カクヨム甲子園に三度挑戦して

朝田さやか

この夏、私は三度泣いた。

 カクヨム甲子園2020ロングストーリー部門読売新聞社賞受賞。あの発表から、約一年も経ってしまったなんて信じられません。


 今年、カクヨム甲子園2021では、ロングストーリー部門で奨励賞を頂くことができました。応援してくださった皆様、カクヨム甲子園を運営してくださった方々や審査員の方々、誠にありがとうございました。これをもちまして、私のカクヨム甲子園は終了です。一年、二年、三年と三度挑戦させていただき、昨年、今年と二年連続受賞することができました。私はこのコンテストが大好きなので、三年分の想いを今ここに書き留めたいと思います。


 まず一年目。中学生の頃からカクヨムを利用していた私にとって、カクヨム甲子園に挑戦することは当たり前のことでした。ロングストーリー部門に『降水確率百パーセント』『秋風が吹いたら』の二作をエントリー。あの頃の私は、本当に今なら殴ってやりたいんですけど、カクヨム甲子園のレベルの高さも物語の書き方も文則すら知らないような状態だったにも関わらず、謎の自信に満ち溢れていました。


 他の作品を一作も読まず「自分と同じ高校生が書いた作品やろ? 受賞できるわー」と本当に、あいつまじで今すぐ大っ嫌いなレシーブ練習をさせて血反吐を吐かせたいんですけど、そんなことを思っていました。


 もちろんそんな状態で挑んだ一年目は箸にも棒にも引っかかることはなく、順当に落選。中間選考通過者には事前連絡がいくとも知らず、めっちゃドキドキしながら発表のページを開いたことを今でも覚えています。名前がなかった時のショック。(いや、お前当たり前やろ)LINEのステータスメッセージを変えてしまうほどには、しっかり落ち込んでいました。


 そして殆ど中間選考通過作品を読まぬまま、最終選考結果発表の日。大賞作の二作を読んだ昔の(昔の!)私は「なんでこれが?」「私にもかけるわ」と思ったんです。(昔の馬鹿な私に代わって謝ります。誠に申し訳ございませんでした)あの大賞作の素晴らしさも分からないような奴が受賞なんて夢のまた夢の話ですよね。どうぞ皆さん二年前の私を好きなだけ嘲笑してやってください。


 むしろ、その当時の私に刺さったのは朔(ついたち)さんの『残夏』と朔さんの『硝子の中の物語』の二作でした。(というか結局当時は四作しか読まなかった)「めちゃめちゃおもれー、え!? おもろ(語彙力の喪失)」となりまして、私はその頃からお二人に今も変わらぬ憧れを抱いたままなのです。


 そして月日は流れ、一年後。一年前は本当に受賞が嬉しくて嬉しくて仕方なくて、早く皆さんに言いたくて、毎日毎日自作を読み返してはにまにまするという変な女子高生が出来上がっていました。受賞発表の日だって、嬉しさと誇らしさしかなくて、本当に順調に行ってしまった去年の自分が羨ましいです。


 そして、朔(ついたち)さんも朔さんも二年連続受賞。「やっぱりすごい! カッコいい!! まじ推せる(興奮すると語彙力が低下します)」と思いながら、そんなお二人と同時に受賞できたことがこの上なく嬉しかったんです。そして同時に、あの『残夏』と全く同じ賞を私の作品なんかが受賞していいのかとものすごく不安になりましたけどね。(場違い感)


 そんなこんなで、全体的に舞い上がった私は、また自分に過剰な自信を抱いてしまうのです。「小説を書く才能があるんじゃないか」って。自惚れたまま半年間、何十とコンテストに出しまくって、そして全部落ちました笑


 今年のカクヨム甲子園の開催が発表される頃には、私にあった謎の自信はすっかりどこかに行ってしまいました。実は昨年の受賞作『プロトコールが鳴り響く』は本命作品ではなかったんです。それもあって、昨年の受賞はたまたまだったんだと思うようになりました。これは今も思っていることですが、「小説を書く才能があったんじゃなくて、昔からバレーボールを頑張ってきた分が、別の形でやっと報われたんだ。あれは神様からのプレゼントに過ぎないんだ」と。


 だから私は「昨年度受賞者」なんて肩書きは過去の自分にあげて、あくまでもチャレンジャーとして今年のカクヨム甲子園に挑むことにしました。だから、余計なプレッシャーは感じずに、ただ、ラストイヤーだから出し切りたいという思い一心に走り続けました。まず、全落ちの影響で何が面白いのかも全く分からなくなってしまって八方塞がりの私は、先輩方に教えを乞いに伺うことにしました。


