第50話
私は外が騒がしいことに気付き、二階の窓から街の様子を眺めていた。
そこには面白い……、否、凄まじい光景が広がっていた。
銃を持ったアーノルドから、ナターシャが必死に逃げていたのだ。
彼女は、街中を普通に走っている。
それはつまり、「私は今まで嘘をついていました」と皆に言っているようなものだ。
ついに、彼女の嘘は、街中の人に知れ渡った。
そしてそのことを最も怒っているのが、アーノルドだ。
それは、今の彼の様子を見ればわかる。
狂ったように、銃を片手にナターシャを追い回している。
銃弾が彼女に当たった。
しかし、彼女は万能薬を持っていたようで、それを飲んで再びアーノルドから逃げていた。
そして彼女は、私がいる建物のところまで来た。
そこでまた、銃声が聞こえた。
しばらくすると、私がいる部屋に、ナターシャが入ってきた。
「お久しぶりですね。元気そうで何よりです」
私が彼女に微笑んだ。
「……な、何言っているのよ。これが、元気そうに見えるわけないでしょう……」
そう言ったナターシャの脇腹からは、血が流れていた。
さっき、またアーノルドに撃たれてしまったのだろう。
「お願い、私に万能薬をちょうだい……。もう、痛みでどうにかなりそうだわ……」
そう言ったナターシャは、床に倒れ込んだ。
「万能薬ですかぁ……、でも、あなたには、効かないのでしょう? 自分でそう言っていたじゃありませんか……」
私は目の前で倒れているナターシャを見下ろしながら言った。
「ふざけている場合じゃないの! 早くしなさい! もう、意識がなくなりそうなのよ……。お願い……、私が悪かったから……。今までのこと、誤るわ。本当に、ごめんなさい……。お願い……、早く、万能薬を私に……」
床に這いつくばっている彼女は、虚ろな瞳になっていた。
意識がなくなる寸前で、どうにか持ちこたえている。
そんな彼女を見て、私は……。
*
あれから、一か月が経過した。
アーノルドが街で暴れた事件は、大々的に報じられた。
それはもちろん、街で男が銃を乱射したというせいもあるけれど、その事件が数日の間、新聞の一面を飾っていたのには、もう一つ理由がある。
それは、ナターシャが街中の人を騙していたことだ。
万能薬が効かないことで、彼女は世間から同情を集めた。
しかし、そんな悲劇のヒロインだと思われていた彼女が実は、街中の人たちを騙していた大ウソつきだとわかり、世間を騒がせていた。
そんな彼女は当然、世間からバッシングされた。
それだけではなく、彼女の今までの行動も明るみに出て、今世紀最大の詐欺師として、世間を騒がせた。
もちろん、彼女は逮捕された。
それは、アーノルドも同じだ。
彼は町で銃を乱射したのだ。
最愛の人に裏切られたショックのせいだとはいえ、自業自得である。
彼は駆けつけた憲兵に捕らえられた。
そして、二人は仲よく、極刑が決まった。
私はあの時、ナターシャの頼みを聞いて、彼女に万能薬を飲ませた。
そのまま死ぬのは、生温いと思ったからだ。
彼女には、嘘をついた報いとして、世間からバッシングされながら刑を受けるのがふさわしいと思った。
二人とも、本当に哀れである。
あのまま、私を裏切ることなく屋敷にいれば、それなりの生活を送れたでしょうに……。
こんなことになって、極刑になるなんて、あの時の二人は思ってもいなかったのでしょうね。
まあ、自業自得だから、同情なんてしていませんけれど……。
婚約者の幼馴染が、私の屋敷に住み着き、婚約者まで奪いました。彼女は病弱を盾に好き放題しているので、万能薬を作ることにします 下柳 @szmr
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