4-81 星見の塔の大比武⑩ 敗者復活戦




 そう、シナモリアキラの生存は間違っている。

 遙か遠くの舌戦、その微かな音を光妖精の長い耳で掴まえながら、死人の森の女王は心の中でそれを認めた。しかし、正しくない答え、選ばれなかった道、死んでしまった運命に再び生を与えるのが死人の森の女王が担う役目だ。

 彼女はその理を貫くための存在。それゆえに悪を為さねばならない。

 けれど冥道とは左道。外道を歩めば正しき英雄に斃されるのが世の定めだ。


「そう、私は英雄にはなれなかった。火竜に敗れ、愛を失い――けれど堕ちた先で、もう一度希望を見つけられた。だからもう離さない。誰にも渡さない。もう決して間違えない。私にはたったひとり、彼だけがいればいい」


 声が聞こえた。懐かしい、ずっと傍にいた半身の笑顔を幻視する。かけがえのない仲間たちを思い出す。

 ――まやかしだ。全てを選ぼうとして、全てを失った。それに、最初から姉妹が並び立てる道理など無かったのだ。だって二人はどちらかが必ず敗北して消えていく定め。相互参照の幻想など都合の良い妄想に過ぎない。子供の頃に見た小さな妖精はいつかは卒業しなければいけない。


 冥道の幼姫がいつか死人の森の女王になるように。

 大人になったら、切り捨てなくては守れないものがある。

 その諦めを抱いてからどれくらい経つだろう。

 世界に広がっていく荒唐無稽な世界法則が、ひどく遠く感じられた。


 どうしてこうなってしまったのだろう。

 『選ばないこと』が自分たち三人が抱いた結論ではなかったか。

 眩暈がした。灰色の瞳が濁り、氷の色へと変転する。蜂蜜色の髪は白銀へと染まって、今の自分がどう在りたいのかが曖昧になっていく。

 

 かぶりを振った。遠い記憶を振り払って、今は前だけを直視するべきだ。

 女王の姿が、元の異形へと移り変わっていく。

 彼女は飛翔していた。忌まわしき屍の右半身には骨の翼。麗しき妖精の左半身には虫の翅。右側の肩胛骨からは人態と鳥態の前肢がそれぞれ伸びており、背後の三本目の腕は上腕骨から繋がる尺骨、手根中手骨という指に相当する部位までにずらりと異形の薄い骨片が連なっている。まるで骨によって翼を再現した異形のアート。再生者の女王が統べる王国では骨を細工した造形芸術が盛んだった。骨組みで動物や花を作り上げることは芸術家にとっての日常であり、王国民にとっての最も身近な呪術。それは神である女王の権能、千変万化する様態を摸倣する営為だったのだ。


 奇形の三手で空を往く。遠い太陰で時が満ち、約束された運命のままに冥道が開かれる。天より舞い降りてくるのは六つの魂。再演の舞台で別れてからすぐのことだが、彼ら六人にとっては永い時を超えた再会だ。一人一人に声をかけ、配下たちを左右に従えて先を急ぐ。ふと、異変に気がつく。


 ――汚染されている。

 六つの内、三つまでがグレンデルヒの影響下に置かれてしまったのはこれまでの状況から理解できていた。しかし、干渉を仕掛けてきているのは地上の英雄だけではない。太陰に用意されていた冥道の裏門――そこから現代に甦った六つの魂には、粘り気のある青い髪の毛がびっしりと絡みついていた。


「やってくれたわね」


 構うものか、と強引に支配力を働かせる。どれだけ外部から干渉されようと、屈伏させてこその女王だ。だれが主人であるのかを、しもべたちにはしっかりと躾けて馴らして調教してあげればいい。ヴィヴィ=イヴロスを喰らい、ティーアードゥを貪って手に入れた絶対遵守の権能は使い魔への究極の支配権である。


