第49話 目覚め

 何もない暗い空間の中で、アランは目覚めた。



「ここは…………?」

 寝ている体を起こし、辺りをキョロキョロ見渡してもそこには、誰もいなかった。――というより見えなかった。




 ――と、そんな時、不意に後ろから聞き覚えのある声が彼の耳の中……というよりも頭の中に入り込んでくる。




 ――――起きたか? 主よ。




「!? …………なっ、なんだ?」

彼が驚きのあまり尻餅をついてしまうと、その声は更に彼へ語り掛けてくる。



 ――――アタシだ。セルピナだよ。主。……すまないな。今はその、実態を保てない状態でね。




「…………? セルピ…ナ?」

 彼が不思議そうにその、声の主の名前を呼び、天井の1点をジーっと眺めていると、再び頭の中にセルピナの声が入り込んでくる。




 ――――主よ。いきなり嫌なものを見せてしまってすまないな。しかし、仕方がなかったのだ。…………許して欲しい。




「…………」

 アランは、黙って彼女の声だけを感じて、次にくる言葉を待っていた。







 ――――どうだった? 主よ。





 彼女は、恐る恐ると言った感じでアランに尋ねた。…………彼は、しばらく黙って、天井を見上げながらゆっくりと口を開いた。



「…………どうだったかって? ……………………そんなの……そんなの…………1つしか答えはねぇよ! お前は! 俺にあんなの見せて、おちていく姿が見たかったのかァ? あぁ?」



 彼は、今自分の中に沸き上がっているとてつもない怒りの感情を、何処にいるかも分からない、視覚的に捉える事もできない奴にひたすらぶつけ続けた。……一見すると、それはとても奇妙な光景にも見えたが、それでも彼の怒りは止まる事がなく、自分以外に誰もいない暗い空間の中で彼の大きな怒鳴り声が響き続ける。




 ――――すまない。………………しかし、仕方がなかったのだ。アタシは、主にのだ。




「………… 俺に…………。誰を? 何を救えって?   俺に何をしろっていうんだ! CGとはいえ、自分達が滅んでいく様を見せられて、その上頼み事までされるだと!? 冗談じゃない! 誰がお前の言う事なんて聞くもんか!」




 ――――あれは、”よくできたCG”なんかじゃない! 事実だ。主が言う異世界も、元々住んでいた現実世界も…………全て同じ惑星の中で、行われている事なんだ! 





「…………んな事言われて信じるかよ! だいたい、証拠はあんのかよ? どうなんだ? 死神さんよぉ。神様を名乗るんだったらこういう時の証拠の1つ位見してみせろよ!」





 それを言われると、見えない死神――セルピナは、急に黙りだした。





「…………おい? どうしたんだよ? 急に黙り込んでよぉ~。やっぱり嘘って事かよ! あんなやたら凝った映像見してきてよ~! しかも、な~にが実態が保てないだよ。あの”博士”とかいう奴らと同じような感じで姿も見せねぇでよぉ! ふざけやがって! 出て来いよ! どっかの壁の裏とか暗闇の中とかでマイク持って、どっきり大成功~! とか思って待機してるんだろう? あぁん!? ――出ろ! 死神!」






 しかし、セルピナは喋らない。どれだけアランが怒鳴っても彼女が喋ろうとする気配は、なかった。











 ――――そして、とうとうアランも怒鳴る事をやめて、その場は一気に静まり返ってしまう。彼は、とにかく天井を鋭く睨みつけてその場で固まっていた。











 ――すると、しばらくして彼の頭の中に少女の悲しげな声が響いてくる。







 ――――アタシは……主に助けて欲しかった。






「…………は?」


 声が小さかった。








 ――――アタシを……アタシは! 主に助けて欲しかった! だから、主をこの世界に呼んだ! アタシを育ててくれた主なら……その前世の人なら……きっと、きっと! アタシを救ってくれると信じてた!










「…………何が、言いたいんだ?」








 ――――まだ、分からないの? ……………………アタシは未来の、来世の「ヨハネ」となった主が作り上げた”プロジェクトGOD”の中の神の1つ。……のアバターなんだよ………。














「なんだって…………」

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