第47話 この世界の真実⑥


 ――――終わった……?



 アランは、それまでどの人間も体感した事のない程の恐怖と絶望で心をエグラれていた。



 彼の元々いた現実世界――――最初見ていた時は、なんだか楽しかった。……所謂、歴史の謎とされているような出来事の真実をこの目で見たりできたし、侍や西部のガンマンといった大昔になくなった者達の活躍する姿も見れて、最初は楽しかった。



 しかし、現代に突入して……彼=新井信ことアランが、この世界から消えたその数か月後に、人々はたった一つのウイルスによって浸食され、まるで戦時下の頃のように避難宣言が出され、徐々に徐々に……年寄りや赤子から先に死んでいき……最後には…………進化を重ね、尋常じゃない感染力と殺傷力を併せ持つようになったとんでもないウイルスの手によって、世界から人類は消えていったのだった。




 そんな光景を目の当たりして、もうアランの心はすっかり疲れきっていた。…………これ以上は見たくない。そう言って何度も何度も……何度も、何度も……セルピナの名を叫び続けた。



 ――――もう十分分かった。これ以上は、見たくない! やめてくれ! 分かったよ! 異世界を望んだ俺が馬鹿だった! たった一度の現実逃避だったんだ! 許してくれ! 頼む! ……………………おい、セルピー? どうして返事をしてくれないんだ? セル…ピー? …………セルピ―! セルピ―ナ! 出してくれ! この魔法を解いてくれ! 俺は、もう十分苦しんだ! この世界の真実を知って欲しいとか言って、本当はこんなダメダメな俺に天罰を与えたかったんだろ! そうなんだろ? そうなんだ! そうに違いない! …………この通りだ! 俺は、反省している。だから…………だから………だから……だから…だから、だからぁ! 出してくれェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!














「機械文明もダメ……か。君、原因はなんじゃと思う?」




 ――――ヒィッ!



「…………そうですね~。やはり医療技術なるものが、魔法文明の頃に栄えた治癒魔法と違って脆弱だった……からでしょうか?」



 ――――お前達じゃない。




「…………ふむ。確かにそれも考えられるな。まぁ、機械文明の医療にしてはかなり進化した方だと思うが……」



「…………えぇ。ですが、やはり一度の魔法で完全に治癒できてしまう治癒魔法と何度も薬を飲ませないといけない機械文明の医療技術……。差は、明確でしょう」



 ――――俺の中に入ってくるな。




「…………そうじゃなぁ。……となると、やはり|第7世界《機械文明の

栄えた人類》と第6世界魔法文明の栄えた人類の融合こそが、この世界の最終進化系。……我々――””の領域に到達できる存在へなり得るという事か…………」



 ――――喋るな……。



「そうと分かれば、早速やりましょう! 博士!」




 ――――やめろ。





「うむ。そうじゃな。実験開始じゃ!」





 ――――やメ炉おおオぉぉぉぉぉぉォぉぉぉぉぉォォおぉぉおぉぉォォォォぉぉぉぉぉぉぉオオぉぉぉぉぉぉぉぉおぉオオぉぉぉぉおぉぉ!!!!!!!!

















 













 ――――――――数千年後。ついに、博士達の理想の世界。通称――第8世界魔法文明と機械文明の融合した人類が誕生し、繁栄した。


 博士が言うには、この世界の人類は皆、前の第7世界機械文明の栄えた世界に住んでいた人々の魂を第6世界の頃に使用して残っていた「プロジェクトGOD」の中にある「神達」を案内人として使って、転生または転移させる事で、第6世界の頃同様の理性と、第7世界の頃同様の成長スピードを確保できるらしい。


 実際、この第8世界の住人達の文明の成長スピードは、前の第7世界の頃より速かったし、戦争も第6世界の頃よりしなくなった。…………まさに平和。そう、平和そのものだった。







 ――そして、次第にこの世界の景色はアランのよく知る世界の雰囲気とそっくりに染まった。





 ――――ここ……は…………。








 それは、大きなビルが並び列車も走り、スーツを着た人々で溢れかえる都市部とそれをまるで囲い込むように広がる貧民街と農村部。

 彼らの使う道具は、全て”魔道具”と呼ばれる魔法と機械の融合したモノ。

 異種族は滅び、ダンジョン攻略をする冒険者は職を失い、魔法を使うために許可証を申請しに行く人々…………。





 アランの中で、1つの言葉が心臓をドリルで抉り刺すように木霊する。






 ―――――










 アランは、今その全てを知った。…………そう、この世界は異世界なんかじゃない。同じ地球。同じ地面。生きている動物が多少違うだけで後は何も変わらない。


 彼が、迷い込んだ場所は、彼の故郷が消滅した後にできた絶望郷ディストピアだったのだ。








「素晴らしい!」



 博士の声が聞こえてくる。



「…………彼らは、もう後6、70年で我々の領域にまでやってくる。素晴らしい! 素晴らしいぞ!」




 ――――我々の……領域だと!?




 刹那、アランの目の前に広がっていた第二の故郷ディストピアが、急激に変化し始める。あっという間に、車が誕生し、飛行機が完成し……電話機から携帯電話となり…………とうとう彼らの発明したモノは全て小型化した。

 スマートフォンのようなものも誕生したが、それも魔法と科学の技術を用いてついには1枚のチップのような小ささにまで進化した。




 ――スマートフォンだけじゃない。が、だ。

 つまり、この世界にいる人も動物も……発明品達と共に、身長や体重など全てが小さくなっていった。








 ――――――そして気づくと、その世界に存在していたはずのものは、1全て跡形もなく消えていた。








 ――――何が、起こっているんだ………………?




 何もない世界から声だけが聞こえてくる。



「…………博士! やりました! 我々人類は、とうとうの領域へ到達できましたよ!」



「…………うむ。肉体を捨て、精神だけを永遠にこの宇宙空間の中でデータ化して残す。……我々人類は、とうとう神の領域へと到達できたのじゃ! これから、このヨハネと化した我々人類が、過去の全ての時間に生きた全生物達を支配し、監視し続けるのだ! …………人類の最終進化体、ヨハネになった事を……皆、乾杯!」

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