 やるべきことは一つ。グレンデルヒの打倒。

 すべてはアキラが生きているという罪悪を赦すために。

 その為だけに、敵の内側に入り込み叛逆の機会を窺い、かつ邪魔な魔女二人を排除しようとしていたのだ。

 だが、今はそのしがらみを忘れて手を取り合うと決めた。


「それでも、最後に勝つのはこの私」

 

 今この時だけ、女神としての幾多の名は捨て、ただひとりの戦士として戦おう。欲しいものを手に入れるための、全力の宣名で。


「この身は森の逍遙者。冥府を統べる死の女王。あらゆる命は微睡み融けて、我が胎内へと回帰する」


 それは、未来に置いてきた女神の欠片としての名前でも、失われた過去にあった英雄としての名前でもない。今ここにいる彼女が新たに選び取ったもの。もう一人の自分とは別人格であるという決別の宣言。彼女は三叉の槍ではなく、剣である。


 女王の姿が燐光に包まれると、その光が銀色の糸となって彼女と六つの魂を覆い隠していく。それはまるで幼虫が蛹となる過程のようだった。生み出されたのは銀色の繭。その内側で、巨大な神秘が渦を巻く。秘されたその場所はさながら生と死の坩堝。原初の混沌にして開闢の小宇宙。魂が一箇所に集い、力ある言葉によって一つの巨大な形へと変貌していく。変身の呪文。最も原始的でありふれた、【エルティアス=ティータの白樺の民】たちが得意とするまじない。再生者として得た多重権能によって、彼女は死者の魂を変質させることができる。


 【変身の権能】こそは最も古き神秘の一つ。

 彼女は上古の妖精アールヴたちのひとり。気紛れな妖精神アエルガ=ミクニーの愛を一身に集めた美姫。同時期に名を馳せた蛇蝎王ハジュラフィンが猛々しき将軍であるならば、こちらは傾国の魔性。


 銀の森を歩き、その木々で玉座を作り出した光妖精の女王。

 妖精は微睡みの中で転生の時を待つ。

 森の民にとって転生とは変態メタモルフォシスに等しい。

 幼虫が蛹となり、やがて成虫となるように。全く別の生命に変化しながらもそれらは同一の魂を有する『同じもの』だ。

 様々な相を持つ未来転生者の現世での名を、彼女は自らこう定めた。


繭衣けんいのルウテト――親しみを込めて、ルウとお呼び下さいね♪」 


 生死の誓言ステュクス生存ウィクトーリア勝利ニケ浄罪フェブルウス豊穣セレスディーテテスモポリス大地キシャル自由フェロニア黄泉の娘ペルセフォネ、そして冥道ディスペータ――幾多の名は全て同じものを指し示している。それら複数のイメージが重なり合う神話の結節点。それこそが『紀』なる神の座。


 死人の森の女王ルウテトは繭の中から現れ出でる。

 それは孵化のようであり、羽化のようであり、また魂が冥道より転生して赤子として生誕するかのようでもあった。自らの意思で人の域に留め置いていたルウテトの全身が本来の姿を取り戻していく。男根ファルスという権威がかけた戒めを砕き、人を超えた女神へと変わっていく。天と地と森羅万象を紡ぎ、相補性の大いなる脈動のただ中で自らを呪力ミームの凝縮体に変身させているのだ。純粋に己の願いを叶える、ただそれだけのために。


 世界に福音が鳴り響き、魂たちが騒ぎ出す。

 大地の王が弦を奏で、亜竜の王が角笛を鳴らし、月の王子が歌を響かせ、予言の王が鍵盤をかき鳴らし、空の王が太鼓を叩いて、夜の王が舞い踊る。

 女神はここに降臨した。


 人知を超越した左半身の美しさが可視光となって第五階層の天を照らし上げる。迂闊に見上げた者はその美貌が眼球が捉えることができる閾値を超えていた為に即座に失明し、精神の強い者であっても脳に強い負荷がかかったことで昏倒してしまう。老若男女問わずその可憐さと儚さに魅せられて次々と恋に落ちていく。


