4-54 不似合いな結びつき②
(クレイだっ! クレイ=スマダルツォン! 以前、地下迷宮で戦っただろうが! トーナメントにも出場していた!)
(ああ、チリアットとカーインに負けてた奴な。そんな名前だったっけか。【変異の三手】に三人いる副長とかなんとか)
そう言うと、クレイは低くうめいて黙り込んだ。そういえばそんな奴がいたなあと思い出す。何しろここ最近、新しい顔ぶれが多くていい加減覚えるのが大変だったのだ。ちびシューラにネームタグを付けて管理してもらわないと顔と名前が一致しない。
(はい、これネームタグね。アキラくんに覚えて貰いたいなら付けておくように)
(いらんっ)
ちびシューラが「もりぐみ くれいくん」と書かれた名札を渡したのだが、すげなく払いのけられてしまった。なんて悪い子でしょう。園長先生に相談しなきゃ。
どうも俺の指摘が相手の自尊心を傷つけてしまったらしい。ちびシューラのご機嫌なら幾らでも取るが、こいつはただ面倒なだけだな。
(で、どうしてお前がここにいるんだ?)
(知れたこと。俺は陛下の軍勢の一部。ゆえに【召集】の呪術によって、いついかなる時であっても馳せ参じる事が可能なのだ)
とりあえず質問してみると、相手はなぜか自慢げだった。
しかも質問の主旨を取り違えていた。手段じゃなくて目的を答えろよ。
得意満面で胸を張っている姿に、なにやら対抗心を刺激されたがこちらにはそんな材料は無いのだった。悔しい。
(なんだそれ、そんな便利呪術があるのか)
と、俺は使い魔系統の呪術はずるい、とか僻んだことを言おうと思っていたのだが、意外にもクレイはこう返してきた。
(貴様も使えるはずだが)
(え、そうなのか?)
(――高位の使い魔は主の資質に応じた召集形態を有する。杖ならば使い魔の肉体を作り起動させる、邪視ならばその姿を幻視する、というようにな。貴様は二君に仕えるという恥知らずな真似をしているから、その両方ができるはずだ)
ぴんとくるものがあった。
俺はトリシューラの鮮血呪によって『転生』することができる。
事前に用意した俺に似た肉体の価値と、本物の俺という存在の価値を逆転させることによって『新しい俺』を新生させる呪術。
キロンとの戦いで形勢を逆転してみせた反則級の『再現性の不死』、あれこそが使い魔側の言葉で言うところの【召集】なのかもしれない。
とすると、コルセスカも似たようなことができるのだろうか。
そんな経験は無いが――いや、本当にそうか?
(もしかして、今まさに俺はコルセスカに【召集】されているのか)
(そうだよ。
今は役者の代わりにシューラがアキラくんを表現してるけど、とちびシューラが補足してくれる。つまり、今の俺は半ばキャラクターを参照して存在しているコルセスカと似たような存在になっているらしい。考えてもみれば、俺はサイボーグゆえにアンドロイドの魔女の使い魔としての資格を有する。ならば神話の魔女の使い魔として、神話的存在となることはさほど不自然でもない。
ということは、クレイはキシャルの使い魔であるゆえに再生者なのだろう。
グレンデルヒの配下として現れたのはキシャルと同じだが、要するに二人は同じ勢力に属しており、揃って奴に負けて軍門に下っていたということのようだ。
キシャルが反逆をしている今、クレイも同じように動いているわけだ。つまり今のクレイは、グレンデルヒではなくキシャルの配下として俺たちの目の前にいる。
クレイは表情を固くする俺たちには構わず、得意げに言葉を重ねた。
(我ら【死人の森の軍勢】は生と死を行き来する無敵の兵。生殖を司る我らが母の胎内から現れることができるのは勿論、死した者たちが埋められる地の底からも這い出すことができる。その気になれば、火の中や樹木の根、鳥どもの嘴から現れることもやってみせよう)
というかただの自慢だった。
色々と得心がいく説明だったが、俺は感心を表に出さずにこう返した。
(へえ。じゃあお前、ママの腹の中から出てきたばっかりの赤ん坊ってわけだ)
(斬り殺すぞ貴様っ)
簡単に挑発に乗るのはわかりやすくていいなあこいつ。
考えの読めないキシャル本人と直接に言葉を交わすよりもよほどやりやすい。
あるいは、そういったこちらの心理まで見越してクレイを使者として寄越したのだろうか。流石に考えすぎだと思いたいが。
(ふん、まあいい。不本意だが役目を果たさねばならん。貴様ら、我らの軍門に下ることを許してやってもいいぞ。そら頭を垂れろ。額を地面に擦り付けるがいい)
高圧的な物言いに、俺とちびシューラは思わず顔を見合わせた。
いつか、トリシューラにやりこめられた時の意趣返しのつもりなのだろうか。
だとしたら、考えが甘いと言わざるを得ない。
俺たちは以心伝心で頷きあって、じりじりとクレイに近づいていく。
(な、なんだ貴様ら。何のつもりだ)
(何ってお前、ここが敵地のど真ん中ってことに気づいていないのか)
(捕虜にしようか。それとも首だけにして送り返す?)
