4-37 死人の森の断章6 微睡む太陽と月のパペットリー①




 そして、再び幕が上がる。




「お人形遊びを、しましょう?」


 そんな、賢者セレスの一言から全ては始まった。

 謁見の間で向かい合う王マラードと十三人目の賢者セレス。

 大臣や近衛兵、他の賢者たちは後景に退いてじっと二人の様子を見守っている。


 ところで少女の提案は、ひとつの背景事情に基づいたものである。

 ラフディの棘の民は球神ドルネスタンルフの加護を受けた種族であり、大地の民とも呼ばれている。体力、体格に優れるだけでなく、手先の器用さはあらゆる種族の中でも屈指であり、彼らが製作した呪具は高い品質を誇っている。


 高品質は信用を生み、その信用が多くの人々の間で共有されればされるほど商品価値は上がっていく。ラフディ製であることを示す焼印が付けられた品々には銘柄ブランドの呪力が宿り、価値は際限なく上がっていくのだ。


 近年の評価は、ラフディの守護神ドルネスタンルフの加護が弱まっていることもあり、最盛期には遠く及ばない。しかし品質そのものは維持されていた。

 とりわけ、人形――それもとある特殊な人形は、それが発明された国ということもあり、ラフディの特産品として有名だった。


「世界に名高い我が国の人形作りの技術を利用すると? だが、一体なぜだ」


 王が当然の疑問を口にすると、幼き賢者は柔らかく微笑んだ。


「人の形をしたものは、人に似ているがゆえにまじないの力を持つのです。人形を『似ている』と思う人の世界と、人を元に創り出された人形の世界が重なり合う時、それらふたつの間には強い関係性が生まれます」


「関係性とな」


「ええ。『恋』とはすなわち関係性のまじない。恐れながら、陛下は人と上手に関係を結ぶことができないという病気です。まずは小さな関係を作り上げ、保つ練習からなさいませ」


 マラードは、年少者にしか見えない相手からの無礼ともとれる発言を聞いてしばし考え込んでいたが、やがてその意味を己の中で咀嚼したのか頷いて言った。


「まあよい。たまには子供の遊びに付き合ってみせるのも王の器量というものよ。それで俺はどの人形で、どのような役柄を演じればいいのだ?」


「私が王様を。貴方様は王様に恋する乙女たちを演じてくださいませ」


 意外な答えに目を丸くするマラードだったが、続いての要求には流石に眉を鋭く吊り上げることとなった。


「そしてもう一つ。用意する人形は、このラフディの国宝たる至高の逸品にして下さいな」


「何を申すかと思えば、馬鹿な事を。あれは歴代の国王が王として球神から賜った加護の大半を注ぎ込み、ドーレスタ王家の血と髪の毛を仕込んだ至高の人形である。国事でもあるまいに、軽々しく持ち出せるようなものではない」


 目を見開いて捲し立てる王の答えに、セレスはそれでは仕方無いとばかりについと視線を逸らして応じる。


「あれが無くては私にはどうすることもできません。できないというのなら、お話はこれで終わりです」


 マラードは唸った。

 頭痛を堪えるように目を指で揉み、絹糸のように細い自らの長い髪の毛をいじりながら口を開いた。


「髪糸で繰る人形では駄目か。あれもまた、我ら大地の民が誇る世界有数の人形繰りの業なのだが」


「いいえ。あくまでも、球神の加護を最も強く受けた人形で『儀式』を行うからこそ意味があるのです。つくりごとで現実の貴方様の病を治そうと思えば、王たる器に相応しいまじないの力を持った呪物でなくては不可能なのです」


 少女の答えに、ますます唸り声を深くする王。

 背後から、従僕であるルバーブが王に考え直すように進言する。グレンデルヒに痛めつけられた直後であるためか、息も絶え絶えに王に軽率な行動をしないように諫めるその姿は忠臣そのものといった風情だ。