 続いて右半身の直視に耐えない醜さを視界に入れてしまい、あまりの衝撃に蹲って嘔吐を始める。百年に一度の恋はたちまち冷め、愛情は憎悪へと反転し、この現世で最も穢らわしい容貌は心的外傷となってそれを目にした者の悪夢に現れて魂の傷となる。どろどろと溶けて嗅覚を破壊するような悪臭を放つ腐肉、死の恐怖を喚起する白骨、絶対の虚無を内包した空洞の眼窩、反対側の艶やかな蜂蜜色の髪が見る影もなく禿げ上がり、数本残った髪房さえも凄惨な老いに敗北するかのように色褪せている。


 ルウテトを包囲していた鳥デルヒの集団が、魅了と嫌悪を繰り返し体験するという悪夢の循環に囚われて精神を砕かれる。弱体化したグレンデルヒたちは既に擬グレンデルヒ化というよりもただ雑に顔を貼り付けたコラージュのような有様で、女王の宣名によって生じた余波だけで容易く敗れ去っていく。グレンデルヒの顔が弾け飛んで闇妖精たちが墜落していくが、彼ら彼女らはどこからとも無く現れた銀の繭がクッションとなって一命をとりとめる。


「再生者だけではなく、妖精も私の子供たちですからね」


 麗しき光翅と穢れた骨翼を広げ、左右非対称の紀神が飛翔する。

 第五階層の天井付近で、はためく翼が静止した。

 地上の激戦が見渡せる、同時に地上から誰もが見上げることのできる場所で、ルウテトはグレンデルヒと対峙する。彼は女王を見ても平然としていた。中枢たるグレンデルヒだけあって、その実力は他の有象無象のグレンデルヒらとは一線を画する。単純な外見の呪いなど通用する筈も無かった。


 黄褐色のスーツを着た主肢グレンデルヒは、空中で彼女を待ち構えていた。といっても彼単独で浮遊しているわけではない。彼が足場としているのは、下部から呪力を噴射し続けている巨大な構造物。金属製の三角錐。変異の三手という名の古き神の化身。巨大呪具の頂点に足を乗せながら、グレンデルヒが口を開いた。


「なるほどなるほど。その名前は予想外だったな。複数の紀を有する神話構造体。古い女神特有の錯綜した伝承の蓄積。そんな所が正体だと予想していたのだが、まさか妖精とはね」


 グレンデルヒと同じ四英雄であるゼドもまた似たような予想をしていたが、それは正解であり同時に間違いでもある。

 ルウテトは上古の光妖精でありながら、異常なまでの加虐欲求を持つ祝福者でもあり、同時に再生者たちの女王にして罰神を喰らって成り代わった掟の女神でもある。そしてなによりも、未来からの転生を二度繰り返した、極めて複雑な来歴を有する神格なのだ。


 グレンデルヒの背後で空間が歪曲し、【ハイパーリンク】が増援を呼び寄せる。機械によって形成された杖の叡智、その結晶。

 錬金術の精髄たる鋼鉄の飛行機械、その数七体。

 魂の気配を感じ取ったルウテトは、それが有人機械であることを理解して、その所業に片方の眉根を寄せた。


「自分の配下を、強引に人柱にしているの? 趣味の悪い真似を」


 三人の副長たちとは違い、彼ら七人はグレンデルヒ直属の精鋭たちである。拷問、暗殺、誘拐、脅迫といった汚れ仕事を実行する複合巨大企業メガコーポの暗部。甦った六王を収容する魂の器として用意していた切り札を、グレンデルヒはここで切ってきたのだった。


「私の配下だ。どう扱おうと文句を言われる筋合いは無い。それに、配下をいいように使っているのは貴様も同じだろう」


 グレンデルヒは吐き捨てて、部下の魂を贄として動く七体の戦闘機械に命じる。目の前の敵を撃滅せよと。

 鋼鉄の翼を広げたその姿は、伝承に語られし金錐神に仕える御使いに酷似していた。恐らく神話を参照した神働装甲といった所だろう。


「往け、工学天使アレノバルシーアたちよ」


 第一の天使アーウィソーラは血液嗜好症ヘマトディプシアを、第二の天使カウァエールは手淫性愛マノフィリアを、第三の天使ミシェムドーガは寝取られ趣味カンダウリズムを、第四の天使アバトは屍体性愛ネクロフィリアを、第五の天使オルクパレルは獣姦ズーフィリアを、第六の天使パールガレーデは人形愛スタチューフィリアを、第七の天使クレーグレンは幼児行動性愛オートネピオフィリアをそれぞれ司ると言われており、機械天使たちはそれを体現した奇怪な姿をしていた。


