第48話 思い出を強さに……。
暗いダンジョンの中を、人間2人が駆け回っていた。――片方は、拳銃と大きなナイフを持ち…………もう片方は、カタナのような見た目をした剣をその手に持っていた。
2人は、お互いに距離をとって魔法を撃ち合い、そして近づいたら武器や
肉弾戦でぶつかり合った。
「アルミロ・プリフォティーゴ! からの……フェイラ・サラブロ・コレイクティー!」
剣を持った方の女――セリノは、お得意の武器強化の魔法と自分だけの持つ固有魔法をかけ合わせて繰り出す大技を、目の前に見えるオールバックの男――ダスティン目掛けて放っていた。
――――セリノの剣に地面や壁などそこいらじゅうに存在する砂鉄がくっついていき、やがてそれが一つの形へとまとめ上げられ、最終的には巨大な剣になってダスティンへと横薙ぎに斬りかかる!
「…………くらえ! これで、終わりだァ!」
――――――物凄い砂埃と巨大な剣が壁にぶつかった事による衝撃音が洞窟中に響き渡る。
――――感触は、あった……。
彼女は、魔法を解除する。――同時に、剣にくっついた砂鉄が粉雪が舞うように辺り一面に散っていく。
「…………はぁ……はぁ…………」
魔法の解除と共に彼女の緊張の糸が緩みだす。……………………もう、どれくらい戦っただろうか。…………30分は経っていると思う。
その間に、彼女もダスティンも物凄い数の魔法を撃ち合い、何度も互いの体を刃で刺し合い、弾丸を撃ちまくった。
もう、お互い死んでも可笑しくない位に殺しあってきた。
――――――――それでも、こうして2人の因縁の戦いが続いているのは、やはりあれが原因だった。
「…………はぁ、はぁ…………」
セリノは、目の前の砂埃が止んで、中から1人の人間の姿が見えだした時、その顔を暗く染めた。
「…………そんな。これでも、まだ……死なないの!?」
彼女は、息を切らしながらそう言った。――既に、彼女の魔力は、先程のキマイラ戦での活躍もあって、かなり消耗しきっていた。
いつ、自分もアランのように魔力切れとなるか分からない…………。
そんな彼女の姿を見て、砂埃の舞う空間から歩いて出てきた男――ダスティンは、余裕そうな表情と一滴たりとも血の流れていない真っ白なスーツの状態で悪魔のような笑みを浮かべていた。
「おいおい~。もう限界なんじゃないかぁ? お前が強いのは、よく分かったけどよぉ~。でも、やっぱり俺の固有魔法――”セ・モールタァ”には敵うわけねぇんだよ。なんせ、死なないんだからなぁ。……へっへへヘェ~!」
ダスティンの不気味な笑い声が、2人のいる洞窟の中全体に木霊した。
――――クソッ! 確かにあの固有魔法は厄介だ。どれだけの大技を放っても、あの固有魔法1つで私の攻撃は全部水の泡になってしまう。
――セ・モールタァ。…………その能力は、おそらく”不死”。または、それに近い何か…………。
……ここまでの戦いで、彼女は何度もあの能力に苦しめられてきた。どんなに大きな技を出しても、全て瞬時に回復されて、攻撃が無かった事にされてしまう。
――もう、彼女の中の魔力も残り少ない。これ以上は、無茶なんかできないと、自分でも分かりだしていた。
――――それでも…………
「それでも、大事な人を奪ったアンタは、ぜってーにぶっ殺す!」
セリノは、再び剣を構えて、ダスティンを強く睨んだ。
当のダスティンはというと、余裕そうな表情で首をコキコキと鳴らしながら、拳銃に新しい弾を込め直していた。
――――しかし、どうする? 今まで通りの攻撃じゃ、絶対に奴を倒す事なんてできない……………………。
――――考えろ! 不死身の男をぶっ殺す方法を…………。
すると、向こうから意地悪そうな顔でダスティンが言った。
「……無駄だよ。君ももう分かっているだろう? 俺の固有魔法――”セ・モールタァ”の能力。…………如何なる攻撃や魔法、どんな手段であろうと……自分の心臓の鼓動が止まると、それに反応して体内の魔力を少しだけ減らして、体が自動的に傷口を塞いだり、とれた体の部品をくっつけたりする。そして、再び心臓が動き出す…………。無敵の魔法だよ」
「くっ…………!」
――――それでも、考えるんだ。私! いくら無敵と呼ばれている能力にも何か……何かきっと弱点があるはずだ! それを考えるんだ。見つけるんだ!
