ピンク頭と薬物売買

 エステルのクッキーをパラクセノス師がゴボウとすりつぶしてクッキングな検査をしたところ、とんでもない薬が入っていたことが判明して戦慄せんりつする僕たち。

 一歩間違ったら呼吸困難で死んでいたらしい。

 エステルがかなり強引に食べさせようとしていたのであやしいとは思っていたが、ここまで危険なものを盛られているとは思わなかった。


 もう記録球の確認どころではないので、とにかく魔術師団長に報告しようと師団本部に転移。


「この部屋に来る時にはできれば本部の受付を通してからにしてくれないか?

何か術を試している最中だったらとんだ事故になるところだ」


 いきなりな転移に渋い顔をする魔術師団長イケオジにとりあえず伝説の呪文かくかくしかじかを使う。


「なんだと!?そんな危険な毒物を王族に盛るとは……早急にその娘の背後を洗わねばなるまい。薬物の入手経路はわかるか?」


 うん、やっぱり話が早いのは便利だね。


「今のところ不明ですが、知識さえあれば野山や庭園に生える植物からも採取できなくはありません。もっとも、くだんの娘は著しく成績が悪い上に怠惰なので、そのような知識や技術があるとはとても思えませんが」


「いずれにせよ放置しておくわけにはいかん。一刻も早く薬物の入手先を調べてくれ」


 パラクセノス先生の意見を確認した魔導師団長から改めて薬物の入手先を調べるよう指示を受けた僕たち。

 具体的にどうやって調査するかは先生の研究室に戻ってから相談する事にして、僕たちはいったん学園に戻ることにした。もちろん徒歩で。

 

「薬物の入手元かぁ……どうやって調べるかな?」


「本人に訊いてみてはどうだろう?しょっちゅう作ってきては手当たり次第に食べさせていたし、そんなに危険なものだとは知らずに使っているのだろう」


 先生の研究室に着くとさっそく相談を始めたんだけど……たぶん、エステル本人はそんなに危険なものだって知らずに使ってると思うんだよね。

 そう思っていたら先生も同じ意見だったみたい。


「そうですわね。もしこんな大それた毒だとわかっていたら、エステルさんの日ごろの言動から考えると怖くなって使えないか、使うとしたらもっと大げさな演出をするのではないでしょうか。とても気軽に使っているので、ちょっとしたおまじないグッズ程度の認識だと思います」


「薬物だと思わずに使っている可能性はありますね。まぁ、訊いたところで素直に答えてくれるとは限らないでしょうが」


 オピニオーネ嬢も似たような意見のようだ。

 確かにエステルの性格上、危険な毒物だとわかった上で平気で使いこなせるような度胸はないように思う。

 彼女は色々な意味で幼くて器が小さい。


「とりあえずいつものクッキーの礼ということでちょっとした物を贈り、そのついでに世間話として訊いてみるのが無難だろうな。あまりストレートに根掘り葉掘り聞くと怪しまれて入手元に逃げられかねない」


「そろそろ卒業記念パーティーが近いから、その準備にかこつけて話しかければ良いんじゃない?」


  とりあえず本人から聞き出すのが手っ取り早いという見解はみんな同じみたい。問題は誰がどうやって聞き出すのかだけど……


「では聞き出すのはスキエンティアとポテスタースに任せるよ。うまくやってくれたまえ」


 先生投げないでくださいよ。人生投げたらあかんでしょ。


「俺、口下手だからうまく聞き出す自信がありませんよ。ヴォーレ頼んだ」


「だ~め、一蓮托生だよ」


 コニーもしれっと押し付けてこないように。

 まぁ、どんな形で毒物などを使ってくる相手かわからないから関わりたくない気持ちはよくわかるけどね。

 かくして僕たちの「イベントとプレゼントで釣って情報を引き出そう」作戦が開始されたのだった。ちなみに贈り物の費用は経費で落ちるらしい。これ重要。


「エステル、昨日はクッキーありがとう。そろそろ卒業記念パーティーが近いけど……エステルはどうするつもり?ドレスとかアクセサリーとか、必要なら一緒に買いに行こうか?」


「わぁっ、本当っ!?あたし嬉しいっっ」


 翌日のお昼休み、エステルのクラスに行って昼食に誘いがてら買い物に誘ってみる。案の定、大げさに喜んだ彼女は僕の腕にぴょんっと飛びついて胸を押し付けてくる。

 小動物じみた甘える仕草は、つい数日前の僕なら可愛らしいなと喜んだだろう。

しかし、ここ数日の記録球におさめられた彼女の言動を見てしまった今では、この無邪気さが空々しい演技にしか見えなくなってしまった。


「喜んでくれて嬉しいよ。またクッキー作ってきてくれるのかな?」


 僕も空々しい笑顔を張り付けて、心にもないお世辞を言ってるのだからお互い様なんだけど。


「もっちろんっ!!思いっきり気合入れて作るから、いーっぱい食べてねっ!!」


 満面の笑みのエステル。きっとしこたま薬を盛るつもりだろう。


「喜んで。エステルの作るクッキーはちょっとエキゾチックな香りがして美味しいからね。特別な隠し味とか使ってるの?」


「えへへ。ひっみつ~~っ。ちょっとね、とっておきの蜜を使ってるんだよっ」


「それじゃ、それも一緒に買いに行こうか」


「ん~それはいいや。あたしだけが知ってる特別なお店じゃなきゃ手に入らないの。他の人がついてたら売ってくれないかも」


 何だ、その店?あからさまに怪しいな。

 とはいえ、ここでしつこく聞きだそうとすると怪しまれてしまいそうだ。しっかり見張って買い出しに行くときに尾行すれば良いか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る