物騒な事を言いながらさっと左右に分かれてクレイを取り囲む俺たち。
クレイは焦りを覚えたのか、慌てたように言った。
(おい、ふざけるのも大概にしろ! 国際法を知らんのかっ)
(不勉強で申し訳無いが、寡聞にして知らないな)
(勉強しろっ、知らなかったでは済まないこともあるんだぞっ)
もっともなお叱りを受けてしまった。
まだこっちに生まれて八ヶ月なので勘弁して欲しい。ダメか。
とはいえ、ちびシューラは構わずその拳を振ってクレイの頭を叩いている。
結構いい音がした。
(おい、やめろ、やめろと言うのがわからんのかっ)
激昂したクレイは飛び退り、腰を低く落として腕を後方に引いた。
鋭い眼光でこちらを睨み据えて告げる。
(それ以上近付けば、斬る)
(えい)
クレイの言葉を無視したちびシューラが、ぽかりと額を叩いた。
俺もなんとなく便乗して足を蹴っ飛ばす。
声にならない叫びと共に、クレイが怒りの手刀を放った。
しかし。
ぺちり、という音がして、俺の肩にクレイの手刀が命中。
多少の衝撃はあるが、それだけだった。
クレイは愕然と自分の腕を見る。
そこには、指すらデフォルメされて鋭さの欠片も無い棒があるだけだった。
(な、ならば我が剣詩舞による斬撃の嵐で沈むがいい!)
クレイは華麗なステップを踏み、舞という儀式によって大魔将すら切り刻む必殺の大呪術を発動させようとして、重心を崩して見事に転んだ。
それはもう、受け身もとれずに後頭部から倒れた。
ちびシューラが呆れたように、
(あーあ。慣れない手足で踊ったりするからー)
と言えば、俺はうんうんと頷いて、
(この二頭身、本当に動きづらいんだよな。踏ん張りもきかないからサイバーカラテの型も上手くなぞれる自信が無い)
と続けた。
クレイは屈辱に震えながらこちらを睨み付けているが、無力な相手を怖がる理由は全く無い。俺とちびシューラは不穏な表情を作ってじりじりと包囲の輪を狭めていく。相手に対して圧倒的優位に立っている状況というのは気分が良い。
(ほーらほら。こういう時は相応の態度があるんじゃないのー?)
(とりあえずお前、キシャルについて知ってることを吐け。反抗的な態度を見せたら――わかるよな?)
倒れた相手を二人して小突いたり蹴飛ばしたり踏みつけたり威圧的に周囲をぐるぐると回ったりしていると、次第に相手の震えが収まっていった。怒りを通り越して絶望、そして服従へと気持ちが切り替わったのだろうか。
(このクズ主従が――)
ぎろり、と睨み付けられる。
灰色の瞳は誰かを思い起こさせるように美しく、長い睫毛は繊細な面立ちに良く似合っていた。肌も白く、化粧でもすれば良く映えることだろう。正直、心の中で疼くものがあった。レオの美しさや可愛らしさとは別系統の良さがある。
ちびシューラの言う通り、こういう相手の心を痛めつけるのって癖になるな。相手の意思が強そうなのがなお良い。俺の中の嗜虐的な心がざわついているのがわかる。ちびシューラの影響だろうか。今の俺が彼女によって計算され表現される存在だというのなら、それも当然と言えば当然か。
(はー、気の強いコをいじめるのって楽しいなー。まだ反抗的なあたりが躾け甲斐あっていいよねー)
(おい、駄犬。お前の事だよ、自分の立場をわきまえろよ? お前はこれからガロアンディアンの女王に屈伏するんだ。ということは犬としては俺の下に位置付けられることになる。群では序列が絶対だ。わかったなら返事をしろ。どんな鳴き声で返事をすればいいのかはわかるよな?)
