第5話 ホワイトクリスマス

空は薄暗く、地面は真っ白に染まっていた。

雪はまだ降り続けているクリスマス。

朝早く起きて、僕は商店街へと向かった。

どこを歩いてもクリスマスセールを

やっていた。

今日はホワイトクリスマス。

まだ朝だと言うのに

多くの恋人たちで賑わっていた。


「今日はどこ行くのたっ君?」


「クリスマスツリーでも見に行こうか?」


「うん行こう」


何気ない会話も今の僕にはものすごく響く。

あんな風になるはずだったのに……。

まず、玩具屋に入り、熊のぬいぐるみを探した。

彼女が気に入りそうなのは……。

これかな。

顔が笑っている可愛い熊のぬいぐるみを

見つけたので買う事にした。

でも……どうして熊のぬいぐるみが

欲しいんだろう?

そんなことを考えながら、レジを終えて家に帰った。

今頃、デートをしていたはずなのに……。

やる事がなく、ゲームをしたり本を読んだりして時間を潰した。

気がつくともう夜の6時になっていた。


「よし、行くか」


2時間待って来なかったらもう帰ろう。

そんな気持ちで僕は待ち合わせの駅で待っていた。そこには大量のカップルが写真撮影を楽しんでいた。

はあ……。

吐いた空気が雪のように白く染まっていた。

厚手のコートを着てきて正解だったな。

南極のような寒さを感じていた。

それから何時間が経ったかも分からない。

ただ彼女が来ることを待っていた。


「おーい、卓人くん」


声が聞こえてきた。

目の前には真田さんがいた。


「来てくれてありがとう。

もう来ないと思ったよ」


「ねえ、私を助けて……」


そう小声で呟いてきた。

助けて?何から助けたらいいのか分からなかった。


「おい、お前が卓人だな!!」


彼女の後ろにおおきな体の男がいた。

確か……あの時のレストランで……。

彼女をナンパしていた人と同じだった。


「はい……そうですけど」


バン


突然頬を殴られてしまった。

あまりに突然過ぎて何が起きたかも分からなかった。


「この罰ゲームはもう終わりだ。

さあ帰るぞ夏美」


「嫌だ……。もう私無理だよ……」


彼女は僕に腕を見せてきた。

その腕は真っ赤に膨れ上がっていた。


「どう言うことだよ!!」


「こいつが他の男の事を考えてるから罰として殴っただけだ」


僕の堪忍袋の尾が切れた。


「お前、あいつがクリスマスプレゼントに欲しいもの何か知ってるのか?」


「ああ。熊のぬいぐるみだろ?そんなもの朝渡したよ」


僕は持っていた熊のぬいぐるみを地面に落とした。


「違う……。そんなものじゃない……。

彼女がずっと欲しかったのは……」


過去の言葉が蘇る。


『欲しいものは別に無いな』


『本当に何も無いの?』


『まあ強いて言うなら友達にかな』


『友達いないの?』


『うん』


『一緒だね』


なぜ熊のぬいぐるみを欲しがったのか?

それは1人が寂しかったからだ。

僕にもその気持ちはよく分かる。


「何だよ!!お前が欲しいものなんていくらでも用意してあげるから」


「……友達だよ」


「友達?」


「彼女は友達がいなかったからいじめを受けていた。

自分と同じように……」


「俺たちは恋人だぜ」


「違う……。お前なんか……友達じゃねーよ」


「じゃあ何なんだよ!!」


「ただの……腐れ縁だよ……」


男は上手く言い返すことが出来ずに黙って帰っていった。

彼女は僕の隣に近づいてきた。


「僕たちの罰ゲームも今日で終わりだね」


「うん……」


「ありがとう。早く写真撮って終わろうよ」


「嫌だ」


予想外の返事にびっくりした。


「どうして?」


その瞬間、僕の唇に温もりを感じた。

これって……キス!?


「何で……僕はあの日、振られたんじゃ……」


「あれはあいつに嫌々言わされたの。ごめんね」


そうだったのか。


「もう1回自分の家で王様ゲームしよう」


あまりの急展開で頭がついていけてない。


「誰と?」


「2人で」


「行くよ……」


「それ、楽しいの?」


僕は彼女に腕を引っ張られながら彼女の家に向かった。

それから何があったかは覚えてないが、

最後のゲームで彼女が言った言葉だけは覚えている。


「私と付き合って!!これは王様の命令だからね」


あまりに突然すぎてびっくりしたが、

僕も気持ちを伝えないと……。


「僕も大好きです。こちらこそよろしくお願いします」


僕達はクリスマスの夜に笑いあった。

こんなに楽しいクリスマスになるなんて……。

僕の欲しかったものは……友達だったのかもしれない。

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クリスマスプレゼント 緑のキツネ @midori-myfriend

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