ほそぼそとしたせいかつにみずはわきでる

@kiricokimura

【ショートストーリー】ほそぼそとしたせいかつにみずはわきでる

AM7∶00 男は目覚める

布団がシワにならない様に

掛け布団と敷布団の間から

ゆっくりと

滑り出て来る裸の男

男は立ち上がり

ハンガーに 掛けられた

シャツと背広を着る

シャツの背中はくり抜かれ

シャツにボタンは無く

ボタンの場所には

ボールペンで ボタンの様な物が 描かれている

背広を着る

背広の裏地はすべて

剥ぎ取られている

ダンボールに色を塗って作った ネクタイを付け

部屋の中心に 泥をこねて

作られたピラミッドの上に

体育座りをし

おちょこに盛った白米を食べた


AM7∶30

部屋中にサイレンが鳴り響いた

男は泥のピラミッドに片腕を突っ込むと

サイレンは止んだ

男は急いでショルダーバッグを肩に下げ部屋を出た


AM7∶40

男は電線や壁 看板 道行くの 影を踏みながら移動する

やがて駅にたどり着き

電車に乗り込む

通勤ラッシュの中

誰にもわからないように

網棚の上へと移動し

横になり 少し 仮眠を取った 終着駅で 駅員に起こされ

電車を降り 駅を出た


AM8∶34

様々な影を 踏みながら

いつもの公園へと向かった

公園の水道でまず手を清め

そして おもむろにショルダーバッグから

人の顔程あろう たこせんとマジックを 取り出した


AM8∶55

公園の中心に 設置されたタコのすべり台

いくつものすべり台がタコの大きな頭から四方八方へ伸びている

すべり台と すべり台の間には トンネルがあり

トンネルはタコの頭へと繋がっている

男は タコのすべり台の前に立った

AM9∶10

タコのトンネルに小さな女のコが出たり入ったりしている

男は出たり入ったりする度に たこせんにマジックで正の字を書いた

すべり台を滑る小さな男の子 男の子がすべり台を滑る度に 男はさらにたこせんに正の字を書き加える


PM4∶30

男のたこせんには正の字がびっしりと書き込まれ夕暮れが近づきたこのすべり台には沢山の子供達が遊んでいる

サッカーボールを持った数人の中学生が公園に現れ男を見つけ

「あいつまた来てるぞ」

「何をやってる 気持ち悪いやつだな」

中学生はサッカーボールをわざと男に蹴りボールは男の胸の辺りにぶつかった

男の持っていたたこせんは粉々に割れ

砂地にばら撒かれた

「あっ!ごめんおじさん」 中学生のわざとらしい言葉には見向きもせず

男はばら撒かれたたこせんの破片をかき集め砂ごとたこせんを口の中へ

次から次へと詰め込んだ 「うわっ気持ち悪っ」

男はもしゃもしゃジャリジャリと口を動かしながら踵を返しすたすたと公園を後にした


PM6∶10

家に帰った男は炊飯ジャーに 炊かれた白米5合のうち少しだけをおちょこに盛り

ラップをして冷蔵庫に入れた 炊飯ジャーにある残りの白米をしゃもじでたこせんに乗せ もしゃもしゃバリバリと食べ始めた

PM8∶00

部屋中にサイレンが 鳴り響いた

男は片腕を泥のピラミッドに 突っ込むと

サイレンは止んだ

PM8∶15

男は裸になり掛け布団と敷布団がシワにならない様に

ゆっくりと布団へと滑り込んだそして男は唄を歌いだした


マイムマイムマイムマイム マイムマイムベッサソン! マイムマイムマイムマイム マイムマイムベッサソン! マイムマイムマイムマイム マイムマイムベッサソン! マイムマイムマイムマイム マイムマイムベッサソン!

歌う毎に男の布団からは大量の水が流れ出し

部屋は水浸しになった


かみはいった

ほそぼそとしたせいかつに

みずはわきでる


おやすみ

またあした

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