第2話 イギリス貴族と超能力者!?

 テレビを見ていると、褐色の男が超能力らしいものを披露し始めた。


「はい、これがハンドパワ〜。」


「…誰ですの?これ。」


 如月が元気よく答える。


「あ!この人は最近よくテレビに出てくるイケメンマジシャン、『ibukiイブキ』だよっ!すごいよね〜ハンドパワー。」


「す、すごいですわねー…」


 口ではそう言ったが私はハンドパワーを信じなかった。超能力なんてあるわけがない。きっとヤラセに決まっている。


「あ、もうこんな時間だ!歯磨きして早く寝ようよ!」


 テレビに夢中になりすぎて気が付かなかったが、時計を見るともう日を跨いでいた。


 歯磨きをした後、私はすぐに眠った。


 *


 次の日、商店街に買い物へ行ったら黄色い歓声が耳に響き渡ってきた。


「きゃーー!!ibukiさん、もっかいやってー!!」


「ハンドパワーは本当に存在したんだ!!」


「いいぞー!!かっこいいぞー!!」


「…ibuki?聞き覚えがありますわね…あ!!」


 彼の顔を見て思い出した。昨日テレビに出ていたマジシャンである。


 私が彼を見ていると、彼から話しかけられた。


「は〜いそこのお嬢様。僕の超能力、見ていかない?」


「え?いやーあの、急いでますので…」


 茶番に付き合っている暇はない。


「そうですか。ふぅ〜。」


 何やらibukiがため息らしいものを吐いた。少し申し訳ない気持ちだったが、もう会うことも無いだろうし無視して行こうと思った時だった。


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 彼がそう言うと、私の足が止まった。


「…え!?足が動きませんわ!?」


 何が起きているのか全く分からない。これがハンドパワーというものなのだろうか?しかし、彼は手なんて使っていない。


「さあ、。」


 彼に逆らうことができず、彼の元へ向かってしまった。


「何が起きてますの〜!?」


 本当に意味がわからない。体が思うように動かないのだ。まるで体の所有権を奪われたみたいだ。


「ふっふっふ。これがハンドパワ〜。」


「いや、手使ってませんわよね!?!?」


 ついツッコミを入れてしまった。


 *


 買い物が終わり家に帰ろうとしていると、またibukiに出会った。


「あ!先程のお嬢様。ごきげんよう。」


「ごきげんよう…って、何をしていますの?」


 テレビで見たままの彼とは異なり、メガネに付け髭、帽子と変装セットのお手本と言わんばかりの物を付けている。


「いやー、歩くだけで人が群がるので…有名人は大変ですよ。」


「ふん!それはイギリス貴族の私もわかりますわ!有名人って大変ですわね〜!!」


 私はつい有名人マウントを取ってしまった。


「おっと、これは失礼。貴族の方でしたか。先程は僕のハンドパワーを体験して頂き誠にありがとうございました。」


「えぇ…凄かったですわ。」


 先程の超能力は明らかに本物である。彼は本当に人間なのだろうか?私は気になり、質問をした。


「それにしても…あなた一体何者ですの?」


「僕ですか?僕はただのですよ。」


 エンターテイナー。娯楽を提供して人を楽しませる人。しかし彼がただのエンターテイナーな訳が無い。実際に私の体を動かしたのだから。


「さっきの超能力は一体なんですの…?」


「ふふ。ハンドパワーですよ。」


「だから手使ってな…」


 私がツッコミを入れてる途中で彼は急にどこかに向かって走り出した。


「ごめんなさ〜い!急用を思い出したんです!また逢う日まで!お元気で〜!!」


 彼の足はとても速く、あっという間に見えなくなった。


「一体なんだったんでしょう…色々疲れたし、もう帰りますわ…」


 *


 家に帰るとニュースにibukiが出ていた。


「あ!ibukiさん!」


「あぁ。オリビアちゃん。昨日言ってたibuki、ヤラセがバレたみたいだよ。いや〜、私も正直怪しいと思ってたんだよね〜。」


「いや。ibukiさんはやらせなんかじゃありませんわ!!本当です!!」


「ふふ。オリビアちゃん、そんなにibukiのことが気に入ったの?」


「いいえ、今日買い物の途中で会ったんですわ。それでハンドパワーを実際にかけられて…」


「え?ibukiは昨日の夜に海外へ飛び立ったんだよ?」


「あれ…?じゃあさっきのは…」


 謎は深まるばかりだ。


 *


 時刻はまだ5時だというのに空は暗黒雲ダークネビュラに包まれていた。我は身を隠すための変装道具を外し、公園のベンチに腰かけた。


「ふぅ。超能力ってのは疲れるものだ。クックック。このベンチで失われた我がエネルギーを蓄積するとしよう。」


 我がそうやってベンチに座っていると、一人の小娘に話しかけられた。


「え!?ibukiさんですか!?」


「フン。小娘が。我はibukiなどでは無い。我が名はロキ。今はibukiという男の体を真似ているだけだ。」


「え?それってどういうこと?」


「頭の悪い小娘だ。一言で言ってやろう。我はibukiいうしょうもない超能力者モドキなどでは無い。我が名はロキ…」


「あの、一言になってませんけど」


「うるさい!!!!」


「あれ…?体が勝手に…!」


 そう言って小娘は帰って行った。やれやれ。は本当に疲れる。


「クックック…次は何をしようか。」


 そう言って我は公園を後にした。

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イギリス貴族の私がなんで!? 早乙女ペルル @Shuu1117

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