実家のトイレ

@sa5uma

実家のトイレ(一話完結)

皆さんは子供の頃、トイレが怖くありませんでしたか。

私は怖かったです。


自分を便器の中に引きずり込もうとするかのような、流れる水の轟音に焦りと恐怖を感じました。

私は流れる水の音が怖くて、よく水洗のレバーを動かすと同時にトイレを飛び出し、ドアを勢いよく閉めてました。トイレで用を足してきたものの、手を洗わなかったということで手をグーにして1階にある洗面所にまで行ってました。

手をグーにした私を見て、父が「トイレに行ってきたのか」と笑顔で聞いてきたのも記憶にあります。


前置きが長くなりました。

先ほど私は、流れる水の音に恐怖を感じたと申し上げましたが、もう1つ何とも言い難い恐怖を感じたものがあります。


それは、トイレの「扉」です。


今回はその「扉」に対して感じた恐怖を書きました。



私が小学生の時に実家で体験した話。

私の実家は二世帯住宅で、1階と2階にトイレがある。

基本的には、1階のトイレは同居している祖母が使い、

私と私の家族は2階のトイレを使っていた。


ただ、その2階のトイレを当時の私は苦手に感じていた。


理由はトイレに近付くと、誰も入っていないトイレの扉から

「カチャッ」と音が鳴るのである。

ただ扉が開くわけではない。


また、用を足しに行こうとトイレに向かう時だけではない。

ただトイレの前を通った時も毎度ではないが、「カチャッ」と無機質な音が鳴るのである。


小学生の時の私は少し気味悪さを感じていたが、

扉のネジが緩んでいるだけなんだろうと考えるようにしていた。

私は2階のトイレの扉のネジが緩んでいると父に言った。

父は仕事が休みの時に見てみると言ってくれた。


休日、私は父がトイレでドライバー片手に作業しているのを少し離れて見ていた。

作業後、父は言った。

「ネジは特段緩んではいないけど、一応きつく締めたよ」


私はなんで扉から音が鳴るんだろう、家がもう古いからかと考えていたときだ。


「でも、音を聞いてるの○○(私の名前)だけだぞ、

 俺もお母さんもそんな音聞いたことがない」


たしかに


毎度ではないが扉から音が聞こえるとき、

時間も昼夜も不規則だ。季節も問わない。

トイレの用を足すか、足さないかも問わない。


ただ音が鳴るときに1つだけ条件がある。



音が鳴ったとき、そこには私しかしないのだ。



2階に私と誰かがいるときは絶対に音がならない。

何とも言えない不快感が私を包み込んだ。

ただ、実害はないし特にこれといった恐怖体験もないので、

我慢して2階のトイレを使うことにした。



しばらくして、私は自室で漫画を読んでいる時、トイレに行きたくなった。

自室を出て、トイレに向かう。


トイレの扉まで、残り2メートルというところで


「カチャ」


音が鳴った。


少し私は立ち止まったが、まあ、特段実害もないし、今更もう慣れた。

早く用を足して、漫画の続きを読みたい。

そう考えながら、ドアノブに手をかけようとしたとき。



「 ガ チ ャ ァ リ 」



また、扉から音が聞こえたが、いつもと違う。

たしかに木製の扉と金属であろうドアノブが織りなす無機質な音ではあるが、何か違う。

ねっとりとしたような形容しがたい不快感も混じっていた。


そして、2、3センチ、もしかしたら1センチぐらいかもしれない。

ほんの少しだけ扉が開いた。

この状況ですでに最悪なのに一番最悪なのは、ドアの構造と私の体勢だ。


扉が開いたときに嫌でもトイレの中が見えてしまうのだ。



そして、開いた扉から隙間を見てしまった。

隙間から見えたトイレ室内は何も見えなかった。


いや、違う。おかしい。

肩と首の付け根の間から悪寒が後頭部に登っていくのを感じた。



黒だ。



圧倒的な塗りつぶされた黒い世界だ。ただそれだけ。

照明が点いていないことによる、薄暗闇ではない。


その先には何があるのだろうか。とも思ったが、

回れ右して私はつぶやく。




「1階のトイレ使おう」







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