ピンク頭と映像記録

 思わぬハプニングに見舞われたものの、今日はその後は特にトラブルもなく授業を終えることができた。

 コニーたちとの約束通り、夕方の訓練に参加してから校舎裏の記録球を回収し、ダンスホール前の階段のものと一緒に内容を確認する。


 まずは階段。

 エステルが自ら階段を飛び降りてからアハシュロス公女に助けられた場面も、踊り場でしりもちをついたまま鬼のような形相で公女を睨めつけている表情もしっかり写っている。これならばもしエステルが「突き落とされた」と主張しても相手にされないか、彼女がうっかり足を踏み外したのを公女のせいだと勘違いしたようにしか見えないだろう。


 そして校舎裏。

 懲りずにアハシュロス公女を呼び出して一方的に吠えているエステルが映っている。よほど階段で罠にハメ損ねたのがお気に召さなかったのだろう。

 音質が悪く途切れがちだがキンキンした罵声も録れている。

 ただ、僕たちが聞きなれた甘い声とはあまりに違うので、知らない人が聞いてもエステルの声だとは思わないかもしれない。


 とりあえずこの画像をどうするかコニーに相談すべく、生徒会室に向かうとカバンを大事そうに抱えたオピニオーネ嬢と会った。


「わたくし、記録球を確認していてどうしても気になることがございまして……

ご相談したいと思っていたところですの。スキエンティア様のところにいらっしゃるなら、わたくしもご一緒してもよろしいでしょうか?」


「もちろんです。僕もオピニオーネ嬢のご意見も伺いたいと思っていたところですので」


 オピニオーネ嬢はお人好しではあるが生真面目な人物だ。

 立場の弱いはずの平民であるエステルに頼られて、つい彼女の言葉を信じ込んでしまっているようだが、実態を自分の目で見ればきっと力になってくれるだろう。

 二人に記録球の画像を見てもらって一緒に今後のことを考えよう。


 生徒会室前ではちょうどコニーとアハシュロス公女が話し込んでいるようだった。


「こんな遅くまで生徒会のお仕事お疲れ様です。他のメンバーはどうなさったのですか?」


「今日はクリシュナン嬢が下町で買い物をしたいと言うので皆で護衛しています。まぁ、通常の業務でしたら私一人で充分ですから」


「殿下や側近の皆様にも困りましたわね。せめてわたくしがお手伝いできればよろしいのですが」


「お気持ちはありがたいのですが、生徒会室に部外者を入れる訳にはいかないのです。高位貴族の子女の個人情報も扱いますので。お気遣いありがとうございます」


「お力になれずごめんなさい。どうかあまり根を詰めすぎないでくださいまし。それではわたくしはこれで……ごきげんよう」


 本当に申し訳なさそうな表情でカテーシーをして踵を返すアハシュロス公女。


 生徒会の業務はコニーがずっと一人で切り盛りしている。公女はそれをよく思っていないのだろう。

 殿下が「アミィが生徒会メンバーでもないくせに業務に口をはさんでくる」と言ってたのはこの事だったのか。そりゃ、一人に仕事をおしつけて遊び歩いてる殿下たちが悪いだろう。


 公女が立ち去るのを待って、僕とオピニオーネ嬢はコニーに声をかけた。


「ごきげんよう、スキエンティア様」


「こっちの受け持ちの記録球は回収したよ。ちょっと気になるものが映ってるから一緒に確認してくれる?」


「わかった。俺も教室にしかけた記録球を回収するから一緒に確認しよう」


 三人でエステルのクラスに行き、役員でなくても入れる生徒会準備室で確認することにした。

 まずは今回収したばかりの教室の記録球。こちらは特に異常はなし。次は階段か校舎裏の映像を見てもらおうかな?と思ってたんだけど……


「わたくし、実はちょっと信じられないものが映っているのを見てしまいまして。見間違いではないかお二人に一緒に確認していただきたいのです」


 思いつめた様子のオピニオーネ嬢に先を越された。


「ぜひ拝見させていただこう」


 さっそく必要なところだけ再生してもらう。……ほら、全部再生しちゃうとご令嬢がたの着替えシーンがばっちり映っちゃうから。

 記録球はエステルのロッカーの真上に仕掛けたのだろうか?見下ろすような角度でロッカーの扉や床が映っている。

 今のところは人気がないようだが……あたりを伺うように入ってきたストロベリーブロンドの人物。

 これだけ特徴的な髪はエステルで間違いないだろう。


『ったくムカつくムカつく超ムカつくっ!!』


 だいぶお怒りのようだ。いつものきゃぴきゃぴした甘い声ではなく、キンキンした地声になっている。


『悪役令嬢の分際でなんなのよ!?あれだけ言ったのにイジメてこないし。あげくの果てに何アレ?

 あたしをかばってヴィゴーレにお姫様抱っことか。っざけんじゃないっての!!』


「こ……これが本当にエステルか……??」


「わたくしもにわかには信じられませんでした」


 二人ともドン引きしてる。

 うんうん。僕もこの目で見なければ信じなかったと思うよ。

 これでエステルの本性をわかってもらえる、そう安堵してにんまりしかけたんだけど。


「実は、お二人に見ていただきたいのはもっと後ですわ」


 え?まだあるの?

 現時点でも充分に衝撃的だと思うのに、まだとんでもない映像があるらしい。


 なんだか怖いもの見たさで怖いものを見る羽目になりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る