プレゼント交換会

むーこ

プレゼント交換

クリスマス会などでしばしば行われるプレゼント交換。何を持参すれば良いのか悩む人は少なからずいると思うが、私は文具を選ぶのが良いと思う。

文具は良い。家にあって困るものではないし、実用性重視の物やデザイン性重視の物など送る相手によって様々な種類を選べる。

だから私はライティングの契約をしている出版社で開かれたクリスマス会にプレゼントとしてやや値の張るボールペンを持参した。参加者は編集者や事務員、ライターなど物書きに関わる人ばかりなので役に立ててもらえれば万々歳だ。




…と思っていたが、プレゼント交換でいざ私のもとに回ってきた物を見た瞬間に私は「返してくれ」と叫びたくなった。

私に回ってきたのはゲームのプリペイドカード1100円分。そこそこ使い所に困る金額で且つ我が家にはゲーム機が無い(あると仕事しなくなりそうなので)。

ゲーム持ってる知り合いにあげようと思いつつプリペイドカードを包み直していると、編集者の金本君が素っ頓狂な声を上げた。


「これ入れた人、どんな気持ちで入れたんですか!?」


金本君の手に渡ったのは隣市の指定ごみ袋だった。該当の市に知り合いでもいない限りどうしようもない品である。


「多分それ誰かが押しつけようとして入れたんだよ」


そう言いながら金本君を指差し笑うのは彼の先輩である樹さん。そんな彼の手にはタバコが握られているが、彼はタバコを吸わない人間なので絶対に必要無いだろう。

樹さんは喫煙者である事務員のゆうきさんに交換を持ちかけた。ゆうきさんは「嬉しいですぅ」と喜びながら樹さんに自身の持っていた白い箱を差し出した。箱の側面には黒いマジックで『ヤシガニ』とだけ書かれており、書いてあるとおりの物が中身だったらヤバいんじゃないかなぁと思ったが、実際の中身は毎週日曜日の朝8時半頃から始まる美少女アニメのぬりえ帳だったので本当に意味がわからなかった。

その後もGペンの先10本セット、黒板消しクリーナー、セガサターンのソフトなど使う人を選ぶ品々ばかりが出てきて編集部が阿鼻叫喚に包まれた。


「ていうか誰が何を持ってきたんですか?正直に言いましょうよ」


編集者の宮脇さんが業務用の花椒を片手に呼びかけると、各々の顔が明後日の方向を向き始めた。


「まさか皆、名乗り出せないようなものを持ってきたんですか?」


あまりに悲壮な光景に思わず私が口走ると宮脇さんから「黒牟田さんは当たりな方です」と言われた。ゲーム機が無いので全然当たりではない。

とにかく自分が持ってきたものを指差そう。そういう話で決まり、各々が自分の持ってきたものを指差した。その結果、


プリペイドカード→ゆうきさん

指定ごみ袋→樹さん(笑ってたくせに)

タバコ→宮脇さん

『ヤシガニ』→ライターの木村さん

Gペンの先→事務員のミン君

黒板消しクリーナー→編集長の但馬さん

セガサターンのソフト→金本君


ということがわかった。ミン君は「みんな物書きだし使ってよ」と開き直り、但馬さんは「酔った勢いで買ってしまって、どうしようか悩んでたんです」と全く共感できない言い訳を聞かされた。

ちなみに私のボールペンは但馬さんに渡った。但馬さんは「当たりだー!」と喜んでいたし一番使いそうな人なので良かった。 




出版社でのクリスマス会を終えた後、友人の村山が働くケーキ屋でクリスマスケーキを受け取り帰宅すると、仕事から帰っていた同居人の秋沢がテーブルの上にオードブルと皿を並べていた。


「おかえり〜プレゼント何だった〜?」


にこやかに言いながらクライナーを数本出してくる秋沢に、私はプリペイドカードを出してみせた。秋沢はしばしカードを眺めた後、困惑を孕んだ笑顔で「ゲームしてる知り合いにあげよっか」と言った。なんだか申し訳無くなった。

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プレゼント交換会 むーこ @KuromutaHatsuro

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