3.一方その頃、教員たち。
「それで――アイン・クレイオスは、自主退学となったのか」
「その通りでございます。エルイステル学長」
「ふむ……」
アインがいなくなったその日の夜。
魔法学園では、学長へとアインの退学が伝えられていた。もっとも、退学は退学でも、自主退学であるといったように、事実を歪曲してであるが。
教員の代表――フリーラスは、恭しく頭を垂れながら口角を歪めていた。なぜなら、これで教員の誇りを傷つける生徒が消えたのだから。
アインは、地方の貧乏領主の息子でありながら魔法の才に溢れていた。
その他にも剣技や、治癒術、さらには古代語学へも精通している。それこそ王都立魔法学園に通う必要などない。存在そのものが、プライドの高いエリートであるフリーラスのような教員にとって、邪魔で仕方がなかったのだ。
だから本来の成績もすべて改竄し、握り潰してきた。
執拗に嫌がらせをし、退学の条件を飲ませた。
――すべては、これで上手くいく。
自分たちの権威は保たれ、今後の昇進の邪魔もなくなった。
あとは学長への報告を淡々と済ませれば――。
「――私のもとへと、連れてこい」
「…………はい?」
すべてが終わる、はずだった。
そう思っていたにもかかわらず、フリーラスの思考は凍り付く。
「な、何故です……?」
「話してなかったか。アイン・クレイオスは、国王陛下肝いりの学生だぞ」
「こ、国王陛下、ですって……!?」
フリーラスの顔が青ざめる。
「うむ、そうだ。辺境にて魔法の才に惚れ込んだ国王陛下が、彼の父に頼み込んで預かり受けたのが――アイン・クレイオスだ」
「そ、そんな話……!」
「ふむ。あえて話すことはなかったが、な」
――事情が知れ渡れば、他の学生との間に壁が生まれるだろう。
そう言って、学長は蓄えた髭をゆっくりと撫でた。
「まだ、帰郷はしておらぬだろう。すぐに呼び戻すのだ」
「は、はい……!」
そして、重い口調でフリーラスに告げる。
儚くも思惑が潰えた教員代表は、冷や汗を流すしかなかった。
◆
「ど、どうするんだフリーラス!」
教員室に戻ると、同僚に囲まれるフリーラス。
みな顔が青ざめており、絶望に満ちていた。そんな彼らを見て、フリーラスもまた心臓が早鐘のようになるのを感じる。
だが、小さく笑ってこう告げるのだった。
「大丈夫だ。私には、腹案がある」――と。
その場にいた全員が、顔を見合わせる。
そして、その案を聞いた者はフリーラス同様にニヤリと笑うのだった。
――――
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