ピンク頭と機能不全の生徒会

 今日はいつもより気合いが入っていたおかげか、訓練で小隊長に褒められてさらに気分が上がりまくりである。

 いや~、快調快調。


 せっかくの良い気分なのでおかしなものは見たくないけれども、約束なので記録球は確認しなければならない。とはいえ、残念ながら仕掛けた記録球にはどちらも取り立てて気になるものは何も映っていなかった。

 やはり僕が見かけた時にはもうエステルは何かした後だったのだろう。


 生徒会室に行ってみると、今日も扉の前でオピニオーネ嬢が待っていた。二人で呼ぶといつもよりヨレヨレになったコニーがふらふらしながら現れる。


「コニー……なんかボロボロになってない? どうしたの?」


「そろそろ卒業記念パーティーで使う食品や花などを発注せねばならんのだが……

通常業務もいつも通りこなさなければならんので時間が足りないのだ。しかも、なぜか生徒会の予算に使途不明の出費があって、このままでは予算が足りん」


「うっわ……全部一人に押し付けといてみんな何やってるわけ?」


 他の連中、昨日も誰もいなかったよね? というか使途不明金ってナニ?


「殿下たちなら今日はエステルと一緒に平民の間で評判という噂の舞台を視察に行った。下々の者の流行を知るのも為政者の義務だそうだ」


「……ぉぃ、なんだよその屁理屈……」


 思わず低い声を出してしまった。

 生徒会、まともに機能してないじゃないか。コニーいなかったら終わってるぞ。

いくらなんでもヤバイんじゃないのか?結局、使途不明金ってナニなんだ?ちゃんと卒業記念パーティーできるのか?


「あのさ、コニーも押し付けられたからって何でも一人でやってちゃそのうち倒れるよ。生徒会の業務って言っても個人情報扱わないものもあるよね? どうしても外部の者に見せられないものだけは仕方ないけど、そうじゃないやつは手伝わせてよ」


「いやしかし、お前も勤務があるだろう?」


「大丈夫、体力は有り余ってるから。コニーとは鍛え方が違うの、鍛え方が」


「……わかった、何か受け持ってもらえないか考えておく」


「よろしくね。考えておくだけじゃなくて、ちゃんと割り振ってね」


 コニーも納得してくれたところで、今日も生徒会準備室で記録球を確認することにした。校舎裏と階段、ロッカールームには何も映っていなかった。


「今日はエステルさんの体操服がなくなったそうですが、何も映ってませんわね。わたくしが登校する前に持ち出されたのでしょうか?」


「だろうね。今朝早く、連隊本部に向かってる時に校舎裏でコソコソしてるエステルを見かけたよ。お昼に体操服がなくなった、って殿下たちに泣きついてたからもしかして?って思ってその辺を掘ってみたんだけど……案の定、彼女がうろついてた付近の土の中に埋められてた」


「え……それじゃまさか自分で??」


「わからない。今のところ状況証拠だけだから。」


「なるほど。いろいろと疑問が生じてきたようだな。とにかく、教室の分の記録球も確認してみよう」


 最後にコニーが仕掛けた教室の記録球だが……あんなに早朝から動いているなら、こちらも望み薄だ。

 ……と思いきや、なぜだか薄暗いうちから画像が始まっている。


「コニーいったい何時に記録球しかけたの?」


「……昨夜は泊まり込んだから、明け方だと思う」


「……やっぱり無理しすぎ。今日は絶対に手伝わせてもらうからね?」


「お話の腰を折って申し訳ありませんが、こんな時間なのに誰か映ってますわよ」


 オピニオーネ嬢に促されて慌てて画面を見ると、明かりもなく薄暗い教室で誰かがゴソゴソしている。ちょうどエステルの机のあたりだ。

 どうやらお目当てのものが見つかったようで、ビリビリと紙を破くような音が聞こえる。


『ああもう、ほんっとにムカつく。悪役令嬢はちゃんとシナリオ通りに動かないどころかあたしのイベント横取りするし。イイ子ぶっちゃって、おかげで攻略が進まないったら』


  誰もいない明け方の薄暗い教室で、エステルが喚き散らしながら自分の教科書を引き裂いている。このキイキイ喚く金切り声が彼女の本来の声なんだろう。

 やっぱり教科書も自作自演だったようだ。予想はしていたけれども……やっぱりキツイな。


『まさかアイツも転生者だったりする? 逆ざまぁとか狙ってる感じ? あ、でも攻略とか全然してないよね。攻略者と特に親しいって感じしないし、取り巻きも女ばっかだし。あ~もう訳わかんない』


 ん?何か変な事言い出したぞ。

 いや、もともと変なんだけどさ。


「転生者って何だ?」


「俺も聞いたことがあるだけだが、ごく稀に別の世界で生きていた時の記憶を持っている人間がいるらしい。死んだら魂は天界か地獄に行くと言われているのに妙な話だが」


「わたくしも初めて伺いました。エステルさんのおかしな様子は、別の世界の住人だからということでしょうか」


「あそこまで異様だと、確かに価値観や倫理観が全く違う世界の住人と言われても納得がいくな。その世界ではこうやって他人に罪をなすりつけて陥れるのも悪事ではないのかもしれん」


 う~ん……そんな世界かなりイヤだね。

 でも、エステルの異質さは別の世界の住人だからって言われるとしっくり来る。きっとそこに住んでるのは人間じゃなくて小悪魔とか邪鬼とか、なんかそんな感じの妖怪みたいなものなんだろう。


 何はともあれ、あとでパラクセノス師に報告するついでに相談してみよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る