2.嫌われ者は成績最下位。







「あ、あの……。こんな豪華な食事、良いのでしょうか?」

「ん、パーティー結成祝いだから、良いと思うよ?」




 少女――ベネットと共に、ボクはギルドに併設されている酒場にやってきていた。今日の戦果であるドラゴン二体。その魔素の欠片を売却し、そのお金でお祝いをすることにしたのだ。

 しかしベネットは、どこか困惑したように視線を泳がせる。


「あ、あたし、こんな食事初めてなので……」


 そして、そうポツリ。

 ボクは納得して、こう少女に言った。


「遠慮しなくていいよ。ボクたち、もう友達なんだから」

「友、達……?」

「そ、友達」


 こちらの言葉に、小首を傾げるベネット。

 だがすぐに、どこか嬉しそうに瞳を輝かせてこう返事をした。



「あ、ありがとうございます!」



 年相応に明るい表情で。

 フォークとナイフを手に取って、大きな口で食事を頬張る。


「どう、おいしい?」

「は、はい!」


 そんな彼女を見て、ボクは自然と微笑んでしまう。

 まるで故郷の妹を見ているようで、懐かしい気持ちになったのだ。今ごろどうしているのだろう、と考えていると、ベネットが不意にこう訊いてきた。



「あの、アインさんはどうして冒険者に?」

「ん、えーっと……」



 純真無垢な表情で。

 ボクは思わず言葉を詰まらせて、しかし素直に白状した。







「そんな、ヒドイです!」


 ボクが学園で受けた仕打ちを聞いて、ベネットは憤慨した。

 テーブルを叩きながら立ち上がる。そんな彼女の様子を見て、ボクは思わず苦笑いをしながら答えるのだった。


「いや、きっとボクにも落ち度があったんだよ。そうでないと――」

「そんなはずないです! だって、アインさん良い人ですから!!」

「――あ、ありがとう?」


 しかし、それを遮るようにして。

 少女は力強くそう言った。思わず苦笑い。

 とりあえず座るように促すと、彼女は頬を膨らせ、こう口にした。



「きっと、アインさんの才能に嫉妬したんですね」――と。



 ボクはそれを聞いて、首を左右に振った。



「それはないよ。だって――」



 そして、否定の理由を告げる。




「ボク、魔法学園の成績――最下位だったから」







「それじゃ、また明日!」

「今日はありがとうございました!」



 アインとそう言葉を交わして別れ、ベネットは夜の街を歩き始めた。

 そして夜空を見上げながら思い浮かべるのは、ダンジョンでの出来事。圧倒的な力で、強力な魔物であるドラゴンを倒したアイン。

 彼の後姿を思い出し、少しだけ頬を赤らめた。


「かっこよかった、なぁ……」


 そして同時に、彼への憧れを漏らす。

 自分も駆け出しながら冒険者だ。しかし、あのような実力を持った人物を、ベネットは知らなかった。だから、改めて首を傾げる。


 どうして――。



「アインさんの力は、認められなかったのかな」――と。




 少女は考え込む。

 しかし、その答えはちっとも出てこなかった。



 




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