第8話
「ごめんね、それはわたしのエゴなんだ……。どうしようか悩んだまま伝えられなくて、結局そのまま何も言わずに今日まで来ちゃったんだよね……」
「エゴって……」
「わたしずっと紗良ちゃんのことが好きで、今年のクリスマスに告白して驚かせようと思って計画してたんだ……。だけど、まさか先に告白されちゃうなんてビックリしちゃった……。どうしたらいいのか分からないままに話が終わっちゃったから、結局今日まで何も言えなくて……」
次第に実果の目が潤んで、涙が溜まっていく。
「何よ、それ……」
「本当にごめんね!」
両手を合わせて謝られても紗良は困った。本当はいろいろと言わないといけない事はあった。
どうして両想いならその場で素直にそう伝えてくれなかったのかということへの疑問や、告白した日に実果の言葉を最後まで聞いてあげなかったことへの申し訳なさ。
本当はいろいろとゆっくりと話さないといけない気はするけれど、もうそんなことはどうでもよかった。
じわじわと、時間が経つにつれて実果と両想いになれたという実感が湧きあがってくる。
紗良は申し訳なさそうに謝る実果のことをゆっくりと抱きしめた。実果の顔を胸に埋めさせながら、バレッタに手が当たらないように気を付けながら頭を撫でた。
「とりあえず、わたしの告白は今実ったということでいいのかしら?」
紗良がゆっくりと噛み締めるように伝える言葉を聞いた実果が顔をあげて、澄んだ瞳でじっと紗良のことを見つめながら言う。
「当たり前だよ! むしろわたしのほうが紗良ちゃんのことずっと好きだったんだから!」
「そう、よかったわ……」
紗良は心の底から嬉しい気持ちを浸透させていくみたいに、ゆっくりと微笑んだ。そうしてそのまま実果に口づけをした。
外は冷たい風が吹いていたけれど、わたしたちは今とてもあたたかい。
紗良は実果のあたたかさを感じながら、もう一度ギュッと実果のことを抱きしめた。
ふざけてなんかないよ 西園寺 亜裕太 @ayuta-saionji
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