーが近いから多めに用意しなくっちゃ。何だか思うように好感度が上がっていないから、思い切ってガンガン使っていかないとね。
課金アイテムショップの店主のババアは「きちんと容量を守るように。くれぐれも使いすぎてはいけないよ」って毎回しつっっこく言ってくるけど、そんなの知ったこっちゃない。こっちは一生に一度の大勝負がかかってんのっ。
ケチ臭いこと言うなし。
……っと、つまんないヤツの事考えて萎えてる場合じゃない。
卒業までもう時間がないんだもの。気合入れてしっかり攻略しなくっちゃ。
気分を変えるために、まず最近人気の靴屋で明日ヴィゴーレに買わせる靴の目星をつける。ゴールドの絹張りで、要所要所に小粒のダイヤモンドが施されたゴージャスなやつ。
こないだセルセから贈られた白地にゴールドの刺繍とダイヤが散りばめられたドレスと合わせたら絶対に決まる。セルセ達と選んだアクセと一緒に全身コーデして後夜祭に出たら、あまりのキラカワっぷりにあのウザい悪役令嬢だってみすぼらしく見えるはずよ。
他には何貢がせようかなー? 腕時計とかいいかも。
この世界じゃ時計ってやたらと高いし、工房に特別なツテがないと買えないんだって。だから悪役令嬢だって持ってるとこ見た事ないんだよね。
見せびらかしたら絶対みんな悔しがること間違いなしっ!!
セルセたちもまだ贈ってくれた時ないから、明日ヴィゴーレに買わせてやればいいよね。
よし、いろいろゲットするものを考えたらだいぶテンション上がって来た。この調子で気合入れていかなきゃ。
おっと、課金アイテムも忘れずに買わなくっちゃね。
そんな事を考えながら、行きつけの雑貨屋「月虹亭」に向かうと、店の奥にあるシークレットドアを開けて課金アイテムショップに入った。
そう、月虹亭は、向きあたしたちくらいの年の女の子が好む安くて可愛くて映えるグッズを売るお店なんだけど、ヒロインのあたしだけはゲームを有利に進められる魔法のアイテム売り場に入ることができる。
そう、ここはこの世界のヒロインであるあたしのためだけにある、この世界でたった一つの特別なお店なんだ。
「おばあちゃん、いつもの『月光の蜜』入荷してる!?急ぎでたっくさん欲しいんだけどっ!?」
店に入るなりあたしは店主のババアにいつもの好感度アップアイテムの在庫を尋ねた。
「もちろん入っとるよ。でも一度にあんまり買うのは勧めないねぇ。あれは一度に大量に使うとショック症状が出て危険だし、短期間に何度も使うと効かなくなる上に中毒症状が出るよ」
「まったまたー♪もったいぶっちゃって。ただの惚れ薬でしょ? いっぱい使ったってなんも起きるわけないって」
「それが起きるんだって、何度言えばわかるんだい? 最悪その場で盛った相手が呼吸困難起こして死ぬよ?」
「はいはーいっ♪いっぱい使うと愛しすぎて息停まっちゃうって? 何そのギャグ笑えなーいっ」
「冗談じゃなくて本当に危ないと何回言えば……」
「はいはいもーいいからっ♪なんかさー悪役令嬢はイジメてこないし、思い切って階段落ちしたらあたしじゃなくて悪役令嬢が落ちて攻略対象にお姫様抱っことか……まじふざけんなっ!!
うまくいかないことばっかでまじイラついてんのっ。つっまんない事ウジウジ言うなし」
いつまでもグジグジつまんない文句言ってくるクソババアをひらひら手を振って黙らせようとするんだけど、クソババアは全然黙っちゃいない。
こいつからしか課金アイテムがゲットできないから仕方なく聞くふりしてやってるけど、いつか絶対に殺してやる。
ただのNPCの分際でこのヒロイン様に楯突くとかマジあり得ないんですけど?
なんならいったんシメて身の程ってやつを思い知らせてやった方が良いんじゃない??
「相変わらず何もわかってないねぇ。そんなことでちゃんとエンディングを迎えられるのかね?クリアイベントも、成績もぜんぜん足りてないみたいじゃないか」
うっさいっての。このあたしは女神様がわざわざ選んだヒロインなんだから、そんな成績とかどうでもいいし、イベントクリアしてないのはちゃんとイジメてこない悪役令嬢のせいで、あたしは何も悪くない。
なんでそんな当たり前の事もわかんないのかな。だからどっからどこまでボンヨーな馬鹿と話すのは嫌なんだ。
「そんな事言ってて、まだ爆弾の話も出てないみたいじゃないか。それじゃ、とてもゲームクリアなんて無理な話だよ」
ウザいババアのタワゴトを女神さまのような慈悲の心で聞き流してやっていたあたしにババアが放った一言は、あたしの思いもしないものだった。
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