「ちゅーちゅー! ちゅーちゅー!」「俺の巨砲が火を吹くぜ! 俺の巨砲が火を吹くぜ!」「裏切りやがって! 裏切りやがって!」「ママの内臓に包まれたいよぉぉぉ」「ケモハーレムである! ケモハーレムである!」「良い子だね~良い子だね~」「バーブバブバブ! バーブバブバブ!」


 響き渡る男たちの声。機械天使はそれぞれが搭乗者の性的嗜好セクシャルプリファレンスを体現した形態をしており、精神加工の呪術によってそうしたひどくプライベートな性質を拡張された彼らは人工的な金錐神の祝福者とでも呼ぶべき存在だ。グレンデルヒの所業に、ルウテトは不快さを露わにする。


「偏見を助長するような精神加工だなんて、卑劣です。待っていて下さい。今、貴方たちも死人の森に迎え入れてあげますからね」


 そして、グレンデルヒの下で変形する三角錐が司るのは悪意と加虐。

 変異の三手が蠢いて、三角の翼が展開する。三角錐の内側に存在していたのは禍々しい人型のシルエット。翼持つ三手の完全者となった鋼鉄が、胴体を開いてグレンデルヒを内側に招いていく。


 それは杖の叡智の結晶、呪術の鎧たる強化外骨格。

 紀械神と称される天形あまがつ

 神を模造するという不遜なる試みの成果。

 地上が誇る天才が作り出した擬金錐神クルグ・ペレケテンヌル

 英雄専用機が本来の搭乗者によって覚醒し、模造の身でありながら本物の神すらも超えた力を発揮する。


「――まあ、本物は修復中で役立たずですしね」


 ぽつりと呟いて、ルウテトは自らも構えをとった。敵は人造の神と天使たち。

 率いるのは英雄。率いられるのは七人の哀れな魂の虜囚たち。数がこちらと同じなのは、恐らく魂を閉じ込める器とするために用意していたからだろう。こちらが敗北すれば、六王の魂はあの機械天使たちによって封印されてしまう。グレンデルヒは六王を機械天使たちの動力にするつもりだったのだ。


 ――思い通りになど、させてたまるものか。

 ルウテトの左右の手に呪力が収束していく。左手には輝ける手綱が、右手には内側が花と柘榴で満たされた羊の角。そして足下では巨大な繭が解けていき、変幻した六王がその姿を露わにする。


 輝く手綱に繋がれた、それは巨獣だった。

 六つの頭はそれぞれ、右手側に土竜、蜥蜴、兎、左手側に虎、鷲、鼠と並んでおり、中央からは屍蝋の右腕が蠢きながら産声を上げて、暗き炎を指先に灯し、五つの燃える瞳を持った第七の獣頭として顕現する。栄光の手を中心とした異形の頭部と繋がる巨大な体は、この世のいかなる獣にも似ていない。


 それは異界の幻獣であるニアの威容。

 かの女は獣に跨る。左の手綱は情熱と生を、右手の器は愛と死を。

 羊の角は捩れて歪み、繭と依り合わさって縦横無尽に空間を走り、巨獣の至る所へと鮮血と共に穿孔し、乱雑に生えていく。その数は十角。

 月経血の緋色に濡れた彼女は太母ババロン

 荒ぶる七頭十角の獣セリアックを従えて、勇ましく天の戦場を駆け巡る。

 