 だが、王として悩みながらも、今の彼には目の前の少女しか見えていないし、声だって幼く涼やかな響きしか聞こえていないのだ。

 悩みに悩みながらも、マラードはルバーブに言いつけた。


「宝物庫より、【ラクルラール】を持って参れ!」


「陛下、いけません!」


「ええい、この俺の言う事が聞けぬか!」


 傍若無人に振る舞う王に、ルバーブもそれ以上は逆らえず、大人しく指示に従うのみであった。

 しばらくして、肥満体の従僕が持ってきたのは赤子ほどの大きさの人形である。衣服などは身につけておらず、素体が剥き出しとなっていた。


 ――目が、ぎょろり、と。


 そう動いたような感覚をその場にいる全員が覚えた。

 なにも、呪的な作用ではない。追い目と呼ばれる、硝子製の眼球を使用したときに見られる現象で、光学的な錯覚である。


 くり抜かれた眼窩アイホールの中にある内側から止められたまあるい眼球は実際には微動だにしていないのだ。

 にもかかわらず、誰もがその人形に、なにかいい知れない活力、魔力といった神秘的な力を感じていた。


 まるで、がらんどうの筈の内部に血と肉と臓物と魂とが詰め込まれているのではないか、と思わされるような、異形の艶めかしさがその真っ白な、非人間的な裸体にはあったのだった。


 赤い絨毯の上に立たされたそれは、ふらふらとふらつきながらも自立し、更にはひとりでに歩き出した。意思を持っているかの如くに賢者セレスの目の前に立つと、腰を折り曲げて一礼する。見事なお辞儀だった。


 人形は光沢のある不可思議な材質で出来ており、美しく艶やかな髪と非人間的な、性別の無い胴体を備えていた。

 人形には一つの特徴があった。可動する関節部には、本来人体には存在しない部位である『球体』が嵌め込まれていたのである。

 マラードは詩を吟ずるかのような独特の抑揚で人形に語りかけた。


「偉大なる球神とその代理人たる王の名において命ずる。我が願いを聞き届けよ、ラクルラール。今からお前は俺が許すまで、そこな客人に従い、操り人形として振る舞うがよい」


 球神ドルネスタンルフを崇めるラフディにおいて、球形は聖なる形とされる。

 最も強く呪的な力を宿すと信じられている形であり、球形が生み出す力は様々な分野で利用されている。

 球体関節人形は、その代表例なのだった。


 ラフディの棘の民は大まかに二つの方法で人形を操る。

 一つは、髪の毛を糸にすることで、自らの肉体の延長線上として人形を操る髪糸繰りの業。

 もう一つは、球体関節人形の球形に祈りを捧げ、球神の加護によって遠隔操作する球体繰りの業である。


「これが我が国の至宝、【ラクルラール】だ。賢者よ、これで良いのだろう?」


 マラードが問うと、セレスは満足げに頷いた。

 王が人形に命じると、人形は器用に頷いて了承の意思を示す。それから少女に近付いて、もう一度お辞儀する。まるで知性があるかのような振る舞いであった。


「まあ素敵。よろしくね、小さなお人形さん」


 機嫌良く球体関節人形に手を伸ばして、見ている方が慌てるほどに気安く国宝に触れるセレス。一悶着があったものの、なにはともあれ、そうしてセレスの治療――と称した、その実は人形劇が始まったのだった。

 それは大まかな筋書きしかない即興劇である。


 セレスはラクルラールと名付けられたその人形に『お願い』をしてマラード王その人を演じさせる。

 一方、現実の王は大量に用意した女性型の操り人形を使って王を演じる人形に言い寄ったり、言い寄られたりして恋愛の騒動を引き起こす。


 普段の王の振る舞いを反転させたかのような光景。それでいて、人形劇の中の空間では普段通りの王の放埒な振る舞いが再現されているだけの日常が再演されるのみだった。


 マラード王の人形を繰る指先が乱れがちになっているのは、そうした転倒した状況が生み出す現実感の喪失ゆえだろうか。この世ならざる美しい長髪を指先に絡め、無数の女性型操り人形を手繰る手腕はラフディ人ならではの器用さだが、長く細い指の動きが今日ばかりは精彩を欠いていた。


