第15話
15 (最終話)
今日は週末の金曜日、二人が生活し始めて6日目である。
もうすぐクリスマスだ。 やはり師走ともなると、世間が騒がしく見える。 そんな中、午後のM・Rコーポレーションの事務所では、3時の休憩中である。
「愛美、宇来。 もうすぐクリスマスだが、お前たちは、どう言う予定で居るんだ?」
事務所の先輩OL、杉本 咲彩(すぎもと さあや) が二人に、来週に迫るクリスマスの予定を、興味ありげに聞いてきた。 それに対し、宇来は。
「私は、夕方に藤堂家へ行って、朝樹さん、妹の未来ちゃん、それにご両親とのクリスマスパーティーをしてから、二人でアパートに帰り、そこで今度は、二人だけの小パーティーを、する予定です」
それを聞いた愛美が、羨ましそうに言う。
「宇来ちゃんいいな~。 しっかりと二人だけの時間が取れて。もう同棲しているんだもんね~」
愛美がとっても羨ましそうだ。
「愛美は、彼氏とのクリスマスやるんだろ? と~ぜんに」
「はい」
「愛美も、多分....、ムフフな夜だな~」
その反応に、愛美の顔が赤くなり始めた。
「え~そうなの? 愛美ちゃん。 じゃあもう、お泊りって事で、充実した夜じゃない」
「宇来ちゃんまで~....」
最近は、宇来も愛美に対しての茶化しが入るようになった。
ニヤニヤしている咲彩。
「お前たち独身組はホントにいいな~。 私なんか、通常の一日と何ら変わりなく、シレ~っと、24日は過ぎていくからな」
それを聞いた、宇来が。
「でも、旦那さんとは、とってもラブラブなんですよね~....、時々社内で会話しているのを聞きますけど、とってもいい関係の二人に見えるんで、私達も咲彩さん達みたいに、いつまでも、仲良い夫婦を目指します」
「お~、嬉しい事を言ってくれる」
今度は、それを聞いた愛美が。
「う~....、宇来ちゃんに先を越された~。私も 結婚したい よ~........、でも、私てっきり、宇来ちゃんが結婚したら、会社辞めちゃうって思っていたから、少しガッカリしていたんだ、だから、ホッとしたよ~」
「ははは。 私と言う、既婚の先輩が居るからな。 結婚6年目で未だにココに居るぞ」
「「頼もしい!!」」
「お~揃ったな」
そう言っているうちに、休憩時間が終了した。
△
「え~! 今日もですか~?」
宇来の声が、業務終了の女子ロッカールームに響く。
どうやら、先週に引き続き、この金曜日も、宇来をメイクして遊ぼうの会 が始まった。
咲彩が一番嬉しそうにしている、もはや、楽しみでもある。
「今日は少し、濃い目に行こうか、愛美」
「は~い」
どうやら、愛美も咲彩と同じく、ノリノリで手分けして、完成に近づいていく。
およそ、行程30分で、宇来の変身が終わった。
いつもの宇来が180度変身の綺麗度なのに対し、今回は今までとは違ったメイクで、妖艶な女を感じさせるメイクだ。
「これで今日は、朝樹くんは完全にイチコロだな。 な、愛美」
「うふふ....、そうですね、これなら朝樹さん、イチコロ ですね」
まだ全く自分の姿を見てい居ない宇来にとって、今の二人の意見に、心配になる。 でもこの後の帰社時、車の バニティーミラー で、見ようと思うのだった。
「宇来のこの姿を見たら、朝樹くん....、ムフフフ....楽しめよ、宇来」
咲彩のその言葉に、宇来は音がするんじゃないかと思う程に、爆発した。
「あ~、 咲彩さん。もう! 宇来ちゃん、顔真っ赤っかですよ」
そうしているうちに、一階の現場作業員の事務所で、出先から帰ってきた職員が
入って来る音がした。
その中に朝樹も居るのだが、宇来がまだ会社内に居るなんて、思っても無かった。
少しして、各々、各現場の来週の準備をして、終わった順にタイムカードに刻印して、次々と退社して行った。
朝樹も週明けの準備が終わり、タイムカードに刻印をして、駐車場に行くと。
(あれ? 宇来の車があるな。今日はまだ仕事なのかな? じゃあ、ちょっと2階の総務にいってみるか)
そう思い、一度駐車場には行ったが、再びエントランスに戻り、そのまま2階にある総務に行った。
「宇来?」
呼んでも数人の残業部隊が居るものの、宇来の姿はない。 すると。
「希さんなら、まだいつもの3人で、ロッカールームに居るんじゃないんですか?」
と、お局さま(失礼!)が、答えてくれた。 そのまま ありがとう と言って、ロッカールームに行ってみるものの、当然男子禁制なので、朝樹はスマホを取り、宇来に電話した。
「もしもし 宇来?」
「はい」
すぐに電話に出た宇来。
「今どこに居るんだ?」
「ロッカールームにいます。朝樹さんは?」
「2階の、休憩室だけど」