――すると、セリノの頭の中に大切な人の言葉が連想される。
「…………良いか? 前線で戦うというのなら、絶対に覚えとけよ! 戦いの最中は、常に相手の魔法に何か弱点がないかを探れ! この世に弱いもんが何1つ存在しない奴なんか一つもねぇ! 前線で俺と共に戦うというのなら、これくらい覚えて帰んな」
「…………良いか? 固有魔法には、固有魔法で対抗するのが一番効果的なんだ。…………なんせ、固有魔法は基本魔法とは桁違いに強いからなぁ。自分を信じて固有魔法を撃ちまくんな」
――――――それは、少しぼんやりした懐かしい記憶。自分が、まだ小さい頃。…………ダンジョンで戦い出す前の頃の事だった。
近くに住む親友の男の子に最初は戦い方を教わっていた。彼は、稽古の時にしょっちゅう私に、そんな事を言っていた。
――――この世に、弱いもんが何一つ存在しない奴なんか1つもねぇ……。
そんな言葉を言って、毎日熱心に彼女の稽古に付き合ってくれた彼は、もうこの世にいない。
――――ゴミ野郎は……自分の固有魔法の発動には、心臓が関係していると言った……。
「…………へへへ! どうした! 怖気づいたかぁ~? ホモ野郎!」
ダスティンの表情が、どんどん狂気に染まっていく。彼は、全ての弾丸を込め終えて、それをセリノの心臓の辺りに向けて、撃つ準備を整えていた。
――――固有魔法には、固有魔法で対抗するのが、一番効果的……か。
セリノは、一度大きく深呼吸をして目を閉じる。…………瞬間、彼女の心の中で様々な思い出が、走馬灯のように蘇ってくる。
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「…………あたち! ダンジョン攻略やってみたい!」
「…………アー君! 教えてくれてありがとうね!」
「アラン君! ……今だよ! とどめを!」
「やったぁぁ! 今日は、宴だァァァ!」
「…………今日で、私達も解散か……」
「…………新しく入りました! セリノと申します!」
「アンタこそ、久しぶりね。…………結構、男らしい見た目になったんじゃない?」
「…………もう、また飲み過ぎだよ~」
「…………あの男の元へ行ったりしないでね?」
「アラン……うぅ…………帰って来てよ。アラン……………………」
「…………ダメよ新入り君。こんな
「…………アランか。アイツにしては、良い名前つけるじゃない……」
「アラン! ご飯できたよ!」
「今日は、目玉焼きね。だって、アナタがあまりにも食べ過ぎるんですもん!」
「…………お願いだから、今度こそ行かないで。アラン」
「…………アラン」
「アラン!」
*
――――覚悟を決めないと……ダメよね。
そうしてセリノは、目を大きく開いて、剣の先に自分の今ある全ての魔力を込め始める。
「…………へっ! やっぱりさっきと同じ方法かよ! それで俺にまだ敵うと思っているのかぁ? マヌケがぁ! テメェは、もうここで終わりなんだよ! なんせ俺は、死なねぇ。ここで、テメェを殺して奥にいるアランもぶっ殺す! それでミッションコンプリートってわけさ!」
「オルガーノイ……」
――――――セリノの詠唱が始まる。
――それと同時に、彼女の心臓の鼓動が早まった。
「…………ングッ!」
彼女は、苦しそうな表情で、口から血を吐きながらもその詠唱を続けた。
「…………フィーネ」
「……なっなんだ!? 何をする気だ? テメェ! 一体この俺に何をする気なんだァ!」
「…………コレイクティィィィィィィィィィ!!!!!!!」
刹那、彼女の体内のあちこちが痛み出し、中から何かが飛び出してきそうな感覚を覚える……。
――――いや、飛び出そうとしていた。彼女の詠唱が終わるや否やセリノの体内にある全ての臓器や筋肉、骨などが何処かへ向かって凄まじい力で引っ張られ出した。
――そしてそれは、目の前にいるダスティンも同じだった。
「…………なっ、なんだァ! この体全身からゲロでも吐きそうな感覚と、風船のようにはちきれそうな痛みはァァァァ!!」
セリノは、そんな急に顔色の悪くなったダスティンへ余裕のある顔を作り、最後の力を振り絞って言った。
「…………私の固有魔法。コレイクティー。それは、この世に存在するあらゆるものを何処か1か所へ集めてまとめ上げる魔法。…………アンタは、さっき心臓が止まった時に固有魔法が反応するといった。…………なっ、なら……その心臓が体内から消えてしまえば……絶対に戻って来れない
所にまで行ってしまえば…………アンタは、死ねる。…………アタシの魔法、コレイクティーの力で今、この場に存在する全ての臓器と筋肉、骨を私の剣に向かって集めて、まとめ上げる! それが、アンタを倒す唯一の方法よ!」
ダスティンは、更にその表情を苦しそうにして言った。
「…………それを、したとして……貴様も死ぬぞ! なんせ……この場に存在する全てという事は、お前も含まれるのだからなぁ! それに、もし人と人が混じり合うとするなら、きっとそれは私達の肉体も含めて全てがこの世から消え去るという事だぞ!」
しかし、セリノはダスティンの言葉を聞いても全く動じない。
「……そんな事は、問題じゃない。これで、アンタを殺せると……言うのなら、私は構わない」
「…………いやァァァァァァァァァァァめろオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォー--------!!!!!!!」
……………………そうして、2人の人間の姿は、跡形もなく消えていった。
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