 球体関節人形のラクルラールは用意された筒状衣服に身を纏い、沢山のひだを揺らしながら軽やかに女性型人形たちを翻弄し、玩弄し、飽きるとすぐに次の人形のもとへと渡ってしまう。


 忙しなく動き回る王の振る舞いについていくのに、女性たちは必死だった。

 女性たちは糸によって雁字搦めとなり、ある時は天から伸びる糸に縛られて身動きすらとれずに臍を噛み、ある時は他の女性と糸が絡まって解きほぐせないほどに関係が拗れたりとどこまでも不自由だ。


 しかし、糸によって操られている訳ではない球体関節の王は軽やかに糸を躱しながら跳躍し、操り人形たちの頭上を飛び越えていく。

 誰も、王をつかまえることはできなかった。


 女性たちを操るマラードは、どうしたらこの奔放で身勝手な相手を手元に留め置く事ができるのかに悩み、ほとほと困り果ててしまった。

 ついには、


「ルバーブ! ルバーブよ! 手が足りぬ! 手伝うが良い!」


 と配下に手伝いを命じる始末。

 セレスはにこやかな表情で王を見つめた。

 マラードは真剣に悩み、忠実なしもべに王の気持ちが分からない、どうすればあの奔放な男を留め置けるのだ、などと相談している。


 セレスはそんな王を満足げに見ていた。


 球体関節人形のラクルラールは、かくりと首を傾けて、王の声を摸倣する。


「おお、この乾き、この飢えはどうすれば満たされるのか! この苦しみはいかなる病にも勝ることだろう」


 そっくりな声真似をするラクルラールに、糸に繋がれた人形たちが同情するように擦り寄っていく。


「ああ、なんてお可哀想な陛下!」「私がお慰めいたします」「いいえ私が」「私が陛下に一番相応しいのよ」「どいて、糸が絡まっちゃう!」


 騒がしいその様子に対し、これ見よがしに鼻を鳴らして水を差す者があった。

 あからさまな侮蔑の表情でマラードやセレスたちを見下ろす長身の賢者――グレンデルヒである。


「何を始めるかと思えば、下らぬ。女に振り回されていては男としては二流。自らの力で屈伏させてこそ真の男というものだ」


 グレンデルヒは蓬髪を数本抜き取ると、ふうっと息を吹きかけてそれらを飛ばした。髪の糸は中空を滑るようにして人形たちの身体を絡め取り、マラードの指先から伸びて絡まった糸を切断した。


「何をする!」


「陛下のお悩みを解決したのです。何もかも断ち切ってしまえば問題など最初から起こらない。使い終わった道具は処分すれば良いのです。贅沢な消費は富める者の美徳ですよ、陛下」


 グレンデルヒは言いながら、更なる髪の毛を吹き付けて、糸に繋がれていない球体関節人形に狙いを定めた。


「折角の趣向です。この私が、陛下に真の王者の振るまいというものを教授いたしましょう」


 ラフディ国で随一と言われたマラード王の美しき髪は莫大な量の力が宿っており、鋼の刃であろうと燃えさかる炎であろうと、稲妻の直撃であろうとびくともしない堅固さを誇っている。


 それを断ち切った賢者グレンデルヒの蓬髪に宿る力とは一体どれほどのものなのか。いかに国宝といえど、このままではいいようにされてしまう。ラフディ国の誰もがその事態を恐れ、しかし手出しできずにその光景を見守るしかできなかった。


 髪糸が球体関節の各部に絡みつき、その動きを束縛し、強引に屈伏させようとする。マラードのあくまでも繊細な手付きとは異なり、力のみで己の意思を押し通そうとする剛腕の人形繰りであった。


