第4話 篠田 葉に春が来た
7月中旬、暑さが本格的になり体育祭が近づいてきていた。
俺は、暑い日溜まりの中にポツンと、
「そろそろ戻るか。」
橋下が俺に言いかけたその時、向こうの辺りでケンカの声が聞こえた。
「てめえ篠原!!俺にガンつけるとは良い度胸だなあ!!」
「おい、俺は何もしてないって言ってるだろ??」
「ふざけんなああ!!!!!」
“篠田”という男子生徒が血の気の多い男子生徒に絡まれていた。
「あ〜またやってるよ篠田くん、元々目つき悪いだけなのに…」
「逃げずにケンカするからまた絡まれるんだよね〜」
俺の近くを通り過ぎた女子生徒が会話していた。
その篠田くんとやらは正当防衛で負かしていた。
教室への帰り際橋下が、
「篠田のやつ、見るたび絡まれてんの可哀想だよな」
「そうだったのか?」
「ああ。中学の時から変わらないんだぜ?いつも顔とか容姿で判断されやすくてちょくちょくキレてたよ、『なんで俺ばっかり絡まれるんだ』って。」
夕方が近くなり、少し暗くなった教室で教科書を鞄へ詰めていた。
するとガラッと教室のドアが開き、篠田の姿があった。
「お、まだいたのか、じゃあな春屋。」
「じゃあな。」
(同じクラスメートだったとは…)
篠田もまた、荷物を詰めているところだった。
「あの、篠田?」
「うん?」
「悩んでることとかってあるか…?」
聞いてみることにした。
篠田は少しハッとしたような顔をした。
「この学年に『相談屋』みたいなヤツがいるって聞いたことあんだけど、お前の事なのか?」
「多分そうだ。」
「そうか、じゃあ少し俺の話を聞いてもらえるか?春屋。」
「ああ。」
俺の名前は、篠田
髪を茶色に染めて、ネクタイを少し緩め制服を着崩していた。それが俺のファッションだ。
その見た目のせいもあり、チャラい・ヤンキーとみなされ悪者扱いだった。
ある時、クラスである女子の財布がなくなった事件があった。事件発覚の前の授業(移動教室)の際、俺が最後に教室を出たため真っ先に俺に疑いがかかった。
別室に呼ばれ学年主任が、
「私達が疑ってるわけではないんだけど、財布無くした生徒が篠田くんなんじゃないかって言ってるんだけど、心当たりある?」
俺にはもちろんない。その女子とだって親しくないし。
教室に戻ろうとドアにかけた時、
「篠田くんはチャラいしヤンキーだからお金を盗もうとしたのかもしれない」
誰かの女子の声が聞こえた。
そう思われやすいってわかってたから、遅刻もしなかったし寝ずに授業を受けて提出物の期限を守り、成績だって上の方に入れるように頑張った。
なのに周りの奴らは表面だけで判断して………
静かに怒りで震えた。ドアを開けようとした時、
「心外だなー!お前篠田とそんなに仲良いのかよ?」
「え、いや…」
「じゃあ思い込みで他人に容疑をかけんなよ」
しんと静まりかえった教室。
後日、財布は見つかったそうだ。彼女の自室で。
そもそも財布は学校に持ってきてはいけないものだったため、キツ〜くお叱りを受けていた。
俺も方は学校から、周りから疑われやすい事をして申し訳ないと謝罪された。
またそれとは別に、髪色を地毛に戻すよう指導された。
その事件後、俺も周りも一定の距離を置くようになった。
そんな中、普通に接してくれたヤツがいた。それは橋下楓。
時々下校で一緒になり、帰った時もあった。
それは高校でも続き、変わらず話しかけてくれた。
「てことで、表面上だけでの判断がある意味トラウマっていうか…苦手っていうか…」
「じゃあその見た目を誤解されない具合に直せばいいのでは?」
脳で考える間も無く口に出てしまった。
「い、いや、なら普通にみんなに話て見ればいいんじゃないか??」
沈黙およそ1分。
「篠田。」
「わかった、春屋。俺やってみるよ、じゃあな!」
嵐のように去って行った。何がどうなるんだ?
翌日
篠田は中身は根っからの真面目人間だそうで、委員長に立候補していたらしい。
体育祭の役わりを決めるHR《ホームルーム》の司会をしていた。
男子が積極的にこれがやりたいと手を上げる中、女子の方が全然決まらず、
「みんなやる気無くね〜?」
篠田が言った。
「篠田くん、ちゃんと当日来る?」
女子の誰かが言った。
「サボったりしないかなって……」
しんと静まりかえった教室の中、第一声を上げたのは、
「みんなごめん!」
篠田。
「誤解させるような格好でごめん、だけど心配しないでくれ!俺は、中身真面目人間だし、絶対サボったりしない!!!」
「信じてほしい!!!!」
クラス一同突然の大声にびっくり
大声で驚いた表情のみんなと教壇から頭を下げる篠田の図。
お互いに何が起きたのかわからなくなり、みんなで笑った。
それから一致団結した俺らのクラスは優勝した。
篠田の引っ張りがあったおかげだったと思う。
それから篠田の方も人付き合いが多くなり、クラスでも笑い声が増えた———
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