 虚空から出現した八冊の【死人の森の断章】が獣の体表面に食い込んでいく。肉を引き裂いて項がめくられていくと、大量の呪文が解放されて巨獣の体表面を覆っていった。魔導書を皮膚に埋め込んだ巨大生物の全身を、妖しく輝く呪紋が走っていき、莫大な量の呪力を纏った獣が空を疾走していく。


 機械天使たちが電磁投射砲コイルガン凝集光砲レーザーガン、更には低出力ながらも荷電粒子砲ビームガンによる射撃を浴びせかけてくる。閃光の嵐を呪文障壁で遮断し、二種の邪視によって反撃、更には手綱を引いて獣たちに多種多様な吐息ブレスによる攻撃を命令する。


 それに対抗して、蝙蝠のような機械翼を広げたアーウィソーラが影の触手を伸ばす。「ちゅーちゅー! ちゅーちゅー!」膨らんだ先端部分から溢れ出したのは無数のお菓子。触手の中に潜ませていた四つのパウンドケーキが柔らかい障壁となって巨獣の吐息をことごとく吸い込んでしまう。続いて巨大な腕を持ったカウァエールが肩と両足から無数の球体をばらまく。「俺の巨砲が火を吹くぜ!」機動機雷の群れが獣の巨体を捉え、衝撃にルウテトがよろめいた。そこにグレンデルヒの三手による同時攻撃が襲いかかる。雷光を纏った連撃がルウテトを正面から貫く。


「涼しいこと」


 だが、死を統べるルウテトに、単純な破壊など何の意味も持たない。

 【空圧】のみで鋼鉄に身を包んだグレンデルヒを吹き飛ばし、三手のひとつをついでとばかりに引き千切る。周囲を飛び交う小うるさい機械天使たちを死の視線によって一蹴。即死はしないまでも魂に大きな損傷を負った搭乗者たちが苦しみ呻いて墜落寸前にまで追い詰められる。


「剣刃の権能を借りますよ、ヴィヴィ」


 ルウテトは小さく呟いて、腰に右手を添えた。始めからそこに存在していたかのように剣が現れる。剣を佩いた戦女神は裂帛の気合いと共に抜剣し、鞘走った刃が閃光となって中空を走る。呪力の刃が間合いを無視して縦横無尽に空を駆け巡り、機械天使たちを次々と引き裂いていく。


「小賢しい!」


 グレンデルヒが投射した荷電粒子の光がルウテトの刃と激突、壮絶な呪力を天に散らしていく。いかなる手段を使ったのか、グレンデルヒが人造神の翼を輝かせると配下の機械天使たちの破損箇所が時を巻き戻すかのように修復されていく。金属を変成させる錬金術を応用した機械の治療呪術である。


「何度でも、切り裂くだけです」


 ルウテトは不敵に言い放つと輝く刃を振り抜いた。荷電粒子が拡散して散らされていく。剣は骨を削っただけの原始的な造りにも見えたが、その切れ味と強靱さは鍛え上げられた玉鋼の刃をも凌駕する。

 担い手と同様に、剣にも幾多の名が存在する。


 災厄の剣、ラスティミアス、そしてステュクス。


 異界からの引用に覆われたまことの名が明らかになろうとしていた。神秘のヴェールが取り払われ、宣名によってその存在が露わになる。冥府を流れる大河、その名は。


「【生死の誓言アーヴァスキュアレ】!!」


 妖精神アエルガ=ミクニーは彼岸と此岸を隔てる大河を剣に変化せしめ、その支流は様々な神話に流出し、形を変えて『伝説の武器』として様々な者の手に渡った。この刃こそは古今東西の聖剣・魔剣伝承の元型である。


「この剣に誓って、私は必ず勝利する」


 絶対遵守の権能が呪文となって世界に刻まれていった。

 彼女の誓いは絶対だ。ゆえに勝利を誓えば栄光の未来が確定する。

 約束された勝利に向けて、ルウテトは聖魔の剣を振り抜いた。

 剣先から放たれた輝く光の帯が、第五階層の天井を削りながら機械天使と偽りの神を引き裂いていく。



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