 光の加減であろうか。

 その時、ラクルラールの黒目が、グレンデルヒを、まっすぐに捉え――。


「ぐぅっ?!」


 異変は、グレンデルヒに起きていた。

 周囲の者は一瞬我が目を疑い、そして幻を見せるまじないの存在を疑った。

 されどそのようなことは無く、それは確かな現実として賢者の身に起こった出来事だとすぐに知れた。


 壮年男性の片腕がぼとりと落ちて、肩から真ん丸な乳房が生えていた。

 否、それは埋め込まれていたと言った方が適切だったかもしれない。

 それだけではない。賢者の肉体は、異形の肉腫によって奇形化していたのである。無数の肉腫はグレンデルヒの関節に生まれ、全て『球形』をしていた。


「う、うおおおおおっ!?」


 腹部が妊婦の如く膨らみ、そこから逆向きに下半身が伸び上がっている。更に片足は片腕に置き換えられており、関節部は異様に膨らんでいて、球形に膨張を続けていた。


 肥大化した眼球もまた球形であるがゆえ、球神の加護が及ぶ。

 左の眼窩からは手が伸びており、右の眼窩からは小さなグレンデルヒ本人の上半身が生えている。それらも異形の球体関節を備えており、さながら肉の樹木のような有様であった。


「何と恐ろしい――これが古き神の怒りに触れた結果か」


 マラードが額に汗を浮かべながら言った。

 守護神は多くの場合人にとって有益な加護をもたらすが、時に荒ぶる顔を見せて災いももたらす。それが神というものだ。ゆえに神は畏れられ、崇め奉られる。


 球体関節人形に絡みついた髪糸が抜け落ち、更には本人の豊かな蓬髪が残らず抜け落ちていく。恐るべき量の髪が床に落ちたかと思うと、それらはどろりと溶けて絨毯に溶けていった。


 絶叫する賢者は神の怒りに身を蝕まれ、必死にもがいている。

 もがけばもがくほど肉体は球形の肉腫に蝕まれ、呪いは膨張して黄色の浸出液と赤い血液が鼻と口から流れていく結果となるだけであった。ごぼり、ごぼりと喉が鳴り、悪臭を放つ液体が大量に流れ落ちる。


「グレンデルヒッ! 一旦代われっ」


 と、その時髪が抜け落ちた禿頭に紋様のような溝が走り、強く発光する。

 途端、大量の肉が一瞬にして弾け飛び、肉の樹木の内側から逃れた巨体の人影が顔を隠しながら飛び退っていく。


「――やむを得まい。陛下は十三人目の賢者を自称する輩にご執心な様子。ここは大人しく退くといたしましょう――ですが」


 女性じみた声質が、限界まで低く抑えられて男性的な響きを作っていた。

 典型的な捨て台詞は、しかし不吉な予兆となってマラード王に突きつけられる。


「私の言う通りにしなかったことを、その邪悪な魔女の言葉を聞いてしまったことを、必ず陛下は後悔します。この王国には、いずれ災いが降りかかる。その時に確たる強さを持っていなければ、『真なる恐怖』に到底太刀打ちできないでしょう」


 そう言い残して、忽然と姿を消したグレンデルヒ。

 残された者たちは緊張の面持ちでその言葉が何を意味するのかを思案する。

 マラード王はというと、糸の切れた操り人形たちが床に横たわる様、哀れに打ち棄てられた様を見て、眉根を僅かに寄せていた。


 美貌の王が自らの手と人形たちとを交互に見て、無言のまま考えにふける様子を、賢者セレスと、それから従僕ルバーブはどこか安堵したように見つめていた。

 そんな時である。

 凶報が舞い込んできたのは。


「皆の者、空を、空を見よ!」


 賢者のひとりが、窓から身を乗り出して、なにやら筒状の呪具で空を覗き込むようにしていた。


「月が、偉大なるドルネスタンルフの化身が翳りつつある! それも四つ全てが、一斉にだ!」


 言葉通り、いつの間にか漆黒に染め上げられた空に浮かぶ四つの月が、残らず喰われたかのように光を絶やしつつあった。

 途端、場が騒然となる。


「月蝕だと?! それはまことか!」「一体何が起きているのだ」「凶兆なのか」「あれは球神になにか異変が起きていることを示しているのでは?」「占星術師殿、あれはどのような兆しなのでございますか?!」


