第16話【外出許可】

 アインスはツヴァイを送り届けた後、一人で個人の魔力量の限界について調べていた。その理由は、

 

「最近魔力量の伸びが芳しくないんだよなぁ」


 最近魔術回路を触っているアインスは、最初の頃よりも魔力量が増えているのだが、ここ数日その伸びが全く感じなくなってきていた。

 本によって、「個人によって魔力量の総量は変わらない」と言うものや「皆魔力量の限界は同じだが、伸び率が人によって違う」と言う物まで様々な仮説があった。

 そして最終的に分かった事は、どちらにせよ自分がこれ以上魔力量を増やすのは難しいという事だった。

 魔法本に書いてあることから推測すると、大体魔法が使える人は軍用級を1発、又は凡庸級を100発使うと魔力枯渇になるらしい。

 そしてどの本にも2日以上魔力の増加が収まると、限界が近いと書いてあった。


 対してアインスは現在、魔術の凡庸級が20発で限界だ。魔力の変換効率を上げればもう少し打てる様になるかもしれないが、既に限界が見えていた。


「もっと上の階級の魔法や魔術を使うのに足りるかなぁ...足りないだろうなぁ」


 現在時点でアインスがマスターしているのは、魔法で生活級、魔術で凡庸級までだ。


 凡庸級は今までとは違い、日常生活ではあまり使わないがギリギリ戦闘向けではない程の物が多い。

 例えば、石で小さめの椅子を作る、湯船に水を張る、木から木炭を作る、火を思い通りの形にする、などだ。これらは生活魔法に比べて格段に使用魔力量が上がる。


 因みに魔法の凡庸級の習得は現在ストップしている。理由は単純にやる事が多すぎるからだ。

 逆に魔術は魔術回路の作成と並行して行なっている為スムーズに進行している。

 

「とりあえずこのまま魔術回路の習得と、魔力操作を精密にしていこうか」


 結局この2つは魔力量に関係ないので、継続して行なうことにした。


 すると後ろから声がかけられた。


「アインス様、ここに居たんですか?お夕食の支度が整いましたよ」


「アスターか、つい本が読みたくなってね...すぐ行くよ」


「そうでしたか、部屋に行ってもいなかったので心配しましたよ?」


「心配をかけてごめんね」


「いえいえ、それでは食堂に行きましょうか」


 前まで若干堅苦しかったアスターも、少しずつ元の関係に戻ってきていた。

 同じくアインスも、前までは少しでも幼稚に見せようとしてやっていた演技だが、今ではすっかり忘れていた。

 

 そしてアインスはアスターと一緒に食堂に着いていた。

 最近は毎回サルビアの次には食堂に着いていたアインスだが、今回は1番最後の入場だった。


「お待たせしました」


「そんなに気にしてないから早く食べよう料理が冷めてしまう」


「そう言うあなたは毎回1番最後じゃないかしら?」


 早く夕食を食べたいコルチカムに、サルビアからの的確なツッコミが入る。


「うっ...そう言われると、何も言えん...⁉︎」


(今回は俺が最後だったし一応フォローしておくか)


「確かに料理が冷めてしまうので、とりあえず早く食べよませんか?僕もお腹が空きました」


「そうね、早く食べてアインスの今日のお話しを聞きたいわ」


 そうしてアインスは今日した事をやんわりと話した。

 両親は「二人でお勉強したり運動したりしたんだな」と思っており、まさか魔術や魔法を教えているとは、ちっとも考えていなかった。

 それほど、魔力を扱えるというのは難しいことであり、教える難易度も高いのだ。


 そしてついでにアインスは思い切ってある望みを言った。


「それと父上僕に外出許可をくれませんか?」


「ん?十分毎朝走っているだろう?」


「いえ、僕が行きたいのは壁n「ダメです!」」

 

 サルビアがアインスの発言を遮る様にして声を荒げた。


「あなたこの前危険な目に遭ったばかりでしょう⁉︎神託の儀でスキルを授かるまでは壁の外へ出ては行けません!」


 いつも冷静でおっとりしているサルビアがこれだけ声を荒げるのは珍しかった。


(分かってはいたけどやっぱりダメかぁ)


 対するアインスも、例の意識を覚醒させるきっかけとなった事件があった為、二つ返事で行けるとは思っていなかった。

 そしてアインスの専属であるアスターも同じく否定的だった。


「アインス様の気持ちもわかりますが...やはり危険かと」


 コルチカムは特に何も言わなかったが、目を瞑って何か考えていた。


(どちらにせよ反対がやっぱり大きくてダメそうだなぁ)


「わかった、もっと強くなってからにするよ!おやすみ」


 今回は潔く引き、そのまま部屋に帰った。

 アインスが何故、突然壁の外に行きたがったかというと、やはり魔物である。

 

「魔物、興味あったんだけどなぁ」


 アインスも、ファンタジー系の定番である魔物は気になるところだった。


「魔物についても調べてみるか」


 そうしてアインスが、次に読む本を決めながら部屋に戻った後、食堂ではコルチカムがサルビアを説得していた。


「サルビア...アインスの外出を許してくれないか?」


「あなた...この前の件忘れた訳じゃないでしょう?どうして...」


「あの件は完全に俺の責任だ...だからアインスに対して申し訳なく思っている部分も確かにある」


「だからって!」


「あぁ今回俺が外出許可を出して良いと思ったのはそれだけじゃない」


 コルチカムに食堂にいるすべての人の視線がいく。アインスが外出で死にかけた事は屋敷内では知らない者がいないくらいには有名な事件だっからだ。


「アインスをあれ以来直接指導してきた指導者として見ていいと思ったからだ」


 これはアインスの戦闘指導を直々に行なっていたコルチカムだからこそ、説得力があった。

 

「私としてはやはりサルビア様と同じく無意味に危険は犯すべきでは無いかと」


 アスターは、サルビアと同じくアインスの体を心配していた。


「その気持ちもわかるが...一番外が怖いのはアインスだと俺は思う」


「ですがそのアインス様が外へ行きたいとおっしゃった筈ですが...」


「俺が思うにアインスは克服したいんじゃないかな」


 コルチカムが出した答えには、特に変な点は無かった。逆に克服したいと考えていたならば、外出を否定されてすぐに退いたのにも頷ける。


「だから俺はアインスの外出に賛成だ」


「しかし...」


 しかし納得がいくとは言え危険なことには変わり無い為、サルビアや、アスターは否定的だった。


 そしてなかなか結果の出ないこの話し合いは、本人のいない場でありながらも夜遅くまで続いたのだった。

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神縁の申し子はその目で何を見る ボンディー @bondy9029

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