第21話 一年生 五月
朝こそ、
二人共、机に載せた装束を前に、スマホを取り出して、
「はーい、それじゃあ、お待ちかね。装束の登録ね。魔術式の子はアプリを起動。
喚起詞は『収納、装束、喚起』ね」
単純明快で良い魔術だと紗江は思う。そりゃあ魔法が衰退していくわけだ。
莉杏先生の合図を皮切りに、級友達が次々と喚起詞を紡ぎ、スマホから黒色の線が伸びて彼女達の机の上から装束が消えていく。
「はい、ここでアプリ画面を確認。ちゃんとストレージに装束は入ってるかしら?」
魔法式を選んだ紗江は、暇だったので隣の蘭のスマホ画面を覗き込む。
デフォルメされた蘭の姿が映っていて、その部位ごとに空欄があり、右側に収納された装束の部位ごとの名称が表示されている。
「RPGとかのゲーム画面みたいだね」
紗江が言うと、蘭も頷き、
「それをモデルにしてるみたい。昔は――ケータイ?とかいうのの頃は、文字で選んで、部位ごとに装着してたって、お父さんが言ってた」
応えながら、蘭は画面をスイスイとフリックし、デフォルメモデルに装束を装着していく。
「モデルに装着させ終えたら、画面下の登録ボタンを押してね。
――できた?
そうしたら、いったんアプリを閉じて、再起動。喚起詞『接続、装束、喚起』」
指示されるままに、級友達が喚起詞を唱えると、魔術特有の黒色の線が伸び上がり、魔道器を撫でて整調され、球となって彼女達を包み込む。
それが解けると、級友達は制服ではなく、各々が用意した装束姿となっていた。
隣を見ると、蘭も身体にぴったりとした黒いボディスーツ姿で、手足を覆う甲からは、収納可能な鉤爪が伸びている。
ハーフバイザーのヘルメットについた猫耳がすごく可愛らしい。動きを確かめるようにフリフリされる尻尾も、蛇腹状の甲で覆われていた。
「おー、おランちゃん、バトルキャットモード!」
紗江が嬉しそうに手を叩けば、
「ふしゃー」
と、ノリの良い反応でポーズを取ってくれる。すかさず紗江はスマホで写メった。
前の方の紅葉に視線を向けると、彼女は灰色のローブ姿で、肩から黒いマントを羽織って、三角帽子を被っていた。
「魔女っ子紅葉ちゃん、うぇーい!」
本人の許可を取らず、拡大をかけて写メる。
気づいた紅葉が顔を真っ赤にして遮るように手を振っていた。
しかしばっちり近影は撮影済みだ。
後で先輩達に送ってあげよう。
「それでは続いて、この組で唯一、魔法式を選択した紗江ちゃん。やってみましょうか?
みんなも、これから魔法式に乗り換える場合もあるかもしれないから、やり方は覚えておくように」
莉杏先生の言葉に級友達の視線がいっせいに向けられ、紗江はたじろぐ。
「紗江ちゃん、うぇーい」
抑揚のない声で言って、蘭はスマホを構えて準備万端だ。
「まずは
言われるがままに魔道器官に力を込めて、手順を踏んでいく。
途端、装束の上にかざした家紋が周りだし、次いで装束が解けて吸い込まれるように消えた。
「これで関連付けは完了。次は全身を覆う規模の
屋敷の蔵で一度着ているから、イメージは容易かった。
「響け、
唄って
胸元がスカスカで寂しい、ミニスカートのような緋袴のアレだ。
「巫女っ子紗江さん、ひゅー!」
先程の仕返しとばかりに、紅葉がスマホで連射していた。
級友達も、互いに写真を撮り出す。
全員が装束姿となり、ちょっとしたコスプレ撮影会のように騒がしくなってきた教室で、それでも毎年の事で慣れているのか、莉杏先生はある程度、みんなが満足するのを待ってから、装束を解除するよう声をかける。
魔術式はスマホで解除ボタンをタップ。
魔法式は元の衣装をイメージだ。
制服に戻った生徒達を前に、莉杏先生は教壇に両手をつく。
「今日からさっそく
装束姿ではそれらが区別できない為、それぞれ校章が刻まれた腕章が配られるのだそうだ。
「また、腕章には救難信号を出す魔術も掛けられているから、危険な時は、校章部分を傷つけるように。それで学校と防人駐屯地に連絡が入るわ」
莉杏先生の説明に、みんなが元気よく返事する。
ちょうどチャイムが鳴り、莉杏先生は生徒達を見回す。
「それじゃあ、くれぐれも上女撫子として恥ずかしいマネをしないようにね」
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