第49話
(※ナターシャ視点)
私は街中を、必死に走っていた。
当然、街中の人からは、注目を集めていた。
私は身体が思うように動かせないことは、誰もが知っているからだ。
そんな私が走っている姿を見れば、驚くのも無理はない。
しかし、そんなことを気にしている場合ではなかった。
私には、走らなければならない理由があった。
私は現在、アーノルドから必死に逃げている。
理由は簡単で、彼の右手には、銃が握られているからだ。
「やめて、アーノルド! お願い!」
私は逃げながらも、うしろから追いかけてきている彼に懇願した。
しかし、彼は言葉を発することはなく、代わりに銃弾を放った。
私のすぐ横にあった木箱が割れる音がした。
もう少し横にずれていたら、私に直撃するところだ。
私は恐怖を感じながら、必死に逃げた。
私の右手には、万能薬が入った瓶が握りしめられている。
そもそもこうなったのは、私が嘘をついていたと認めなかったからだ。
彼はあのあと、万能薬が入った瓶と銃を用意して、何のためらいもなく私を撃った。
今までに味わったことがないような激痛に襲われた。
体からは血が流れ、痛みでおかしくなりそうだった。
そこで私は、机の上にあった万能薬を飲んだ。
すると、撃たれた傷は塞がり、痛みも消えた。
そんな私を見てアーノルドは……。
「ほら、やっぱり、万能薬は効いているじゃないか。君が嘘をついていた証拠だ」
そう言って、彼はにやりと笑った。
私は彼のその表情を見て、背筋がぞっとするのを感じた。
彼は、とても正気とは思えない。
私は机の上にあった万能薬が入った瓶を持って、屋敷から飛び出した。
そして現在の状況に至る。
アーノルドは、銃を持って追いかけてくる。
寝不足のせいだけではない。
彼の表情は、今までに見たことがないほど歪んでいた。
「よくも今まで騙していたな! 謝れ! そして、私や街のみんなにも、認めるんだ! 万能薬が効いていないと嘘をついていたことを!」
アーノルドは叫びながら、銃弾を放った。
私の体に、激痛が走った。
思わず、地面に倒れ込んでしまった。
「うぅ……、痛い……。もう、お願いだから……、やめて」
私は持っていた万能薬を飲んだ。
すると傷口は塞がり、痛みも消えた。
私は立ち上がり、追いかけてくるアーノルドから、再び逃げ始めた。
「絶対に許さないぞ、ナターシャ!」
狂った叫び声を上げながら、アーノルドが追いかけてくる。
私が認めるまでもなく、この様子を見ている街の人たちは、私が嘘をついていたと気付いたはずだ。
まさか、こんなことになるなんて……。
気付けば、万能薬が入っていたはずの瓶は、空っぽになっていた。
次に撃たれたら、私は終わりだ。
狂人と化したアーノルドは、止まる様子はない。
いったい、どうすればいいの……。
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