三題噺「天敵、神業、カレンダー」

氷堂出雲(ひょうどう いずも)

矛盾

 今回、私が依頼されたのは、なんでも通す矛だ。私は、自分の腕を神業だと思っているし、いつも依頼をしてくる商人も、そう思ってくれているのだろうと思い、尋ねた。


「俺の腕を神業だと思って、仕事を依頼してくれるんだよな」

「はい。そうでございます。憲宗様。この世にあなたのような神業だと思える仕事をしていただける人物は二人しかいません。憲宗様と憲仁様です。

今回も、お二人に別々の仕事を依頼しました」


「憲仁だと!」


 憲仁は、錬金術師のお師匠様の二番弟子。そして、私は一番弟子だ。あいつは私の天敵だ。性格、いや、全てが合わず、会えば必ず喧嘩をする。


たしかに腕はいい。あいつには、この世で何も通すことができない盾を依頼したという。


 私の矛とあいつの盾は、同時に存在するわけがない。私は、あることを誓いその仕事を受けた。


 カレンダーを見る。なんとか、納期に間に合った。

 納品を終え、商人にどこで商売するのか日にちと時間を聞いた。そして、その時間に、私はそこにいた。


 その場に行くと、なんと、憲仁もそこにいるではないか。

 まさか、あいつも同じ目的か?


「お前、どういうつもりだ? まさか、俺の矛と戦わせようと?」

「当たり前だ。何が何でも通す矛だ。俺の盾の方が勝つことを証明してやる」


 俺は、俺の矛を買った。今までこの商人から得た利益を全て返してしまうほどの金額だったが、プライドのためだ。仕方がない。


あいつもそんなことを言ってあいつの盾を買った。


 場を変えて、戦わせた。


 俺は、全ての力を矛にかけてあいつの持つ盾に突き立てようとした。盾と矛が当たった瞬間、眩い光が現れて何も見えなくなり矛も盾も消滅した。


 あの瞬間、盾を少しでも貫通していれば、俺の勝ちだし、貫通できていなければ、俺の負けだ。


「どうだった? 貫通できただろ」

「どうだった? 貫通できなかっただろ」


 二人同時に確認した。二人とも眩しくて結果を見ることができなかったのだ。


 それを近くで見ていた商人は、微笑みながら独り言を言った。

「良かった。二人とも生き残った。また、あの二人には、いろいろ作らせて、ある程度稼がせてやる。

 時期が来れば、また、こうやってあいつらに払ったお金を回収して、俺一人儲けることができる。次は、なんでも変形できる金槌と絶対に変形しない金属にしよう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三題噺「天敵、神業、カレンダー」 氷堂出雲(ひょうどう いずも) @ijuuinkounosuke

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る