第4話 落ち葉屋敷
街中の屋敷の庭とはおもえぬ巨木の立ち並ぶあいだを、
「おまえは
「へい、さようでございます。お坊ちゃま」
番頭は帳面に数字を書き込んでから、
「泗水の街の西のはずれにある、
「逞家さまのお屋敷でございますか? さあて、泗水の西のはずれと申せば寺の建ち並ぶところでございましたが、数年前の大火事で……。ああ、お坊ちゃまが
「申し訳ございません。思い出しかねます。なんなら、店のものに調べさせましょうか? ええと、
「いや、いい。別段、懇意にしているわけではない。そういう名前を噂に聞いただけのことだ」
「さようでございますか。あのあたりに、逞さま……。……。あっ、お坊ちゃま、お出かけでございましたか」
番頭の分際で、主人筋にあたるものの動向をいちいち詮索するな――、それをわからせるために、康記はまだ肉のついていない薄い肩をせいいっぱい
「ああ、ちょっとしたやぶ用だ」
「これは足止めいたしましたようで、申し訳ございません。お気をつけて」
しかしながら、穏やかな物言いとは裏腹に、くるりと向けた自分の背中に番頭の鋭い視線が突き刺さるのが、康記にはわかる。
慶央で白麗を
それを、病弱だった母の
自分の余命いくばくもないことを理由に、母は可愛い末子の助命を夫に懇願した。長兄の
だが、彼がしおらしく荘本家の家業を手伝ったのも、一年ほど。自分が行くはずだった都・
あれほど厳しかった父は、「好きにせよ」と言っただけだ。妻の死とともに隠居して健敬に
しかし案の定というか、叔父の交易の仕事を彼がまじめに手伝ったのは半年ほど。豪商のお坊ちゃまとしてわがままに振舞えることを知ると、銭を湯水のように使って、悪友たちとともに歓楽街で遊び呆けるようになった。
出来の悪い
肩をいからせたまま、「どいつもこいつも、死ね!」と、康記は動く唇の形だけでつぶやいた。
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