『おいしい食パンに生まれて』

N(えぬ)

あなたの声を期待して

全身薄茶色の皮に覆われたブレッド長氏は、朝の大ホールに現れて全員の前に立った。

私はそのホールに並ぶ食パン全員の中の一本。いわゆる『3ぎん食パン』だ。

私たちは日々召集されて、様々な用途に使われる。

ブレッド長は、だれがどの用途に使われるかについて細かく説明などはしてくれない。並んでいる我々食パンの列は、無表情で怖く見える検査官の前に通され適性検査をササっと行い、AとかBとかCとか、進路を申し渡されてより分けられる。その時の緊張感は、とても高かった。


私はパンに生まれて、冷まされて箱に置かれ、このホールに召集される時を待っていた。

私の生涯にほかに道はない。このホールでの選別は、避けて通れない決められた道なのだ。


私が選別を受けた一角は、パンがかなり多かった。

集まっている私たちにブレッド長が晴れやかな顔で話始める。

「君たちはサンドイッチになる。自分を誇り給え、サンドイッチは食パンの中でも華やかな世界といえる。ハム、レタス、チーズ、マヨネーズ、バター。そのほかの世界の多くの相手と顔を合わせるだろう。言ってみれば、サンドイッチはパンの舞踏会。いろいろな店で提供されるし、日々のお弁当として、あるいはハイキングなど行楽の伴として選ばれることもしばしばだ。君たちはサンドイッチ用に選ばれたことを誇りとして欲しい。蓋が開けられ包みが開かれ、そのとき人間が一目見て『おいしそう!』と声を上げることも珍しくない。そのことを胸に、決して忘れないでほしい……では、次のステップに進もう」

列の先頭にいた執行官は、それぞれ細長い鋭利なナイフを手にして、

「それでは、サンドイッチ用の皆さんには必要のない耳を落としていきまーす」

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『おいしい食パンに生まれて』 N(えぬ) @enu2020

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