情景描写ってなんだ? 前編
今回のお題は「情景描写」です。
心理描写同様、こちらもツイッターにてお題を頂きましたので書かせて頂きます。
複雑怪奇な心理描写に比べて、情景描写の方が分かりやすいかも知れません。
つまりは、読んで字のごとく情景の描写の事です。
物事がどこで起きているのか、キャラクター達はどんな場所で話しているのか。
場面、舞台、シーン。現実も非現実も関係なく、たとえ夢の中であろうが幻覚の中であろうが、物事は必ずどこかで起きているものです。
そして、情景とは背景だけにあらず。その場に登場するキャラクター達の見た目や仕草なども情景描写の一部に含まれると、夜葉は解釈しております。
この情景描写が欠けると、たとえ熱い展開が繰り広げられていてもどこで何が起きているのか分からないため、情報が不足してせっかくの見せ場がふわふわとした曖昧なシーンとして終わってしまいます。
今回は筆者作品の序盤で描いた情景描写を引用しながら、説明して行きたいと思います。
説明の前に本文を読んでおきたい方は、4話までお読み頂けると筆者が喜びます。
長編作品『この世界には私が眠っている。』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054944120041
ではまず、一話冒頭のプロローグ部分を読んでいきましょう。
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「ここは、どこだ……?」
男は見知らぬ森の中で目覚めた。
死んだように静かで薄暗い自然の中で、男はゆっくりと起き上がった。
暗闇の中で一人考える。
「私は今まで何をしていた?」
「そもそも私はどこから来た……?」
「私は……」
「私は、いったい――――――」
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はい。分かりにくいとは言わないでください。
以上の場面では、男は見知らぬ森の中で目覚めた事が分かり、さらにその森がただの森でなく静かで薄暗い場所であると情景の詳しい情報が加えられております。
情景描写というと広がる場面を事細かく描くと思っている方もいるかも知れませんが、今回の場合は男の記憶が曖昧になっているため、知らない場所にいる。という事を強調するためにあえて情報を抑えております。
実は情景描写において描き方を分ける大きな要素があるのですが、何か分かりますでしょうか。
それは作品の根本的な書き方「一人称か三人称か」が重要となってきます。
一人称と三人称の違いについては今回省きますが、ざっくり言うと何人称視点の作品かでどれだけの情報が分かっているかの差が生まれるのです。
例えば一人称の場合、主人公などその視点を担う人物の心理と五感で感じたものが主な情景となります。
硬い石畳の上を歩くとか、凍てつく寒さに襲われる、殺気を持った視線で溢れているなど、視点となる人物が知っていたり感じていたりした情報を描く事が一人称視点における情景描写となります。
今回の引用した文章では、男の立場に立って描く一人称視点を用いておりますので、記憶が曖昧という不安から知らない場所にいる。という情報を強調するように描いているのです。
続いて、プロローグが開けた直後のシーンについて読んでいきましょう。
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「ここは……」
男は眠たげに目を擦る。どこからか差し込む日差しが目に沁みた。
時間が経つにつれ視界がはっきりと映っていく。どうやらここは宿屋の一室のようだ。
「おや……目が覚めましたか?」
茶色の髪に可愛らしいバンダナを巻いた、小柄な少女が駆け寄ってきた。
身に着けたエプロンや立ち振る舞いを見るに、どうやら彼女はここの従業員らしい。
「少し待っていてくださいね。お医者さんを呼んできますので」
そういうと少女はそそくさと部屋を後にする。男は横になったまま天井を見つめた。
何故このような場所にいるのか。これまでの経緯を振り返ろうとするも、記憶がぷつりと途切れる。
とりあえず起き上がろうと身体に力を入れるも、上手く入らず起き上がれない。
男は気だるさからそのまま目を閉じ、再び眠りに就く事にした。
段々と意識が薄れていく。きっとこれは夢の中か何かだろう。男はそう考え、あと数秒で眠りに就く……はずだった。
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気を失った後、再び見知らぬ場所で目覚めた男。
ぼんやりとした意識で辺りを眺めていると、宿屋で寝ていたと気づくシーンです。
またしても意識ははっきりと目覚めていないため、最低限の情景を知った後は自分の事について意識が向いています。
その心理を反映するように、情景描写としては宿屋らしき場所にいる。という事だけを描いております。
また初登場したキャラクターも同時に描くため、背景と同じ場面で見た目についての情報も書いております。
情景描写とは、最初に伝えたように風景だけではなく、キャラクターの見た目や様子も含んだ場面の事を指すのです。
前編では一人称における情景描写を中心に、情景という言葉にはキャラクターの情報も含まれるという事を記述しました。
後編では、三人称における情景描写について語りたいと思います。
引き続き後編もお付き合い頂けると嬉しいです。
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