 カクヨム甲子園用にTwitterを開設し(大学までは稼働しないやつですが)とりあえず、前年度受賞者の秋冬遥夏さんにカクヨム甲子園へ挑む心構えを聞きに行きました。めちゃめちゃ丁寧に対応してくださって、小説への向き合い方や創作のヒント的なものをいただくことができました。そして、秋冬遥夏さんのカクヨム甲子園へ対する熱を受け取って、スランプだった私の心の中に、何かエネルギーみたいなものが湧き上がってきたんです。


 そういえばその頃、Twitter上で「カクヨム甲子園受賞したら学校名バレちゃうの? やめよ」というような波がやってきておりまして、私はそれに少し怒っていました。「私はこんなに必死にもがいてもがいて書きあぐねているというのに、なんでそもそも通る前提なんだよ!!!」と。「絶対私が受賞してドヤってやる」と思いながら、怒りもエネルギーに変えました。というか、私なんか三年間応募して尚要項何十回も読んでるのに、読まないで大丈夫かと心配になりました。大学受験の要項読まずに失敗しないことを祈っております。


(っと、書くつもりのないことまで書いちゃってる気がしますが、筆の赴くままということで。)


 相変わらず自信はないまま、エネルギーだけが湧いた私が次に赴いた先は朔(ついたち)さんのエッセイでした。校閲をしてくださるということで、私は一応、カクヨム甲子園用に書き下ろした小説を持っていきました。しかし、朔(ついたち)さんが良いと言ってくださったのは、受賞作となる『手のひらの記憶』でした。実は『手のひらの記憶』は、あまりにもカルビー賞に合致しているのに、カルビー賞用に書き下ろした作品では全くないのです。別のコンテストに出す予定で四月から推敲に推敲を重ねて、ちょっと読むのも嫌になってるくらいの作品でした。


 朔(ついたち)さん信者の私はすぐさま方向転換し、カクヨム甲子園に『手のひらの記憶』でエントリーすることに決めました。私にとってその他のどんなコンテストよりもカクヨム甲子園が大事だったので、可能性の高いものを出すことに惜しみはしませんでした。


 書き下ろした新作で挑もうと思っていたのに結局昔の自分が書いた作品になったことに少しの悲しさともどかしさはありました。しかし、朔(ついたち)さんのアドバイスを元に応募期間ギリギリまで推敲を重ねた『手のひらの記憶』が大好きになっていました。


 そして推敲する際に参考にしたのが、朔さんのお言葉です。私は恋しくなったら定期的に朔さんの物語を摂取しに伺っているのですが、朔さんは物語ごとに雰囲気を構築されるのが上手な方で、どうしてるのか質問したんですね。その時のアドバイスを元に作品の言葉選びに気を遣ったおかげで、嬉しくも皆さんに『手のひらの記憶』の描写や文章力について褒めていただけているように思います。


 ラストイヤーということもあり、気の済むように追加で二作書き上げてエントリー。しかし、応募期間が終わった時は不安で不安で仕方ありませんでした。熱いコメントやレビュー、応援の言葉をいただくたびに癒やされると同時に不安な気持ちは増していくばかりで。あまりにも自信を失い過ぎていた私は、誰かからの「良い」の評価すら信じられなくなっていました。昔からそうなんですけど、私って他人から過剰評価を受けがちなんですよね。バレーでもそう、日常生活でもそう。そんな環境が時に自信過剰な、時に自信喪失をする自分を作り上げたのかもしれないんですけど、自分より上の人々を知っている世界においては、自分に自信が全く持てないんです。


 だけど、信じてみようと思うきっかけになったのは山紫水明さんと、朔(ついたち)さんからの「『絶対』受賞する」との言葉でした。「絶対」って「絶対」ありえないと言われますが、本当に見る目のある、すごい二人の「絶対」ならちょっと信じてみてもいいんじゃないか、って思えるようになりました。そして、朔さんや秋冬遥夏さんをはじめ、カクヨム甲子園や創作活動を通して知り合った方々が応援してくださる言葉に励まされて、私は一旦不安を捨て去りました。


 一旦。そう、一旦なんです。ここでタイトルにある三回のうち、一回目の号泣が私に訪れます。他の受賞者の方に中間選考突破の話が来た、という雰囲気が辺りに漂い始めるのです。元々自信がないんですよ? そんなの信じるに決まってますよね? 時期的には連絡が来るにしては例年より余りにも早かったんですけど、いやそんなこともあるやろうって、中間テスト前に号泣して一夜を明かしましたよね、はい。「やっぱり私やあかんかったんやー」って思ったら何もやる気が起きなくて、本当に一回死にました。


