3.一方その頃、教員たち。







「それで――アイン・クレイオスは、自主退学となったのか」

「その通りでございます。エルイステル学長」

「ふむ……」




 アインがいなくなったその日の夜。

 魔法学園では、学長へとアインの退学が伝えられていた。もっとも、退学は退学でも、自主退学であるといったように、事実を歪曲してであるが。

 教員の代表――フリーラスは、恭しく頭を垂れながら口角を歪めていた。なぜなら、これで教員の誇りを傷つける生徒が消えたのだから。



 アインは、地方の貧乏領主の息子でありながら魔法の才に溢れていた。

 その他にも剣技や、治癒術、さらには古代語学へも精通している。それこそ王都立魔法学園に通う必要などない。存在そのものが、プライドの高いエリートであるフリーラスのような教員にとって、邪魔で仕方がなかったのだ。


 だから本来の成績もすべて改竄し、握り潰してきた。

 執拗に嫌がらせをし、退学の条件を飲ませた。



 ――すべては、これで上手くいく。



 自分たちの権威は保たれ、今後の昇進の邪魔もなくなった。

 あとは学長への報告を淡々と済ませれば――。




「――私のもとへと、連れてこい」

「…………はい?」




 すべてが終わる、はずだった。

 そう思っていたにもかかわらず、フリーラスの思考は凍り付く。


「な、何故です……?」

「話してなかったか。アイン・クレイオスは、国王陛下肝いりの学生だぞ」

「こ、国王陛下、ですって……!?」



 フリーラスの顔が青ざめる。



「うむ、そうだ。辺境にて魔法の才に惚れ込んだ国王陛下が、彼の父に頼み込んで預かり受けたのが――アイン・クレイオスだ」

「そ、そんな話……!」

「ふむ。あえて話すことはなかったが、な」



 ――事情が知れ渡れば、他の学生との間に壁が生まれるだろう。

 そう言って、学長は蓄えた髭をゆっくりと撫でた。





「まだ、帰郷はしておらぬだろう。すぐに呼び戻すのだ」

「は、はい……!」





 そして、重い口調でフリーラスに告げる。

 儚くも思惑が潰えた教員代表は、冷や汗を流すしかなかった。







「ど、どうするんだフリーラス!」



 教員室に戻ると、同僚に囲まれるフリーラス。

 みな顔が青ざめており、絶望に満ちていた。そんな彼らを見て、フリーラスもまた心臓が早鐘のようになるのを感じる。

 だが、小さく笑ってこう告げるのだった。



「大丈夫だ。私には、腹案がある」――と。




 その場にいた全員が、顔を見合わせる。

 そして、その案を聞いた者はフリーラス同様にニヤリと笑うのだった。


 






――――

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