第46話 この世界の真実⑤
――――え?
アランは、博士のその言葉を聞いてすぐに声の聞こえる方を振り返ってみた。…………しかし、やはりそこには誰もいない。誰の姿も見えないままで、ただその場所から彼らの声が、耳というよりも彼の頭の中に直接語り掛けられているような感じで入ってくる。
――――なんなんだ? 俺は今……そしてこれから何を見せられるんだ? 一体、この世界の真実って……何なんだ?
――――――刹那、彼の下に広がる世界から物凄い音が鳴り響いた……!
――――!?
アランは、その様子を見るなり驚いた。…………そこには、それまでヒトザル達の文明レベルでは考えられないような、巨大なクレーターのような大穴が地面に開けられており、その穴の中には真っ黒なものが横になっていた。
――――あの黒い動物……豚か?
ヒトザル達は、大きなクレーターの中でぱったり倒れている豚の周りに群がり嬉しそうに騒ぎまくって、それから自分達の縄張りまで焦げた豚の丸焼きを運んで行った。
アランは、そんなヒトザル達の様子を凝視した。
――――このサル達、食事の前に「いただきます」みたいな事してやがる! それに、なんだか武器にしてはあまりに貧弱そうで短い先の尖っただけの木の棒を持って、振り回しているぞ……?
すると、また何処からか彼らの声が聞こえてくる。
「…………いやぁ、博士。まさか、そんな隠し事をなさっていたとは…………。同じ研究チームの仲間である私達にも少し位教えてくれたって良いじゃないですか~」
「ふっふっふ~、サプライズとして取っておいた方が後で面白いと思ってね。…………な~に、私だって心配はしていたのさ。文明の進みが遅すぎるんじゃないかってね」
「いや~、そうだったんですね。…………しかし、まさかいきなり見えない「神」への崇拝と魔法技術というこの2つを導入するとは思ってもいなかった! なんせ、魔法はともかくとして、見えない「神」への崇拝を導入するというのは、例のプロジェクトが実際に始まってからじゃないと不可能と博士が仰っていましたし…………」
「まぁな~。確かにそうだと思っていたよ。けどね……先に導入してから「神」という存在を疑う者が現れたその時に例のプロジェクトを始動させても遅くはないと思ったんだよ。現にそっちの方が、文明の進化スピードは速まったわけだし…………きっと、もうそろそろヒトザル達も1つの人間へと進化する事だろう……」
「はい。そうですね」
――――――彼らの会話の通り、この後数百年の間にヒトザルは急激なスピードで現在の我々と大差ない「人間」という姿を得る事ができた。それと同時に「人間」達は、言葉を話し、住処を自分達で作り、調理というものを知り、そして「愛」を覚えた。
そこから先の人類の歴史は、アランが現実世界にいた頃、学校で学んだ通りの歴史そのもので、時代は狩猟採集から栽培に、栽培社会から徐々に封建社会へと進化を遂げた。
――――しかし、その中で唯一アランの知らなかったものも存在した。それが「魔法」と「見える神」という要素だった。
その世界の住人は、まるで彼が元々いた現実世界で言う所の機械のように魔法という一種のツールを操って、そして毎日決まった時に決まった場所で神へ感謝を捧げていた。
また、神を信用していない者の所へは、神と名乗るものがやって来て、人にはできない事をやってみせて、信用させていたのだった。
――――なんだ? この世界は…………。
アランが、そう思っていると近くから彼らの声が聞こえてくる。
「…………いや~、博士。例のプロジェクト――通称「プロジェクトGOD」大成功ですなぁ」
「そうじゃな。…………人という存在が、魔法という強大な力を持っても暴走しないようにと思って導入したこの制度…………。人の目で見る事のできる「神」の存在は、彼らにとって良いご主人様となってくれる事じゃろうな」
「…………まっ、その「見える神」は僕らが自分達の精神をコピーして作ったただのアバターなんですけどね」
――すると、博士とその仲間達は一斉に大きな声で笑い出した。…………彼らの笑い声がアランの脳内でキンキン響いてきて、少し頭痛を感じていると、そこにまた別の見えない誰かの声が聞こえてきた。
「…………博士! 大変です!」
「どうしたんじゃ!」
博士のその強い声が聞こえてきたと同時に今まで笑っていた他の仲間達は一気に静まり返った。
「…………今の魔法文明を持った人類では、我々の領域に辿り着けません! このまま、この魔法文明を続けていけば、世界の歴史が変わってしまいます!」
「…………なんじゃと!? それは、いかん。何か良い方法は………………。おい! 君、現在の魔法文明が近代化していくのは何年後かね?」
「それが、ですね。博士。…………実は、この魔法文明はもう…………」
「…………まさか、近代化しないというのか」
「はい…………」
――――彼らの声が聞こえなくなった。アランは姿が見えない声だけの存在ではあるが、そんな彼らの深刻な状況を何となく理解し、自分も無心で博士の次に発する言葉をまだかまだかと待ち続けた。
――――しばらくして、その博士が喋り出す。
「…………なら、仕方あるまい。最早ここまで。…………魔法文明を発達させたこの人類も一度終わりにしよう」
――――こうして、博士のその言葉の後、魔法を使う人類の存在は視覚化された「神達」による天罰で消えてなくなった。
――真っ白な大地を前にアランは、どうしてだか空しい気持ちでいっぱいになった。
彼は、この世界を照らす太陽を眺めながら思った。
――――太陽は、ずっと変わらず照らし続けるというのに……なぜ、この世界は何度も何度も平和が訪れたと思えば滅びを繰り返すんだ…………。
すると、そんな彼の後ろからまたも姿の見えない者達の声が聞こえてきた。
「…………これで、何回目でしょう。…………いつになったら、この世界で私達の領域に辿り着ける存在が誕生するんでしょうか…………」
「…………」
「……あれだけ時間をかけてヒトザルから人にかけて育ててきたというのに……それでも、私達の望む形にならない……。もっと、発展の速い人類を作らねばいけないんじゃないですか?」
「…………発展の速い。人類か……」
博士は、そう言うと「うーん」と唸って深く考え出した。
「……はぁ、もっと機械みたいにテキパキ動いてくれる人間できないかなぁ…………」
「………………君、今なんて?」
「? いやだから、”機械のようにテキパキ動く人間”できないかなぁ~って」
「それだ!」
博士は、そう言うと仲間を何人か集めて説明を始めた。
「…………良いかね。君達、前の世界――魔法文明の発達した人類の最大の失敗。それは、魔法が便利過ぎたが故に一定以上のレベルに文明が発展しない所だった。…………だから、次に作るべき人間は魔法文明というものじたいをなくせばいい。…………分かるかね? つまり、魔法とは逆の…………機械文明を発達させれば良いのだ!」
「「おぉ!」」
仲間達は、一斉に驚いた声で博士のその説明に感心していた。
「すぐに取りかかれ! 機械文明の発達した人類を作り上げるんだ!」
――こうして、この謎の存在達の手により、この後の地球で「機械文明の発達した人類」というのが繁栄する。…………そして、これが所謂今日の世界。そう、新井信ことアランの生まれた現代社会へ繋がっていくのだった。
この世界は、無事に近代化を終え、技術発展と成長を重ねて……どんどん大きくなっていった。
……………………しかし、やはりこの世界にも滅びは訪れる事になった。
滅びの原因は、たった一つ。――そう、パンデミックだ。
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