誘い

僕が下を向いたまま、黙っていると彼女は察してくれたのか、「あ」と短い声を上げ、


「……君、もしかして、その……訳アリな感じ?」


「…………はい」


声にもならない程、か細い声で答えると、彼女は半ばパニック気味に助けを求めるかのように、


「……富岡さーん。もしかして、その私、地雷踏んじゃいました?」


「ふん」


富岡さんに背中を見せられたまま、首を横に振られて、取り付く島がなくなった彼女は、両手を合わせ、


「ご、ごめんね! 別に私、そんな感じで言ったわけじゃないの!」


「……はい。でも、もう帰ります」


「え、でもまだ残ってるじゃない…」


「もうお腹いっぱいですから」


「そ、そう」


何となく居心地が悪くなってきた僕は、まだ二、三割程食べきれていなかったが、席を立ち、千円札をレシートと共に、彼女に渡して、そのまま店を逃げるように出た。





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僕は僕の声を知らない 夜道に桜 @kakuyomisyosinnsya

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