ぶち、と血管が切れるような幻聴がした。
クレイの頭が思い切り振るわれて、後頭部の髪房が勢い良くしなる。
と、艶やかな漆黒の髪は刃の様に頭部から切り離されて、なんとこちらに飛来してきた。弧を描いて回転していく髪の束が、俺とちびシューラの頭上すれすれを通過していく。髪はそのままクレイの後頭部に戻っていき、元の馬の尻尾に戻った。
(ちびシューラ、頭の上、耳がっ!)
(あわわ、アキラくん、頭髪が大変な事に! でも大丈夫、シューラはアキラくんが禿げても植毛してあげるからねっ!)
思わぬ逆襲により、ちびシューラは狼耳を、俺は頭髪を切断されてしまう。
俺たちは二人、身を寄せ合って怯えた。
(いきなり暴力を振るうとか、チンピラみたいな奴だな)
(本当だよ! 相手が抵抗できないのをいいことに、暴力で言う事を聞かせようとするなんて、最低なんだからね!)
そんなことをのたまう俺たちに対してクレイはこう返した。
(貴様ら、陛下の命が無ければ本当に殺している所だぞ――いいからふざけてないで真面目にやれ。こちら相手に優位に立とうなどと考えるな。必要最小限の協力だけしてこの状況を切り抜けたら、後はまた敵に戻るだけだ)
どうやら調子に乗りすぎたらしい。ちょっと反省した。
ただ、重苦しい空気を払拭する役には立った。
ちびシューラと二人、お互いの頭を大雑把に直しながら相手に向き直る。
(気を取り直して訊くけど、そっちはシューラたちと一時協力するっていうことでいいのかな?)
(ああ。陛下はまず第一にグレンデルヒの打倒を目指しておられる。故に貴様らと手を結ぶことを決意された。加えて、ラクルラールとやらが貴様らに伸ばしている呪縛の糸を、俺に断ち切るように申しつけられた)
理屈は不明だが、クレイにはラクルラールの支配を断ち切る力があるらしい。
先程は不発だったが、今では慣れたのか腕を素早く振って足下にある左腕の皮膚を浅く切断することができるようになっていた。
――っていうかおいやめろそれ俺の腕だぞ。
嘲るようにこちらを見て嗤ったので、恐らく故意だった。
くそ、こいつ、いつかまた敵になったら思い切りぶん殴ってやる。
なんというか、相手も似たような事を考えていそうだが。
(ラクルラールの目的、グレンデルヒとの関係はこちらも知らん。自分たちで考えるんだな。俺の役目は貴様らが支配されないようにすることだけだ)
(待て、すると他の皆は――)
(そこまでは手が回らん。貴様の左腕と繋がった相手ならばある程度干渉できる可能性はあるが、これだけ複雑に絡み合った糸を全て断ち切るのは不可能だ)
これは、クレイの問題ではなくラクルラールがそれだけ厄介ということなのだろう。俺たちの安全が確保されるだけでもかなり助かるのは事実だ。
そんなわけで、即席の同盟が結成されることになった。
仮想のちびシューラと、その使い魔である架空の俺。
更には何かよくわからん手刀の人。
(クレイ=スマダルツォンだ。今は――そうだな、亡霊としてここにいるということにでもしておこうか)
曖昧な説明だったが、全員かなり曖昧な存在なので違和感は無い。
それよりも、俺は彼の姓名に引っかかっていた。
(さっきも言っていたな。スマダルツォン? ライニンサルじゃなくて?)