 それでも、まあネットなので間違った噂も流れることもあるだろうって思えたのもまた、誰かの言葉のおかげだったんですけどね。その時はリア友と家族にも慰めてもらい、一命を取り留めたわけですが、テストは死にました。だから、中間選考突破が分かったときは飛び上がって喜びましたね。


 二度目、泣いたのは受賞が分かる旨の連絡が来た時です。「良かった、やっぱり信じてみて良かったんや」って、受賞できるような人でもない私が必死にもがいて、受賞を勝ち取れたんだと分かった時の喜びで泣いていました。放課後すぐにメールを見て、その場で号泣してしまって、友達に「どしたん?」って聞かれても言えるはずもなく、教室で変な子なのはいつもなので全然良かったんですが、友達の優しさを感じながら黙って泣きました。


 三度目、泣いたのは「奨励賞」と知った時です。自信がないながらにやっぱり大賞が欲しい気持ちがありましたし、もちろんカルビー賞は言わずもがな。私は小説以外にもメディアに興味があったので、ショートムービー化と朗読は喉から手が出るほど欲しい賞品だった。ああ、やっぱりダメやったんやと分かった時、ほろほろと、気づけば泣いていました。その時の私にとっては、奨励賞じゃダメだったんです。たくさん、落選された方もいて、私が受賞できること自体価値のあることで、それも分かっていました。でも、分かりたくありませんでした。悔しい、と素直に言いたかった。去年の肩書きを捨てたくせに、結局特別賞を取ることも、去年の自分を越えることもできんのんかって本当に自信喪失しました。だから、去年みたいに浮かれっぱなしになることはなく、目の前の勉強に力を入れてただの日々が過ぎていきました。


 それでも、時間が経つにつれて冷静になれました。まず、そう、二年連続受賞ってそれだけですごいことなんじゃないかって。去年の自分がいなければ、二年連続受賞することはできなかった。去年の受賞も完全なるまぐれじゃなかったんじゃないかって、今年の自分が証明してくれたみたいで嬉しかった。それに、朔(ついたち)さんと、朔さんと一緒ですよ? おそろですよ? 朔さんに至っては「特別賞→奨励賞」と完全なる一致。これってうんめ……げふんげふん。ほんまに喜ばしいことですよね。それに、神様がまだだって言ってくれてるみたいで。私の記念すべき初映像化作品はジャニーズにとっとけって言ってくれてるみたいで。


 そして、今日。『手のひらの記憶』につけてくださった講評に感動しました。順不同って書かれているけれど、奨励賞の一番上にあるから二位や。これは言ったもん勝ちなので私が二位です。(ドヤ)去年は二位なんかじゃないんです。読売新聞社賞なんです。それと同じように、読売新聞社賞とカルビー賞はきっと、特別賞に相応しい作品が選ばれるんです。受賞には運も審査員に刺さるかもあると思いますし、奨励賞をいただけたのは、カルビー賞候補作だから通ったんじゃなくて、作品の完成度を見て通ったんだと言ってくださっているみたいでより嬉しかったです。


 何はともあれ、三度も泣きましたが、奨励賞を受賞できて良かったと思います。どうせ私のことだから、大賞なんて取ったらまた自信過剰になってダメな子になっちゃってたと思うので笑笑


 三年間、参加することができて本当に幸せでした。交流する作家さんも増えましたし、何より、こんな私でも誰かに応援してもらっているという実感が湧きました。あなたの一PVが私の心の支えです。ここまで読んでくださっている心優しい方がどれくらいいるか分かりませんが、本当にありがとうございました。


 そして、私は作家になりたいという夢を見つけることができました。結局私は弱い人間なので自分の「好き」を追い求めることしかできないんですよね。「好き」を追い求めた先にあったのが、作家という職業でした。メディアが好きと言いましたが、このデジタル社会で紙媒体にとらわれることなく、常にチャレンジし続ける作家になりたいと漠然と思っています。


 私の大好きな曲「この世界の楽しみ方」(LIP×LIP)の歌詞に「今日は残りの人生最初の日 どう生きるかは考えてみて 忘れないで楽しむことを 幼い君はまだ僕を知らない」って部分があるんです。幼い私が本を読んでくれたから、今の私がいる。幼い私が小説を書き始めてくれたから、今の私がいる。幼い私がカクヨムを始めてくれたから、今の私がいる。幼い私、ありがとう。そして、今日は残りの人生の最初の日です。今の私は、未来の私のために、楽しみながら、全力で走り抜けたいと思います。いつかまた、今日の自分にありがとうと言えるように。


 こんな私ですが、これからも応援していただければ幸いです。再度になりますが、受賞できたのは応援していただける、一度でも読んでいただけたあなたのおかげです。誠にありがとうございました。


二◯二一年十二月二十四日の朝田さやか著

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