「分かりました。もう帰るんでしょ? 今からそっちに行くから」
「おう、分かった」
もう殆どの人が、退社して、人気(ひとけ)が少ない2階の休憩室で待っていると、3人が来た。
その途端、朝樹は驚きで目を見張った。
「う...、らい....」
してやったり顔の、咲彩が、朝樹に向かい、言い放った。
「どうだ、今回の作品は、朝樹くん」
コレには朝樹が絶句した。 それを見ていた愛美も、隣で クスクスと笑みを見せている。
あっけに取られている朝樹に、咲彩が追い打ちの一言を言った。
「帰ってからいきなり襲うなよ、朝樹くん。じゃあ、後は任すから、宇来は好きな様にしていいから」
と言って、愛美と共に、帰り支度のため、ロッカールームに消えて行った。
休憩室の自販機の前で、硬直している二人。
朝樹はとりあえず、さらに2段階ほど大人っぽく、奇麗に仕上がっている宇来の姿を、他の男性従業員に見せたくないとの独占欲的な思考が働き、宇来に。
「宇来、今日は車を置いて、オレの車で一緒に帰ろう、いや、帰ってくれ。心配でたまらん」
全く、咲彩先輩は、時々こんな男心を刺激する、とんでもない爆弾を落としてくれる。 と朝樹は思いつつ、隠れる様に会社を出て、駐車場に向かった。
△
帰りにいつもの様に、急いでスーパーで食材を買い、朝樹は周りに気を使い、ヒヤヒヤしながらアパートに帰って来た。
部屋に入るなり、いきなり宇来を抱きしめる朝樹。
会社から、何がどうなってるんだと思いつつ、気持ちが ボ~...となっている宇来は、いきなり朝樹に抱き着かれて、ぽか~ん としていた。
「もう宇来は俺だけのものだ!」
とか言っている。
暫く経った後。
「朝樹さん、夕食の支度したいから....」
その言葉でやっと気が付いた朝樹は、ようやく宇来を開放し、その後も宇来を芸術品を見るような目線で、見つめていた。
で、いまだに自分の顔を見ていない宇来は、洗面所の鏡を見て、絶叫した。
「きゃ~!!」
突然の悲鳴を聞いた朝樹が、洗面所に走って行くと、鏡に人差し指を向けながら、固まっている宇来が居た。
「これ、だれ?...、何でモデルさんがウチにいるの?」
宇来が何を言っているのか分からなかったので、朝樹が。
「もしかして、メイクしてもらってから、今初めて鏡を見たのか?」
そう、今やっと自分の顔を見たのだ、しかも、咲彩のメイク技術が、普段の宇来とはかけ離れた、美人、に仕上げていたものだから、朝樹は外にいる間、気が気でなかったのだ。
「うん、そうしたら、何処かの女優さんかモデルさんが私の隣にって....、今ココには女性って私しか居ないよね?....、よね?」
「そうだが。 今その鏡に映っている姿が、まぎれもない宇来だ」
開いた口が塞がらない。 今まさに鏡に映っているのが自分と言う事実に、驚きだった。
「だから....、こんなんだから、奇麗な宇来を誰にも渡したくない。オレのエゴだ」
「そんな、奇麗だなんて、私いつもは....」
自分を卑下しようとしている宇来を止め、朝樹が衝撃の一言を放った。
「も、もう駄目だ。 もう我慢できない。 宇来、すぐに結婚しよう、いや、 結婚したい! 結婚する。 コレ、決定な、宇来!」
何というプロポーズ。 色気もへったくれもない、言い回しだった。
何の飾りもない言葉なのに、宇来が答えた。
「はい、ありがとうございます朝樹さん。わたしも同じ気持ちです。 今すぐにでも結婚したいです......、でも....」
何か引っかかる言葉に、朝樹がその事を聞く。
「でも、何なんだ? ハッキリ言ってくれ」
少し言い難そうに、訪ねる様に、宇来が言う。
「一生わたしを幸せにしてくださいね、朝樹さん」
「まかしとけ! 宇来」
こうして、23歳の朝樹と、21歳の宇来との、若い二人の結婚生活が始まるのであった。
□ □ □
あとがき。
この小説をお読み下さって頂いた方々、ありがとうございました。
この小説は、以前投稿した “結婚したい”をモディフィケーションしたリメイク版になります。
以前の作品では表現しきれなかった部分と、辻褄が合わない部分を変更してあり、ストーリーは変わらないのですが、所々が修訂してあります。
それでもまだ疑問に思う箇所があるかと思いますが、先回の作品よりもさらに踏み込んだ部分もあるので、以前の作品を気に入って頂いた方々なら、受け入れて頂けると思い、今回の 改訂版 を弄ってみました。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
雅也
結婚したい (改訂版) 雅也 @masaya0808
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