(――それが、この呪術儀式の結果ということだ。次はさしずめクレイ・ガレニス・クロウサーにでもなるのだろうさ)
問いに対して明確な答えは返さぬまま、クレイは少しだけ俯いてそう言った。
陰鬱な瞳。俺はそんな彼の表情に、あるかなきかの自嘲と、哀感が漂うさまを見た。どうしてか、気を引かれるものがあった。
状況の変化は幾つもの足音によってもたらされた。
振動が床を伝わってくる。無数の人形に囲まれた俺たちの傍に、見慣れた姿が並ぶ。奇怪な人形を正気のまま当然のものとして受け入れた、糸に繋がった仲間たち。レオ、チリアット、グラッフィアカーネ、そしてもう一人。
「無事――ではないようだが、ただでは倒れない所は相変わらずだな。シナモリ・アキラ。私以外の相手にあっさり殺されては困るのでね。少し安心した」
(カーイン?)
俺の左腕を拾って、断端に軽く触れて意思を伝えてくるのはロウ・カーインだった。まさかこの男までやってくるとは。
レオが柔らかく笑って言葉を繋いだ。
「【召集】のやり方をセージに教えて貰っていたので、呪文を唱えて来てもらいました――けどねカーイン? ちょっと遅いよ?」
表情は微笑みのまま、全く笑っていない空気を発するレオ。
笑顔が笑顔ではないあたりが、ますますトリシューラだった。怖い。
「申し訳ありません。グレンデルヒの群を突破するのに手間取りました」
「だから? 呼んだらすぐ来て。できないならできるようになって」
「承知。精進致します」
「うん。ちゃんとしてね?」
このやり取り、この関係、正直よくわからない。
この二人、なんでこんな事になっているのだろう?
レオにはレオの、カーインにはカーインの人間関係があり、俺が普段生活しているサイバーカラテ道場周辺とは微妙に重なっているようで離れている。
ここ数ヶ月間に二人が積み上げた時間は、俺には共有できないものだ。
なんだろうこの疎外感。
特にレオは、こう、俺の方が先に縁を持っていたはずなのに――というか何だこの感情。独占欲か。全てレオの可愛さが魔性なのがいけない。
(ばかじゃないの)
ちびシューラの冷ややかな視線で我に返る。
そして、冷静になると状況がより一層悪化したことがはっきりとわかった。
助勢に駆けつけたカーインにも、例外なくラクルラールの糸が絡みついていた。それはカーインを伝って俺の左腕に絡みつき、俺たちを支配下に置こうとしていた。周囲に見つからないよう、存在を希薄にしていたクレイが手刀を振るう。
触手のように伸びてきていた糸が断ち切られ、同時にちびシューラが呪文を構築して切断された糸に接続する。
敵の糸をクラッキングすることで、『俺たちが糸によって支配されている』と相手に思い込ませるための措置だ。
成功するかどうかはちびシューラによると五分五分だったが、どうやら賭けには勝ったらしい。糸が再び伸びてくることは無く、ちびシューラが作り出したダミーの俺たちが糸に絡め取られて敵の意のままにされていた。
(あとは、ばれないように劇に干渉できるかどうかだね。冥道の幼姫と上手く連携がとれればいいんだけど)
(どうせ貴様らに大したことはできまい。陛下の動きを邪魔せぬよう、支援に徹することだな)
悔しいが、クレイの言う通りだった。
現状ではそれが最善手だ。
兎にも角にも、状況が整った所で劇が再開される運びとなった。
先程の破綻した一幕に対する言及は一切無く、崩壊した舞台は不気味な人形たちによって急速に修復されていく。
キシャルとグレンデルヒの行方はわからないままだが、恐らく二人とも無事だろう。キシャルは今のところ協力するしかないとして、グレンデルヒの動きが読めないのが気になる所だ。
(シューラとしては、グレンデルヒが操られてたのが意外。いくらラクルラールお姉様でも、上級言語魔術師を支配するのは簡単じゃないはずなのに)
ちびシューラが小首を傾げると、クレイが答えた。
(恐らく役者の方を狙われたのだろう。今まさにこちらが同じ手で追い詰められているようにな。奴のことだ、既に支配権を取り戻すべく動いているだろうが、現在の主導権がどちらにあるのかは不明だ。グレンデルヒとラクルラール、どちらと戦ってもいいように心構えをしておけ)
