第4話
まじかよ。夢でも見てたような不思議な気分のまま、家に帰った。
まあ、でも。悪い気分じゃない。ひとりぼっちなのは変わらないが、誰かの幸せを願う、そんなクリスマスも悪くない。
そう思って着替えようとした時。ああ、くそ、財布がない。最悪だ。多分ケーキを買った時だろう。慣れないことなんかするんじゃなかった。
もう閉店だろうか。あれがないと明日のメシも食えないので、ダメ元でも探すしかない。
家を出て公園を通り過ぎ、洋菓子店まで着いた時には、店の電気は消えていた。
がっかりして帰ろうとした時に、後ろから声をかけられる。
「あの、すみません!財布の人ですよね」
どこかで見たような女性だった。ああ、サンタの店員さんか。よかった。持ってきてくれたんだ。
「ごめんなさい。見つけた時に追いかけようとしたんですけど、混んでて店を空けられなかったんです」
「いえ、あっただけで十分です。ありがとうございます」
申し訳なさそうに謝る店員さんだが、ちっとも申し訳なくなんかない。むしろ、せっかくのクリスマスなのにこんなことに時間を使わせてこっちが申し訳ないくらいだ。
「あの、これ、残り物で申し訳ないんですけど。よかったら」
そう言って店員さんが差し出したものは、ケーキの箱だった。見るからに5,6個は入ってそうな。
「あー、気持ちは嬉しいんですけど、こんなに食えないですよ」
「でも、彼女さんと一緒だったら」
あ、そうか。2個買って行ったのを覚えているんだ。それで、これほど申し訳なさそうにしてたのかもしれない。
「今日はひとりなんです。2つ買ったのは見栄なんです」
優しさに触れたことで、格好つけようとしてたことが恥ずかしくなり、素直に言葉が紡がれていく。
「……よかったら、一緒に食べません?」
その時、夜空に一振りの鈴の音が響いた気がして見上げると、雪が舞い降りてきた。
(お兄さん、僕からのプレゼント)
ちびっこサンタの声が聞こえた気がした。
ひとりぼっちのクリスマス 神楽むすび @kagura_musubi
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