第5話 加藤 百合に春が来た

8月、遠足が近くなっていた。(その前にテストがあるので実際に遠足をするのは9月)


休み時間になると、学級委員副委員長の加藤百合が遠足の日程が書かれたプリントを一人ひとりの机に置いていた。

しばらくすると、加藤がこっちの列にプリントを置きにきたので、通路に立って話をしていた俺は避けた。つもりが、加藤はよろけて俺の足につまづいてしまった。持っていたプリントは全てばら撒かれた。

加藤の腕を掴んで支えようとしたが、床に舞い降りたプリントにより足を取られ加藤に床ドンされる形になった。


シ——————————————————ン



「「…………」」

「春屋くん、大丈夫ですか?」

目は開いてるが、放心状態だった。

「頭を打ったのでは?保健室行きますか?」

「あ、いや、大丈夫……よいしょ。」

加藤が手を貸してくれ起こされた。

「加藤こそケガない…?」

「私は大丈夫ですよ、心配ありがとうございます。」

と言ってプリントを拾い作業を続けて行った。





そして放課後、俺は掃除が遅くなり教室に帰るのが遅くなった。教室に向かうと本を広げている加藤の姿が見えた。

何を見ているのだろうか、と教室のドアの窓から覗いていると、

「はあああるうやあああああ(春屋)‼︎‼︎‼︎‼︎帰r」

突如後ろから大声を出してきた橋下に驚き、もみくちゃになりながら口を塞いだ。すると加藤が何事かと出てきた。


「あ………」

俺たちの姿を確認すると、頬を赤らめた。

「あれ、加藤さんまだ帰ってなかったんだ。」

俺に突然口を塞がれた理由がわかったようだった。


「あの、お二人は…」


「そういうご関係なんでしょうか……?」


「「えっっっ?」」


「あっああごめんなさい‼︎‼︎すぐ帰ります‼︎‼︎」

と言って教室に戻り、鞄を手に取って走り去っていった。


「加藤さんめちゃくちゃ足早えんだな…あれ?何これ」

橋下が呟きながら教室に入ると、足を止めた。

橋下の声のもとにかけ寄ると、薄く大きい本が落ちていた。

中をペラリとめくってみると手が止まった。

これは俗に言う男同士の恋愛もの、というやつか。


ゴトッ



音がして振り返ると加藤の姿が。


「あっ加藤…さん…」

「お二人さん、見てしまいましたね……」

あまりにもすごいオーラに怖気ずく。

「ご、ごめんなさい……」

怖いオーラに半泣きの橋下。



「お願いです‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎このことは誰にも言わないでください‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

半泣きで凄い怖いオーラを放ちながら、俺の腕にグワシッとしがみついて言った。

「加藤さん……痛い……そのオーラも怖い……」

加藤の力はここにいる3人の中で一番強いのではないかと思った。






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私、加藤百合は中1の時に『◎ーイズラブ』に目覚めた。私の中の世界が広がった気がした。

私は昔から本を読むのが好きで、漫画や小説の読む種類の幅は同じ学年のみんなより広いと思っていた。しかし私の世界に『B◉L』が入ってきた途端に読む本の種類の幅や登場人物の関係の見方などが変わった。




私はこのことに感動して、当時の友達に教えた。

言わなければよかったと後悔することになったが。


汚さないで‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎


その一言がきっかけで友達をつくることをやめた。

でもこの趣味をやめることはできず、一人隠れて楽しむようになった。


そして友達を作らないまま高校に上がった。

すると同じクラスには、仲の良い男の子達。

勝手ながらもしカップルだったなら、どっちが攻めなのだろうか考えてみたりした。


副委員長の仕事をしていてばら撒いたプリントにつまづいて春屋くんに床ドンした。

この床ドンしたのが橋下くんだったら………


春屋くんに大丈夫?と言いながら助け起こし作業を続けた私の顔は、妄想でにやけていたと思う。

あの顔を誰にも見られていなくてよかった…と思ったのも束の間、薄い本を彼らに見られてしまった。


ああ、オワタ……………

私は想像で真っ青になり口から血を流していた。




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「お願いです…このことは誰にも言わないでください…言われたら私の高校生活オワタ…」


ボソボソと魂の抜けたような顔で座り込んだ。



「俺たちは言わないよ、な、橋下?」

「当たり前だ!口は堅い方なんだ!」


「でも私の趣味おかしいと思ったでしょう?」

真っ黒に染まったような瞳でガン見された。

俺たちはドキッとした。

俺は俗に言う腐女子という人がいることは知っていたが、現実で会ったことがないため自分らがそういう目で見られていたと思うと上手い反応ができなかった。


「趣味って他人の目を気にしながら楽しむもんなのか?」

「人の目を気にしなきゃいけないんです!」

「じゃあネットの世界があるだろ」


グイグイと橋下が引っ張っていく。


「『青い鳥』っていうアプリがあるんだが色んな趣味を持った人と繋がることができる。やってみたら楽しいぞ。」


数日後、加藤がキラキラした目で話しかけてきた。


「青い鳥、めっちゃいいです。また世界が広がりました‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」


キラキラしたオーラでスマホを見つめる加藤をよく見るようになった。




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