ピンク頭と魔術教師

 パラクセノス先生の研究室を訪ねて、エステルへのイジメの証拠を押さえるのを手伝ってほしいとお願いすると、先生は真意を探るようにじっと僕の目を見つめてきた。


「それで、何をどうして欲しいんだ?」


 僕の思惑が見透かされてるんじゃないかと冷や冷やしていると、いい加減おかしな汗が出て来そうになった頃に具体的に何をどう協力して欲しいのかと訊ねられた。


「とりあえず、彼女から聞いている今までの被害を参考に、嫌がらせされそうな場所に記録球を仕掛けます。現場を録画しておけば動かぬ証拠になるでしょう?

 ただ、本人には絶対に内緒でお願いします。彼女は仕返しが怖いからと証拠を残すことを極端に嫌がってますので」


「わかった。では私の試作品を使うと良い。

 従来品の記録球は仕掛けると録画要領限界まで録画を続けるが、これはモニター用の水晶球に画像を送って好きなタイミングで遠隔操作できるのだ。しかも録画したデータを別の記録球に複写できる。

 試作試験の名目でいくつか貸し出すので有効に使ってくれ」


 うわ、先生すごい、まじ天才。なんか超ご都合主義な気がするけど気のせいだろう。

 数が少ないのと記録できる容量が少ないから、うまく使いこなすよう心がけなければ。


「ありがとうございます、きっと役立てます」


「うむ、使用後に使用感や改善点などをレポートにするように」


 うわレポート書くのか。めんどくさいからコニーにやらせよう。

 いやもちろん冗談だよ?


 放課後、パラクセノス師から試作品を受け取った僕はコニーやオピニオーネ嬢と合流して作戦会議をした。

 まず、二人に他言無用である旨を念押しする。万が一エステルに知られてしまっては尻尾を出してくれなくなるからね。


 幸い、エステルが証拠集めを嫌がっているのは二人ともよく知っているので、パラクセノス師以外には口外しないと誓ってくれた。

 実際はエステルを守るためではなく、彼女の悪事の証拠を集めるためなので、騙しているようで少しだけ胸が痛むけれど、二人とも真面目で正義感の強い人だから、事実を知れば怒りはしないと思う。少し傷つくと思うけど。

 ごめんね、と心の中だけでこっそり呟く。


「とりあえず普通の記録球と先生特製の遠隔操作可能な記録球があるから、何をどこにしかけるか決めようか」


「教室は普通の記録球で良かろう。早朝から放課後人がいなくなるまで記録してお、生徒会の業務が終わったら俺が確認しておく。何もなければリセットしてまた翌朝起動すれば良い」


 たしかに生徒会業務の大半をほぼ一人でやってるコニーが学生の中では一番遅くまで校舎内にいるだろう。そちらは任せて大丈夫そうだ。


「わたくしは女子更衣室に普通の記録球をセットしますね。内容はわたくしが確認して、何事もなければリセットしておきます」


 さすがに女子更衣室に僕たちが入ったら間違いなく覗き扱いだからね。彼女にお任せするしかなさそうだ。


「あとは校舎裏に呼び出されたり、階段で突き落とされそうになったそうだから……校舎裏にも普通の記録球をしかけようかな?僕は早朝と放課後に校舎裏を通って連隊本部に行き来するから、朝セットして帰りに確認するよ」


「そうですね。それでお願いします」


 あとは階段だけど……


「階段で危害を加えられかけたというのは俺も聞いたが、エステルのクラスはほとんどの授業が一階だよな?階段なんて使うのか?」


「学年合同のダンス授業は講堂の二階ですから、そちらでは?」


「もし本当に突き落とされたら命にかかわるよね。こっちは遠隔操作でモニタもできる先生特製のを使おう。何かあったらすぐ駆けつけられるようにモニタは僕が持っていて良いかな?」


「そうだな。俺ではまず間に合わん」


「わたくしも、力不足でお助けできませんわ。お願いできますかしら?」


「それはもう任せておいて。それじゃ二人もセットと確認よろしく頼むね」


「「了解」」


 無事に話がまとまったのでそれぞれが自分の受け持ちの場所に記録球を仕掛けることにした。


「お前、何か隠してないか?」


 持ち場に行こうとして、おもむろにコニーに呼び止められる。


「え?何が?」


 真剣な顔で問われて一瞬ぎくりとするが、表に出さずにいつも通りの笑顔で振り返った。


「エステルのイジメについては今までもさんざん訴えられてきたのに、証拠集めどころか調査する気もなかっただろう?学園内で勝手に動くと自治の侵害になるから勝手なことはできないと。いきなりどうしたんだ?」


 あちゃ~鋭い。いや、急にこんな事言い出したら不審に思われて当然か。


「殿下に犯人を探して厳罰を与えよって命じられてさ。それで証拠を集めて来いって。だから仕事じゃなくてあくまで殿下の個人的なお願いって形」


 見透かされてるなら話は早い。変に伏せずに正直に話すと嘆息された。まぁ、今までも殿下の我儘にはさんざん振り回されたからね。


「まったくあの人は……いいか、くれぐれも無茶するんじゃないぞ?」


「ただのイジメの証拠抑えでしょ?そこまで大事にならないって」


 笑って答えるとまた嘆息される。


「何を能天気な。この件には何かと不審な点が多い。くれぐれも用心しろよ」


「え?コニーはエステルを疑ってるの?」


「お前はどうなんだ?全く相手にされてないのにアハシュロス公女を目の敵にしたり、卒業記念パーティーで事を荒立てようとしたり。あからさまに怪しいだろう」


 いきなり核心に迫る事を言われて、思わず目を瞠る。優秀な奴だと思っていたけど、ここまで鋭いとは。


「ダルマチアとの関係悪化を狙う輩がいるかもしれん。くれぐれも用心しろよ。お前の奥の手は命を削るんだから」


「ありがと。危ないと思ったら上司に相談するよ」


 僕も認識が甘かったかもしれない。気を引き締めてかからねば。

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