状況は三つ巴どころか更にラクルラールという三勢力全てにとっての敵が現れた事で混迷を極めている。俺たちと死人の森が協力関係になったことである程度わかりやすくはなったものの、残り二つの舞台でどう状況が変化してもおかしくはない。油断は一切できなかった。
気を引き締めた俺たちだったが、その後のレオたちのやりとりで再び空気が弛緩していく。朗らかなレオの主導で、配役が決められたのだが、その内容が問題だったのである。
「私が――この役を、ですか」
カーインの表情が引きつっていた。
俺は意味が分からずに首を傾げる。
レオは俺の左腕をグラッフィアカーネことグラに渡して、にこりと笑って台本を広げた。役名の一覧には、『カーイン』という名が記されている。
偶然の一致、だろうか。
カーインというのは、この世界の名前では良くある音なのかもしれない。
現に、かつて俺が共に戦いその手にかけた修道騎士カインとカーインは非常に良く似た音の響きを持っている。
俺の前世にだって似たような名前はあっただろう。
だが、カーインの顔が強張っている所を見るとそうではないらしい。
ちびシューラが横から口を挟む。
(あれ、説明してなかったっけ? カーインとかカインって、元は古い時代の勇士の伝説に出てくるんだよ。地獄ではジャッフハリム四十四士、地上ではクロウサー家の守護者として広まっているんだ。高名な人物にあやかって名付けると、その呪力の一部を参照できるから人気なんだよ)
なるほど。同じ人物の伝承が上下の大地で別々に伝わっているってのは中々興味深いな。カーインもカインも、同じ伝承から名前を取ってきていたわけだ。
とすると、今回はクロウサー家に関係した話だから、地上に伝わっている『カイン』が登場するのだろうか?
「今回登場するのは後にジャッフハリム四十四士となるカーインですよ。邪悪なレストロオセが統べるジャッフハリムと戦い、四方の王が一人、北方のベフォニスを倒したというエピソードを演じます」
レオがそう言うと、グラが首を傾げて言った。
「あの、その話は俺も知ってますけど、それってクロウサー家とかいうのと関係あるんですか?」
するとレオは、よくぞ訊いてくれたとばかりに虚空に文字列を展開した。
二つの文字群が重なり合い、高度な呪文が物語を編纂していく。
「『実は関係があった』のです! 『上』に伝わる物語と『下』に伝わる物語、二つの起源が一つなら、それはよく再解釈して語り直せば一つに繋ぐことができるはず――というわけで、クロウサー家の物語とベフォニス退治の物語をくっつけた、新しい解釈のストーリーを上演します。簡単な筋なので、みんなぱぱっと台詞を覚えちゃいましょう!」
レオの言葉に、チリアットとグラが凄まじい剣幕で異議を唱えた。あのカーインまでもが不服を申し立てている。絡みつく糸がざわざわとうねっているのが見えた。しかし、レオは相変わらずの柔らかな微笑みを浮かべたまま、
「でも、こっちの方が楽しそうじゃありません?」
と言って、何気なく細い指先で青い三角耳に触れた。
猫の耳に繋がっている青い糸が、一瞬だけ震えて、そのまま動きを止める。
するとカーインたちの反論が途絶えた。
レオの不思議な言外の威圧感に、返す言葉を失ったのだった。
(奇妙な――少年だな。あれは何だ?)
クレイが訝しげに呟くが、正直俺にもよくわからない。
髪の毛が繋がっている所を見るに、ラクルラールの支配下にあるのは間違い無いように思えるのだが。
「というわけで、カーイン? 当然できるよね?」
「それは――ですが、これは余りにも」
「嫌なの?」
問いに、カーインは何かを堪えるようにぐっと言葉を飲み込んだ。
そして、震える手で台本を手に取って、
「――承知」
観念したかのように、小さく言葉を発した。
その様子を見るレオの瞳の色に既視感を覚えたのは、果たして気のせいだったのだろうか。それは、先程クレイをよってたかって虐めていた俺やちびシューラが抱いていた感情――すなわち嗜虐心と同質のものに見えた。
「僕、カーインには期待してるから。頑張ってね」
レオは、相変わらずの可愛らしい笑顔を浮かべてそう言った。
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