 折良くその場には十二賢者が一人を除いて勢揃いしていた。その中のひとり、南十字の賢者と呼ばれるメドロ・カーマーン、偉大なる占星術師が言うことには、それは大いなる球神ドルネスタンルフの加護が弱まっていることに起因するらしい。


 極めて稀にしか起こらない、それこそ天文学的確率で発生する四つの月蝕。

 このラフディの加護は大きく二つある。

 多数派の大地の民はドルネスタンルフ、少数派の夜の民はマロゾロンド。

 特に人狼たちは両者の中間の種族であり、双方の加護を等しく宿していた。


 四つの月が隠れてしまうことは、双方の加護が消失することを意味する。

 ラフディという国に住まう者ならば天地がひっくり返ったかと思うほどの出来事である。賢者や重臣たちが集まって起きるであろう混乱とその収拾について話し合いを始める中、マラード王は何も出来ずに狼狽えるばかりであった。


 忠実な下僕に頼ろうと手を伸ばすが、肝心の肥満体は既に王を見ていなかった。

 彼は機敏に動き回り、部下である兵士たちに矢継ぎ早に指示を出していく。怠惰な王に代わって実務を行っているのはルバーブであるから、このような状況にあっても家臣団や兵士たちはまずルバーブに話を通そうとするのだ。


「コバルト翁、シェボリズ殿はおられないのか」


 ルバーブは二本足で立つ小柄な人狼に問いかけた。

 目が隠れるほどに毛深い狼は、恐縮するように腰を低くして答える。


「申し訳無いルバーブ殿、火炎侯は今ここにはおらんのだ。折悪しくドラトリア公国に向かわれていてな。お帰りは当分先になるだろうよ」


「ならばコバルト、速やかに軍師殿を呼び戻すのだ」


「それなら、私がひとっ飛びでドラトリアまで行ってくるよ」


 ふわりと浮かびながら、賢者ウルトラマリンが言う。 

 少女の肉体が変幻して、青い翼と蝙蝠の羽を兼ね備えた牡鹿とも鼠とも狼ともつかない奇怪な獣になる。変身者は一声鳴くと、空高く羽ばたいた。


「君たち大地の民は私の友達だからね。こんな時くらいは力になろう。なあに、気むずかし屋のシェボリズといえど、私が言えばすぐに来るさ。彼の一族は昔から私に頭が上がらないんだよ。こっちの方が先に大魔女様に弟子入りしたからね」


 軽やかにそう口にして、変幻する獣が月明かりの無い空へと消えていく。

 ルバーブは賢者に礼を言い、コバルトに向き直って別の用事を言いつけた。


「コバルトよ、私はこの場を離れる。陛下の身をお守りするのだ」


 老いた人狼は重々しく頷いた。


「承知いたしました」


 ルバーブは足早にマラードの目の前に近寄ると、幾つかの決定についての判断を仰ぎ、マラードにもわかりやすいように噛み砕いた説明を添えると、目を白黒させて混乱する王の委任を皆の前で取り付けた。


 それからルバーブは、外敵の侵入や民の暴動などが危惧されるので近衛兵らと共に自室に戻るように、とマラードに告げて、自分は足早にその場を後にした。

 国中が大きな混乱に見舞われる中、王には出来ることが何一つ無い。


 マラードは一人、感情の浮かばぬ表情で虚空を見つめる。ルバーブが去っていったあたりを、じいっと。長く、長く。やがて近衛兵らに促され立ち去っていく王の背中を、静かな灰色の瞳が見つめていた。




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