最終回 勇者は、今…………。
――――”プロジェクトGOD”。
それは、セルピナが流してくれた映像の中にでてきた単語だ。
彼女が流した映像によると、この世界は、太古の昔の恐竜時代、巨人の時代、超人と呼ばれる者達の時代、超人と人間のハーフの時代、ヒトザルの世界、魔法文明の発達した人類、機械文明の発達した人類、魔法と機械両方が発達した人類という合計8つの世界が誕生と崩壊を繰り返して現代の魔法機械の文明世界が成り立っているのだという。
また、更にこの現代に至るまでの間に、人間や生物が絶対に目にできない最終進化を遂げた未来の人類の姿。通称、精神情報不可視集合体――”ヨハネ”が宇宙創成の時代から人々が”ヨハネ”となるその瞬間までの何億というとてつもない年月の間をずっと監視していて、彼らの手によって神や、宇宙人などといった存在が作られ、この世界に秩序をもたらしていったのだった。
プロジェクトGODとは、そのヨハネ達が作り出したシステムの1つ。人類に理性と信仰心を植え付けて、争いの起こりにくい世界へしようというヨハネ達の目的の元で
――――――そして…………。
「…………セルピナが、俺の…………ヨハネとなった未来の俺が作った神……」
アランは、口をポカンと開きっぱなしにして、間抜けな表情で天井をボーっと眺め続けた。
そんな彼の様子に気づきながらも、少女は話続けた。
――――アタシは、主に作られた存在。アタシと主は仲が良かった。……お互いに何十億年という長い年月の中でたっくさん話をした。人間の事、魔法の事、それに好きな恐竜の事とか、好きな人間のタイプについてとか、そんなどうでも良い話まで2人でいっぱいしてきた。
「…………」
――――でも、そんなある日。アタシの存在が消えそうになってしまった。………………原因は、
「…………!」
――――え!?
――――もし、主が本当に自殺に成功してしまった場合、歴史は変わって、ヨハネとなった主がアタシを作らなくなってしまう。…………アタシは、その時ふと心の中がモヤモヤして……目の辺りが急に熱くなってきて……それで、思い立ったんだ。…………過去の主が、完全に窒息して死にきる前に、アタシがこっちの世界まで飛ばして……とにかく、主が自殺して死ななければ、その事実さえあれば……歴史が変わる事はないから…………。
「…………セルピ―」
アランの天井を見つめるその目が緩みだし、彼の心の中に同情が生まれた。…………決して血の繋がりがあるわけじゃないこの少女。しかし、だからといって自分に無関係というわけではなかった。――彼は、自分の過去の行いを思い出して、反省の念でいっぱいになった。
――――――が、しかし……。ここで、1つアランの中に疑問が生まれた。
「…………なぁ、セルピ―」
――――ん?
「…………君が俺をこの世界に連れて来た理由は分かったよ。そこは、その…………申し訳ないと思ってるよ。……けど、じゃあなんで、俺にこんな事を教えて、ここまで連れて来たんだ?」
――――主が死ななければ、未来でアタシが作られなくなる事はなくなる。それは確かだった。…………けど、アタシが主の自殺や自殺願望邪魔して止めた場合、未来がまた一つ分岐したんだ。
「それって?」
――――1週間以内に、主を”ヨハネ”にできなければ、アタシは生まれなくなる。
「……!?」
――――でも、やっぱりそういう事…………。
――――わざわざこんな世界に転移させた事は、申し訳ないと思っている。しかし、こうするしかなかったんだ。なんとかして、無理やりにでも主をここまで連れてこなきゃいけなかった! アタシを許して欲しい! アタシは、ただ主との思い出を忘れたくなかった。消えたくなかった! 主と一緒にいたかったんだ!
「…………セルピナ」
――――ヨハネになるための魔法は、アタシが知っている! 後は、主が覚悟を決めるだけなんだ! 頼む! アタシを1人にさせないでくれ!
アランは、天井を見つめながら1人考え出した。
――――セルピナは、必死だったんだ。一番大変な思いをしていたのは、彼女だったんだ。…………最初会った時は、サバサバした死神だったけど、あの時だって必死に怖い死神を演じようとしていたんだ。……きっと本当は、あの見た目通りの幼い部分を持った少女なんだろう…………。
アランは、目を閉じて覚悟を決めようと、深呼吸を始めた。
――すると、彼の心の中に様々な思い出が走馬灯のように蘇ってくる。
*
「こっ、これって!? まさか! 死神!?」
「…………俺の、俺の人生は最悪だった」
「…………着いたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「現実見ろよ。ミミズ野郎! この世界にはもう、冒険者ギルドも異種族もダンジョンも貴族も奴隷制も何もかもないんだよ! テメェがここへ来る12年前に全て終わっちまったんだ!」
「…………君、かっこいい見た目してんな。見ない顔だが、新入りか?」
「仕事を……貰ってきてくれる?って、言ったのか?」
「…………ダメよ新入り君。こんな
「…………私、セリノ。これからよろしくね! アラン」
*
「…………セリ……ノ」
その時、アランの中で1人の大切な人の姿が思い浮かんできた。
「…………セリノ」
――毎日毎日、次の日の分まで食べちゃうのは一体誰よ
「……セリノ」
――夫婦じゃない!
「セリノ」
――お願いだから、今度こそ行かないで。アラン。
「セリノ!」
────主?!
その瞬間、アランはその場から出て、駆け出した。
「セリノ! セリノぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
――――帰ろ! アラン
彼女の言葉と表情が彼の脳内にちらつく。
――――そうだ。俺には、まだセリノという人がいる。彼女をおいて、あんなよく分からないものになんてなれない! せめて、彼女と……あの子と最後に…………。
彼は、物凄いスピードでダンジョンの先の入口の方角を目指していった。
――――待て! 主よ!
少女の言葉が、彼の脳内に響く。…………姿は、見えないのに何故か後ろから追われているような感覚を覚えて、彼の足がさっきまでの魔力切れを忘れたように、早く早く動き出す。
「セリノ! 俺、帰るよ! 言われた事を無視して本当にごめん! …………帰るよ! 一緒に帰ろう! 帰って、またご飯を食べよう! ……食材がないなら、あの汚い町へ買いに出かけよう! 雷鳥の卵の目玉焼きだけでも構わない! とにかく帰ろう! 俺、今度こそまともに働く! だから、かえろう!」
――――――そして、彼はとうとうさっきの場所まで到着した。全速力で走ったためか、少し咳込んでしまい、呼吸を整えようと彼はしばらく下を向いていた。
呼吸を整え終わると彼は、すぐに物凄い死臭がする事に気づいた。
「うっ……!」
――――きっと、さっき倒したキマイラの奴の臭いだろう。
そう思って彼が顔を上げると、そこには彼の思っていたような光景は何もなかった。
「…………え?」
ただその場にあったのは、真っ二つにされたキマイラの死体。…………そして、見覚えのある刀のような見た目の剣だった。
その時、アランの脳内で誰かが言った一つの言葉が浮かび上がってくる。
――――この世界にはもう、何もかもないんだよ!
――――――――そして、悟った。
その剣を抱え、彼は静かに涙した。…………今日、初めて勇者になれた男の心は、二度目の死を遂げたのだ。
――もう何もない。この世界にも自分にも…………。
彼は崩れ落ちる様に膝をつき、そして何も言わずに下を向き続けた。
――――主よ………………。
少女の声が、彼の脳を後ろから生優しく侵食するように囁き声で聞こえた。
~THE END~
勇者は二度、死ぬ。〜転移したところでもう遅い〜 上野蒼良@11/2電子書籍発売! @sakuranesora
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