第22話 一年生 五月
部活・異界探索解禁日だけあって、放課後の一年生の廊下は浮足立っていた。
みんな、ショッピングにでも繰り出すノリで、わいわいこれからの予定を話している。
紗江達、一年桜組の三人娘もまた、
「おろ? 居ないね」
教室に首を突っ込んだ
「あ、なんか急ぎの用で先に部室行くって」
スマホで
「抜け駆けですの!? ならばわたくし達も急ぎますわよ!」
校舎と校庭の西側。寮の南に位置する部隊待機棟は、この学校のさらに西にある、異界封鎖地とを隔てる高く厚い壁を背に建てられている。
部隊ごとに割り当てられているその建物は、ひとつひとつが高さ一〇メートル、幅三〇メートル、奥行き五〇メートルほどの大型プレハブで、甲冑の出入りができるよう、前面は大きく開け放たれていた。
その内部、奥手には駐騎用の大型座椅子が四つ設置され、メンテナンスができるよう、天井に設置されたローラーからフック付きの鎖が下がっている。
その手前には具足用の懸架台が設置され、今は一領だけがだらんと吊り下げられていた。
大きく開いた入り口のすぐ右手には、ミーティング用の小型プレハブが置かれている。
「こんちわー」
そのプレハブに片手を挙げて紗江達が飛び込めば、中央に置かれたテーブルに突っ伏した絹が出迎えた。
「あ~、みんな。ごきげんよ~」
力なく、呻くように挨拶する絹に、三人は怯む。
「みんな、聞いてよー。天恵先輩も咲良ちゃんもひどいんだよー」
ああ、これは面倒くさいやつだ。
テーブルに各々鞄を置いて、絹を見下ろせば、彼女は中央に置かれた茶請け皿に入れられた、小袋入りのお煎餅を剥いて、バリバキと噛み砕き始める。
「見てよ、これ! もー!」
お煎餅を口に入れたまま差し出されるメモ紙には、ボールペンの字でもわかる達筆で、
『今日、ようやく部に甲冑の貸与が許可された。動作試験で中層に行ってくる。随伴は咲良君。データ取りに茉莉君も同行させる』
とあって。
「わたしがちょーっとお掃除当番で遅れてる間に、みんなで行っちゃったんだよー」
「お絹先輩、また置いてけぼり?」
「そーなんだよぅ!」
蘭が小首をひねれば、絹はペシペシテーブルを叩き、ヤケ呑みのようにお茶を一気にあおった。
「ところでみんなは、これから
「そのつもりで来たんですけど……
茶請けからお煎餅を取り出しながら尋ねる紗江は、小袋の中で割り砕いてから欠片を取り出して口に放り込む。地味に茶道の授業が活きていた。
「まずくはないよ~。一年だけで行く子達もいるしね。
あ、もし不安ならわたしも一緒に行こうか?」
元々、先輩達にはついて来てもらいたいと話していた三人は、その申し出を喜んで受け入れた。
「それじゃ、準備だー」
宣言と共に
桜色の狩衣に紺袴、片胸当てというスタイルだ。
「お絹先輩、魔法式に切り替えたんですのね」
「お、もみっちゃん、わっかるー? GWのお稽古で感覚が掴めたからね。家紋を出せるようになったから、さっそくやってみたんだよ。女伯さまさまだよね」
「あたし達はまだ。でも頑張る」
蘭が両拳を胸の前で握りしめ、紅葉も強くうなずく。
紗江達が装束を出している間に、絹は懸架台に行って具足を装着した。
準備を終えた四人は、部隊棟を出て、居並ぶ他部隊の棟を左手に北側を目指し、途切れたところで左手に折れ、学校の西にある分厚く高い外壁に設けられた通用門に辿り着く。
甲冑用の大門と人用の小門が並んでいて、四人は当然、小門をくぐり、異界封鎖地に踏み入った。
侵災――異界の魔物が溢れた場合に備えて、四方を高い外壁に囲まれたそこは、やはり侵災時の一次対応、つまりは初期戦闘に備えて、広く敷地を取られてガランとしていて、遠く、二〇〇メートルほど向こうに大きな箱型の建物が見えた。
そこを目指して歩く、上女の生徒。南側からは上男の生徒もやって来ている。
「これが異界封鎖棟でーす!」
建物までやってきて、絹は両手を広げて宣言した。
高さは二〇メートルほど。横幅は五〇メートルほどはあるだろうか。
並んだ窓からは、防人の待機所も併設しているのか、
分厚く大きな鉄扉の横には、やはり人用のアルミドアがあり、絹の案内に従って、それを押し開いてくぐると、そこは探索者受付の大ホールになっていて。
甲冑で来た人も駐騎できるように、白線で区切られた区画もあった。
「はい、じゃあ、あそこで探索申請の受付をしてもらおうね~。と言っても、名前と探索予定範囲、帰還予定時刻を書くだけなんだけど」
基本的に予定時刻には必ず帰還しているという前提の元、それを十分過ぎても帰還していない場合は、トラブル発生と見なされて救助隊が派遣される。
なにもないのに救助されるのは上女撫子の恥なので、絶対にオーバーしないようにと絹が笑顔で教えてくれた。
さすがに探索解禁日という事もあって、受付は混み合っていた。
上女の生徒と上男の生徒は、混雑を避けるために別々に並べられているのだが、それでも十分程待たされて、ようやく受付を終える。
莉杏先生が授業で言っていたように腕章が渡され、そこには北西に弧を持つ扇形をした上洲の略地図に撫子の花という、上女の校章が刻まれていて、紗江達はいそいそと、絹は慣れた様子で左腕に着けた。
「それじゃこっちー」
促されて絹に続き、甲冑でも歩ける広い回廊を進めば、やがて見えてくる
「へー、これが……」
二度も巻き込まれていながら、外から
一〇メートルほどの黒色が渦巻いてぐにゃぐにゃと揺れるそれは、じっと見ていると酔ってしまいそうに思える。
今度はそれほど待たされずに順番が来て、絹はみんなに振り返る。
「今日は初めてだから、上層から! 手慣らしと思って、気楽に行ってみよー」
「おー」
そうして四人は
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