第56話 最終話 塀の外へ
大統領に雇われていた先生達もいなくなり、今シューケットには心理カウンセラーの先生が10名ほど来ている。それぞれ親が迎えに来る事になっているので、それまでは勉強もせず自由時間、修学旅行の気分だった。
「キラ、お前ボロボロだな。怪我なかなか治らないな。」
「そりゃそうだろ、あいつと死ぬ気で戦ったからな。」
「結局どっちが勝ったんだよ?」
「同時ダウン。あいつやっぱり強いんだよ。でもなんか今までのイライラした分を全部ぶつけたからスッキリしたけどな。あいつはどこに連れて行かれたんだろうな?少年院か?更生したらまた会いたい気もする。」
「物好きだな。」
キラには言えないが小春川は元大統領の息子だとバレて隔離されている。報復も考えられ、最悪は処刑されると言われている。出来る事なら助かるといいのだが…。
「そう言えば飛鳥、もう本当の家に戻っても問題ないんだろ?どうするんだ?」
「ああ、色々考えたんだけど…飛鳥のままでいる事にするよ。」
「いいのかそれで?」
「俺が飛鳥じゃないと生きていけない母親がいるからさ。すげー可愛がってくれて。どちらの家も行き来できるように父に頼んでみるつもりだ。」
「そうか。」
「空の代わりに面倒を見てもらいたい人もいるし。」
「え、誰?」
「キラ!飛鳥!助けて!」
後ろを振り返ると大きなリボンをつけた亜子が走ってきた。
「まさか?」
「その通り。ちょうどいいだろ亜子も両親いないしさ。昔俺の親、女の子欲しがってたし。」
「アゲハがしつこいの!どうにかして!」
「亜子待ってよ」アゲハが追いかけて来た。
亜子がキラの影に隠れた。
「やだ。私着せ替え人形じゃないんだから。」
「えーいいじゃなない。亜子かわいいんだもん。」
「こんな大きなリボン恥ずかしい。」
「かわいいよ。ねえキラ。」
「え、あ、うん。」
「ホント?」
「かわいいよ。」
亜子がモジモジしている。
「はい、そこまで!亜子は私のだからキラにはあげない」また亜子は逃げて行き、アゲハが追いかけて行った。
「アゲハって俺の事好きじゃなかったっけ?」
「まあそんな事言ってたけど、キラより俺の方がかっこいいってわかったんじゃないか?」
「えっどう言う…まさかアゲハと付き合ってるとかないよな?」
「さあ、どうかな」ニヤッと飛鳥が笑った。
本当の事を言うと、アゲハの恋愛相談を受けているうちにだんだん距離が近づき、お互い意識し始めた状態だった。俺はずっとアゲハが好きでいたが、キラの事を好きなのを知っていたので告白するつもりもなかった。でも苦しんでいるアゲハに我慢できなくなり告白してしまった。それからアゲハが少し変わってきた気がする。根気づよく待つつもりでいた。
小春川に付いていたと思っていたアゲハは実はこちらの味方だった事を後から知った。あまりにも演技がうま過ぎて全然わからなかった。亜子の事が好きらしく、ずっと追いかけ回している。亜子もなんやかんやいいながら楽しそうだ。
シューケット学園から出る日が来た。大変な事もいっぱいあり普段の生活では味わうことの出来ない経験をした。だからこそ普通の生活がどんなに楽しいのかわかる事ができた。これからは普通を楽しもう。亜子ともデートしたいし。
キラ、飛鳥、亜子、アゲハは手を繋ぎ門の外へ一歩を踏み出した。
それから3ヶ月、キラは亜子は公園でシートを引いてお弁当を広げていた。
「すごいね。これ全部作ったの?」
「うん、お母さんに教えてもらった。」
「さすがに上手いね。あれ…この卵焼きみたいなのはすごい形してるね。」
「味は美味しいから食べてみて。」
「うん」口の中に入れた瞬間異常な甘さと苦さに吐き出した。
「あれ?」
「これ作ったの亜子だろ。他の料理はお母さんが作ったんだろ。」
「え…バレたか!」
「やっぱりな。」
「ごめん。」
「そんなに早く上手くなるわけないから、ゆっくり上手くなっていけば良いんじゃない?」
「優しいねキラ。」
「俺の事好き?」
「…。」
「また照れて言えないのか。いつになったら好きって言ってもらえるんだろ。」
「あ、キラあれまずくない?」
「え、別に不味いものは卵焼きぐらいだけど…。」
亜子がフードを深く被り顔が見えないようにして走り出した。
「えっどうした?」
亜子が走っていく方向を見ると、刃物を持った男が通行人を斬りつけようとしていた。
「通り魔?」
刺そうとした瞬間、亜子が飛び蹴りをしてあっという間に押さえつけ、さらに縛り上げ笑顔で戻ってきた。
「捕まえた〜。」
「おい、危ないだろ!」
「本当にそう思ってる?」
「いや、全然」と笑った。
向こうのほうから警察官が走ってきたのが見えたので、
「面倒だから亜子逃げるぞ。」
シートはそのまま、お弁当だけ持って逃げた。
次の日のニュースはフードの女の話題で持ちきりだった。
飛鳥とアゲハから連絡が来て笑われたのは言うまでもない。
幼い支配者たち 木風 詩 @kayoita
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