結局、俺が続けてきた十年間の努力は、全てが無駄だという事を思い知らされた。

 だというのに、俺は魔法使いという夢を見続けている。

 存在しないと否定されたのに、だ。


 呆れてものも言えないとは、多分この事なのだろう。

 漠然とした夢に、それに辿り着く道筋も、方法も未解明で不透明。

 先行きなんて、全く見えない。


 それでも、俺は――


◇◇◇◇


「ねぇ、アルク?」


「うん?」


「アルクは、これから――どうしていきたいの?」


 怒涛の展開が巻き起こった自己紹介を終えた後。

 俺は、ノルにすべてを打ち明けた。

 今までのこと、つい先ほどまでの事。

 そして、前世の記憶についても、嘘偽りなくすべて。


 話の最中、ノルは一言も口をはさむことは無く。

 時には楽し気に笑ったり、時には怒るように頬を膨らませたり、時には悲し気に目を伏せたりと、

 表情豊かに、俺の話を最後まで聞き届けた。


 それを真摯に受け止めようとする彼女だから、これからの事を聞いてきたのだろう。

 神秘的な光を放つ青紫色。

 そこには、肯定も否定も、同情も蔑みもない。

 真っ直ぐな光を放ち、呼びかけてくる。


〝求めるの?……それとも諦めるの?〟と。


「……わからない」


「……」


「判らないんだ。

 ここで止まるのか、それとも進むみたいのか。

 俺自身の答えが――正解が判らないんだ」


 だから、俺は嘘偽りのない本心を吐露した。

 俺のすべてを唯一知っている彼女なら、何か答えてくれる気がして。

 何かを見つけてくれる気がして、そう打ち明けた。


「……アルク」


「ふごっ!!にゃ、何を?」


「……それを、私に求めちゃ駄目だよ」


「っ!!」


 両頬を固定するように包み込んで、彼女は少し怒ったような瞳を覗かせる。

 なんで、と正直にそう思った。

 瞬間、絶望の波がまたも引き寄せてくる。

 君も、教えてはくれないのか、差し伸べてくれないのか。


「勘違いないで、アルク。

 アルクが出した答えを応援したいから。

 だから、アルク自身が求めだした答えを、私は知りたい」


 優しい笑みを浮かべ、ノルは包み込むように抱き寄せる。

 心地よい熱と鼓動に、早くなっていく動悸が、徐々に収まっていく。


「……道しるべもなく、明確な方法もない中。

 アルクは進んできた。

 長く辛い年月を、たった一人で」


「……」


「確かに、あのハンターは正しいのだと……私は思う。

 魔法なんてものはないし、言葉もない。

 でも、だから私は……それが何?って思ったよ」


「それは……どう、いう?」


「だって、そうじゃない。

 あの正しさは――ジークと呼ばれたハンターが。

 途方もない旅路の中、導き出した答えであって。

 貴方自身の答えじゃないわ」


 優しく語った彼女の言葉に、頭の中に覆われた霧が晴れていく。

 冷めかけていた熱が戻ってきたように、ある言葉が心の底から湧き上がった。

 だが、これは感情のコントロールを失ったがゆえに出てきた身勝手な思いだ、と言葉を押さえつける。


 この答えはきっと間違えてる。

 あれほど否定されたのに、追おうとするなんて馬鹿げている。

 必ず周りを傷つけ、自分にも傷をつける。

 なのに、だというのに……俺は。


「生き物、誰しも間違えを犯さない、なんてありえないわ。

 間違えがあるからこそ、知識と経験を得て、生きる活力を生み出す。

 だから間違えたっていい」


「……っ」


「堪えなくていいんだよ、アルク。

 夢を追いかけることに、間違えないなんてないんだから」


「……っぐ!お、俺。は」


 口を開いた瞬間、情けないがせき止めていた熱が止めど無く溢れる。

 その間、ノルは優しく背中を擦ってくれた。

 抑え込まなくていいと、諦めなくていいんだよと、言葉にならない思いが体温を通して伝わってくる。


 その思いに、俺は導き出した答えを導き出した。

 どれだけ傷つこうと、どれだけの困難が待ち受けようと。

 この答えは――間違ってないはずだから。

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この世界に魔法なんてない。それでも俺は、魔法使いになりたい。 @senyo-ru238

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